第壱章
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「来いよ」
「言われなくてもねッ‼︎」
槍を構えたまま、私はカリムに向かって突進した。
「踊れ!火犬‼︎10匹だ‼︎」
空中で絵を描き、その絵から炎を纏った犬たちが唸りを上げてカリムに襲いかかる。しかし、カリムはハンドベルを鳴らし、半円状の膜を出現させ、火犬を次々と消滅させていく。火犬の攻撃により、膜はボロボロと剥がれた。私はその隙を狙って、槍を大きく横に振り、カリムの横腹を狙ったが、彼は素早く後ろに下がり、これを避けた。
続けて横に振った槍を地面に突き刺し、遠心力を利用して後ろ回し蹴りを放った。だが、これもまたカリムのトランペットのような管楽器の武器でそれを防いだ。
「チッ」
私はタッタッと、2、3歩後ろに下がった。その隙を狙っていたかのように、カリムから氷の氷柱が放たれた。それを槍で粉々に砕くと、冷気が広がり、白い霧が立ち込めた。霧の向こうにぼんやりと見えるシルエットを確認した私は、再び空中に絵を描いた。
「踊れ!火猿‼︎」
絵から炎を身に纏ったゴリラが現れる。そして、その目の前に先程よりも大きな氷の氷柱が出現した。火猿は拳を振りかぶり、渾身の一撃を放った。氷は粉々になり、その衝撃で訓練場所が少し揺れる。
霧が晴れると、嫌みったらしい笑みを浮かべたカリムの姿が現れた。彼は武器から再び氷の氷柱を出し、私を見て言った。
「前よりもやるじゃねェか、絵馬」
「そっちこそ、カリム」
私は同じように嫌みったらしい笑みを返しながら、火猿を解除せずに戦闘体制を保つ。そして、槍を地面に突き刺し、いつでも次に絵を描く準備をした。
「そこまでだ!」
バーンズ大隊長が制止の声をかける。彼は腕を組みながら、冷静に私たちの動きを見つめていた。
「今回は研修生たちの実力を測る組手だ。君たちの組手はここで終了しなさい」
カリムは氷を地面に落とし、粉々にした。私は槍先をタンと一回地面に叩き、火猿を炎にして消した。
「分かりました」
「承知……致しました」
カリムはバーンズ大隊長に合掌する。私は軽く会釈した後、槍伸縮型を腰ベルトに装着しているポーチに戻す。カリムに一発くらい攻撃を当ててやりたがった、バーンズ大隊長には逆らえない。まだ興奮している自分の感情を抑え、静かに従うことにした。
「命拾いしたな、ワガママ女」
「そっちこそ、泣きべそかかずに済んだね、くどくど野郎」
防火服を脱いでいる私に嫌みを言いながら近づいてくるカリム。その姿に、私はつぐつぐ思う。カリムは本当に掴みどころがないし、何を考えているか分からない。嫌みを言うのが趣味かと思うくらい。しょっちゅう私にちょっかいを出してくる。ただ、星宮中隊長とリィ中隊長と比べて、正直カリムの方が話しやすいし、波長も合う気がするのだ。ムカつくけど。
睨み合った後、フンとお互いに鼻を鳴らし、私は茉希たちがいる場所へ向かうことにした。
「絵馬さん!第1のフラム中隊長と接戦でしたね」
「本当はあのくどくど野郎の鼻をへし折りたかったんだけどねー」
茉希と話していたら、リィ中隊長の隣に移動したカリムが首だけをこちらに向けて言ってきた。
「聞こえているぞ!ワガママ女」
私は聞こえていないふりをする。無視だ無視。
「まったく……あなたたちは……」
リィ中隊長が息を吐き、やれやれといった表情を見せる。その隣に立つ星宮中隊長が「うおおお」と雄叫びを上げ、手で拳を作りながら燃え上がるように言った。
「二人の熱い思い、俺にも伝わってきたぜ‼︎」
「では、次ーー……」
「私は、無駄な争いはしないので申し訳ありません」
バーンズ大隊長はリィ中隊長を見るが、彼は丁寧に組手を辞退する。第5の岸理研修生は、こちらをチラチラと見ながらガムを膨らませ、ボンと自分の能力で小さく爆発させた。
「お……俺も資料に載ってる能力のそれ以上でもそれ以下でもないので辞退しますわ」
岸理研修生もリィ中隊長と同様に辞退を表明する。こちらをチラチラ見ているので、私とカリムの組手の後、少し怖気付いたのかもしれない。
「そうなると次は……」
バーンズ大隊長の言葉に、私の隣に立っていたアーサーがポンと肩を軽く叩き、数歩進んでからこちらを振り向いた。
「ふッ、画家。貴様の無念は俺が晴らしてやる」
「えっ?私、負けてないけど……」
どうやらアーサーは、私がカリムに敗北したと思っているらしい。無念を晴らすことに意気揚々しているアーサーの後ろ姿を見ていたら、シンラが私の名を呼びながら近づいてきた。
「絵馬さん!さっきの組手見て、俺も負けてらんねェと思いました。行ってきます!」
「うん。行ってらっしゃい、シンラ!」
シンラは一瞬だけ驚いたように目を大きく開き、すぐにいつものニヒルな顔に戻り、アーサーの後を追った。バーンズ大隊長は大股で歩き、向かい合うようにシンラとアーサーを見つめる。
「第8の君たちの相手は私がしよう。来なさい」
バーンズ大隊長の眼帯している右眼から、まるで能力の炎が漏れ出ているかのように見えた。そのゆらゆらと燃え上がる炎に、私は目を奪われた。
この瞬間、私は自分自身が今ここにいる意味を再確認する。シンラとアーサーの背中を見送りながら、心の中でエールを送る。シンラとアーサーがどのようにしてこの試練に立ち向かうのか、その一部始終を見逃さないように、私は一歩後ろに下がり、静かに見守ることにした。