第壱章
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茉希から上着を受け取り、羽織りながら、私はシンラとアーサー、そしてバーンズ大隊長の組手を静かに見つめた。
「バーンズ大隊長が自ら組手に参加されるとは……」
「絵馬さん、研修生時代にバーンズ大隊長と組手をされたことはありますか?」
茉希の問いに、視線を向ける。
「うん、何度かあるよ……片手で数えれるくらいだけどね。バーンズ大隊長はあまり組手には参加しないから、こうして見るのも珍しんだ」
「私も、あのバーンズ大隊長の組手をこの目で見られるなんて……」
茉希はごくりと固唾を飲み込み、私からシンラたちの方へ視線を移す。私も同じように目を向けた。
「はぁあああ‼︎!」
アーサーが勢いよく先陣を切って、刀身のない剣から炎を放ち、バーンズ大隊長に向かって走り出す。しかし、バーンズ大隊長の手の動きに何かを感じたアーサーは、足を止め、2、3歩後ろに下がって呟いた。
「その手でどうするつもりだ……」
「思いっきり来なさい。でないと、この組手の意味がなくなってしまう」
「……腕が失っても知らないぞ……」
アーサーが言うと、バーンズ大隊長は余裕のある口調で答えた。
「その程度の炎の剣では私は斬れんよ。安心したまえ」
バーンズ大隊長の返答を聞いた茉希は、戸惑いながら呟く。
「その程度って……アーサーのエクスカリバーは剛鉄も両断できるほどの剣よ」
「剛鉄を両断……すごい火力の持ち主なんだね、アーサーは」
新人大会でアーサーの能力を見たことがある。彼が簡単に競技施設の壁を切り抜いていた場面がふと思い出される。アーサーの持つ刀身のない剣から炎を出す技名は、エクスカリバーというのか。
茉希の言葉によって、アーサーがどのような能力を持っているのかを少しだけ理解した。アーサーはバーンズ大隊長に向かって駆け出す。
「後悔するなよ‼︎」
彼のエクスカリバーがバーンズ大隊長を捉えようとする。しかし、バーンズ大隊長は微動だにせず、その場に立ったままで腕を少し上げた。その光景を目の当たりにした茉希が驚いて叫ぶ。
「避けない⁉︎」
エクスカリバーとバーンズ大隊長の手が接触した瞬間、バチという音が響く。バーンズ大隊長の手はエクスカリバーによって両断されることなく、バチバチと音を立てながら互いに反発しているのが目に入った。
「一撃必殺の剣……二手目はなしかな?」
バーンズ大隊長はエクスカリバーを素手で掴み、アーサーの身体ごと軽々と吹き飛ばしてしまった。吹き飛ばされたアーサーが地面に叩きつけられた瞬間、シンラが叫ぶ。
「何やってんだ⁉︎手ェ抜いてんじゃねェ‼︎」
地面に落ちたアーサーの頭上からシンラが飛び出すと、回し蹴りをバーンズ大隊長にぶつける。しかし、その攻撃もバーンズ大隊長の腕によって防がれる。そして、その攻撃の威力を物語るかのように、爆風と砂煙が舞い、照明灯が大きく揺れた。
続けて、地面に着地したシンラはそのまま第三世代の能力を足に発動させ、再びバーンズ大隊長へぶつける。しかし、またもやバーンズ大隊長の手によってその攻撃は防がれてしまった。
「避けないと死にますよ‼︎」
シンラはもう一度回し蹴りを繰り出し、バーンズ大隊長の腹部に攻撃を炸裂させた。シンラは成功したと思ったが、バーンズ大隊長は後ろにのけ反ったりよろけたりすることなく、まるでその攻撃を受け流すかのようにその場に立ち止まっていた。
「君はなぜ、消防官になったんだい?」とバーンズ大隊長が彼に問いかける。
シンラは怒りを込めて感情の赴くまま、バーンズ大隊長に向かって叫んだ。
「俺の母さんと弟は家事で死んだ‼︎人体発火現象の謎を解明して二度と、あんな火事が起きないようにする‼︎炎の恐怖から世界を救うヒーローになるためだ‼︎」
「まだまだ遠いな」
バーンズ大隊長の冷たい目がシンラを見下ろし、その言葉に重みが加わる。次の瞬間、バーンズ大隊長がシンラを蹴り飛ばしたことで、その組手はあっけなく終わりを迎えた。
組み手が終わり、金網の外で観戦していた第1小隊のタマキが場内に入ってきた。彼女は星宮中隊長のところへ駆け寄る。その瞬間、タマキの「ラッキースケベられ」が発動するかと思いきや、星宮中隊長が彼女を抱き上げてしまったため、その心配は無用だった。丁寧に地面に下ろされたタマキは、研修生たちへ向かいながら、第1の教会内を案内すると説明し始めた。
