第壱章
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「ついてきなさい」
バーンズ大隊長がそう言うと、彼を先頭に第1の中隊長3名、私と茉希、そして防火服を着た研修生たちが訓練場所へ向かった。前を歩いていた星宮中隊長が、首だけこちらに向けて振り返る。
「絵馬!元気そうだな☆」
「お久しぶりですね、星宮中隊長!」
熱血漢の神父、烈火 星宮中隊長は私の顔を見て笑いかける。その笑顔に私も自然と釣られた。彼の隣を歩くリィ中隊長が、首だけをこちらに向けて話し始めた。
「貴方が引率とは……これも神の導きでしょうか」
星宮中隊長とは対照的に、フォイェン リィ中隊長は落ち着いた声で丁寧に話す。私は隣を歩くカリムを指差しながら言った。
「神の導きなら、私の隣にいるこのくどくど野郎をどうにかしてほしいですよ」
「指さすな」
私の指を払いのけながら、カリムは私を睨みつけた。
「おい、ワガママ女。テメェも参加しろよ」
「ハァ?何で私が⁉︎そもそも、私は引率しに来ただけで防火服なんて持ってきていませーん!」
ムキになってカリムに反論した。カリムは鼻で笑い、私が両手で抱えている防火服を指差して、嫌みっぽく笑みを浮かべた。
「何言ってやがる?あるじゃねェか、”そこに”。どうせワガママ女は、俺に負けるから負けるのが怖くて闘いたくないだけだろ?」
「……いい度胸じゃん、くどくど野郎。後で吠え面かくなよ」
私とカリムはお互いに睨み合い、火花を散らした。フンと鼻を漏らし、カリムは私から離れ最後尾まで下がって歩いた。その一部始終を見ていた茉希が戸惑った表情で私を見る。
「ちょっ、絵馬さん……」
リィ中隊長もため息を吐きながら、私とカリムに目を向けた。
「どうしていつも、貴方達は会うと喧嘩するのですか?」
「喧嘩じゃないですよ、リィ中隊長!嫌みを言われたので嫌みを言い返しただけです!」
「どっちも同じです……はぁ……」
リィ中隊長は再びため息を吐く。そんな様子を見て、星宮中隊長が楽しげに笑った。
「相変わらず、仲が良いな二人とも☆」
どうやら星宮中隊長は私とカリムが仲が良いと勘違いしているようだ。私とカリムの何処を見てそう思っているのだろうか。一度、星宮中隊長の頭の中を覗いて見たい。
私は興奮した感情のままシンラに振り返った。
「シンラ!私も組手に参加するから!」
「ハッ、ハイ!」
首だけを後ろに振り向き、最後尾を歩くカリムをもう一度睨む。アーサーの隣にいるシンラに視線を向けると、彼は私を見てニヒルな表情を浮かべ、茉希と同じように困惑しているようだった。
訓練場所に到着した私たち。茉希の隣に立っていた私に、リィ中隊長が声を掛けた。
「絵馬」
「リィ中隊長、どうされましたか?」
「なぜ彼は、あんなケンカ腰なんでしょうか……」
リィ中隊長が言う「彼」とは?そう思いながら視線の先を追うと、第1小隊を睨んでいるシンラに気づいた。ハハハと乾いた笑い声で、隣の茉希が代わりに答える。
「第1に来たのが嬉しくて、みなぎっちゃってるようで」
茉希の返答を聞き、星宮中隊長はガッツポーズをしながらシンラを見る。
「元気のいい隊員だな‼︎俺、燃えてきちゃったぜ☆フォイェン‼︎」
「みなぎってるのはレッカもか……」
星宮中隊長の周りだけ、やけに暑苦しく感じながら、私はボソッとリィ中隊長に囁く。
「リィ中隊長。星宮中隊長は相変わらずのようですね……」
「そうみたいです」
リィ中隊長は星宮中隊長の行動に頬を引きつらせた。周りを見渡していたアーサーが、バーンズ大隊長に質問する。
「誰から始めるんだ?」
「数字の若い部隊の者から相手にしよう。遠慮はいらんぞ。能力を自由に使って構わない。存分に実力を見せてみたまえ」
バーンズ大隊長の言葉で、私を含めた一同が第2の研修生に注目する。
「ということは、エェーーーー‼︎僕からですか?」
第2の研修生は愕然とし、はわわと慌てふためいた。