私の隣にいた茉希は、「火縄中隊長に連絡してきます」と言って、その場から離れていった。さて、この両手に抱えた防火服をバーンズ大隊長に返却して、そろそろ場を退場しようかなと考えていると、カリムがこちらにやって来た。
「で、ワガママ女はどうする?」
「”で”って、何?くどくど野郎」
私はカリムを見上げる。彼の考えていることが読めない。カリムは私を見下ろしながら、何か思案するように眉を寄せていた。
「……この後、少し時間はあるか?」
「まぁ、防火服を返したら後は帰るつもりなんだけどーー」
「時間あるな。少しお前に話したいことがある。後で聖陽オベリスク前に来い」
他の隊員に話が聞こえてほしくないのか、カリムは少し早口で言って、何事もなかったかのようにカリムはシンラたちの方へ向かっていった。すれ違うように、火縄中隊長との連絡を終えた茉希が、タタタと足音を立ててこちらに戻ってきた。
「絵馬さん、この後どうされますか?私は、今から第8に戻ろうかと思っているのですが……こちらに寄られますか?」
「……今日は止めとくよ。この後、予定が入っているから」
「もしかして……第1のフラム中隊長とデートですか?」
「えっ?」
茉希は私の顔を見て、口元をわずかに緩ませる。
「だってぇ、フラム中隊長と嫌味を言い合う仲だと言ってますが、喧嘩するほど仲が良いって言いませんか?それに……今だって私が連絡から戻る途中に、何やらお二人で話されていたじゃないですか」
茉希の頬が微かに朱に染まったかのように見え、「ロマンティック」と呟く。私は勢いよく首を振る。
「いやいや!そんな仲じゃないから!」
「じゃあ、本命は桜備大隊長ですか?」
「茉希、桜備大隊長ともそんな仲じゃないから」
「またまたぁ」
その笑顔を向けられると、私の主張は効果が薄いことを実感する。よし、とりあえず、先にバーンズ大隊長に防火服を返しに行こう。茉希の誤解に着いては、また後で考えることにした。
「バーンズ大隊長に防火服を返しに行ってくる。それと、本当にカリムと桜備大隊長はそんな仲じゃないからね、私!」
茉希に訂正するのを半分諦めながら、私はバーンズ大隊長の方へ小走りで歩き出した。背後には茉希の視線を感じながらも、自分の気持ちをしっかりと整理することが必要だと思った。中にはまだ整理できていない感情もあるけれど、今はそれを置いておこう。まずは、バーンズ大隊長に防火服を返さなければ。
「バーンズ大隊長!」
私の呼びかけに、バーンズ大隊長はシンラの時とは違って、冷たい目ではなく普段通りの視線で私を見下ろした。
「どうしたかね?十二小隊長」
「遅くなりましたが、防火服を返しに参りました」
私は両手に持った防火服をバーンズ大隊長に手渡す。防火服を受け取ったバーンズ大隊長は、私の正装を見て、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あぁ、十二小隊長。その服、似合っているぞ」
「えっ⁉︎あ、ありがとうございます……」
バーンズ大隊長に褒められ、私は少し恥ずかしくなり顔をそむける。この正装は、私が訓練校の卒業記念にいただいたもので、バーンズ大隊長自らの贈り物だ。普段は皇国の大事な行事などでしか着ない。通常は法被を着用し、第7の書類を届けることがほとんどなのだ。だから、教会内でカリムと会ったときも、私の服装を見て驚いていたのだろう。
「なるほど。絵馬が見慣れない服装をしていたのは、バーンズ大隊長の贈り物でしたか?」
「リィ中隊長」
私たちの会話を聞いていたリィ中隊長がこちらに歩み寄ってきた。私の姿を改めてじっくり見つめて、微笑む。
「流石、バーンズ大隊長が選んだ贈り物ですね。絵馬、似合ってますよ」
「お二人して、褒めないでください……こう、なんて言いますか……恥ずかしくて、顔が爆発しちゃいそうです」
「そうなのですか?なら、爆発しそうになった時は、カリムの氷で冷ましてもらいましょう」
カリムの名が出た瞬間、私は顔を上げて、大きく首を横に振った。
「いや、それとこれは別です!」
カリムの名前が出たおかげで、顔の熱がスゥと引いていくのを感じる。バーンズ大隊長とリィ中隊長の顔を見た瞬間、私の表情はどうやらカリムに対する嫌悪感が浮かんでいたらしい。バーンズ大隊長は思わずフッと笑い、リィ中隊長はハァとため息を吐いた。