「お前……中に何着たら、そんな体型になんの?」
「なんですか⁉︎なんですか⁉︎それ、今、関係あります⁉︎」
シンラの問いに慌てながら反論する第2の研修生。星宮中隊長が一歩前に出た。
「中隊長の星宮だ☆俺が君の相手をしよう‼︎」
第2の研修生も同様に一歩前に進んだ。私を含めた他の人たちは、訓練場所を囲むように作られた金網近くまで移動し、見学することにした。
「第2の二等消防官、武 能登です。実家がジャガイモ農家なので、ジャガーノートって呼ばれます」
「そうか‼︎ジャガーノート‼︎熱い勝負にしようぜ☆」
星宮中隊長は能力を使い、自身の手から炎を出す。
「うわっ、うわぁあ。僕からも火がぁあ……僕は火を消してもらいたいんだよォ〜〜」
第2の能登研修生の手からも炎が現れた。炎はギュルルルと音を立て、新人大会でも見せた炎ミサイルを作り出している。あの炎ミサイル、確か新人大会の時に無差別に飛んできたっけ……。ここにいたら飛んできそうだなぁ。そう思っていると、リィ中隊長が此方に近づいてきた。
「絵馬、ここにいたら危険です。皆さんと一緒にカリム中隊長の後ろに」
「承知しました。皆、リィ中隊長に着いてきて!」
私は茉希たちの方へ振り向いて指示する。リィ中隊長の指示に従ってカリムの後ろへ移動し、星宮中隊長と第2の能登研修生の組手を見守ることにした。
「たぎるよ‼︎君のような才能を俺たち消防官は待っていたんだ‼︎」
「やめてよ。焚き付けないでよ。僕は炎が怖いんだよ‼︎僕の炎を消してもらうために、消防官になったのに‼︎そうやって焚き付けるからァああ‼︎」
能登研修生は両腕を交差させ、炎ミサイルを星宮中隊長に向かって攻撃を繰り出した。
「すごいよ‼︎この熱量‼︎一発一発が破壊兵器‼︎」
星宮中隊長は喜びながら炎ミサイルを綺麗にかわしていく。かわされた炎ミサイルが威力を弱めることなくこちらへ向かってくる。私たちの前に立って組手を見学していたカリムが、星宮中隊長に向かって怒鳴った。
「全弾、避けてんじゃねェ‼︎お気楽な気楽がよ気楽が!」
「俺の後ろには、カリムがいるじゃないか‼︎」
当たり前だというように、星宮中隊長はカリムに笑って指差した。カリムは手に持つ武器を構え、武器のハンドベルで音を鳴らす。ハンドベルの音によって、カリムの周りに大きな半円状の薄い膜が張られる。炎ミサイルはカリムが作った半円状の膜によって次々と消されていった。
「相変わらず、くどくど野郎の能力は凄いな……」
誰にも聞こえないように呟く。炎ミサイルを能力で簡単に消すカリムに少しだけ嫉妬がこみ上げる。その瞬間、リンと。ハンドベルの音が高らかに響き渡り、周りの空気が一気に冷え込んだ。
「どうなってんだ⁉︎寒ッ‼︎」
「炎が冷気に⁉︎一体何が⁉︎氷⁉︎」
茉希と研修生たちは口々に驚きを表現している。カリムのもう一つの武器、トランペットの形をしたものから氷の氷柱が現れる。そして、それを星宮中隊長に向かって放り投げた。
「レッカァ‼︎俺がいなかったら、大隊長に当たるところだったぞ‼︎」
「だから、カリムがいるって俺は信じているからだろ‼︎」
氷の氷柱も見事にかわす星宮中隊長。氷は地面に落ちて粉々に砕けた。
「第1には炎じゃなく、氷を出す消防官がいるのか……‼︎」
私の隣に立っていたアーサーが呟いた。カリムは面倒臭そうな顔でこちらを向く。
「ん?何バカな事を言ってやがる。俺は、そこのワガママ女と同じ第二世代だぞ。氷を出せる人間なんているかよ」
カリム フラム。第1特殊消防隊中隊長兼神父。トランペットのような武器を通して炎を氷に変換し、音響冷却という現象を能力として操る。私と同じ第二世代能力者だ。
「そんなことができるんですか……」
「能力のおかげだけどな。原理は違うが、エアコンや冷蔵庫も熱気を冷気に変えてるだろう」
茉希の問いに答えるカリム。そして、彼は私を睨みながら叫ぶ。
「ワガママ女。さっさとさっさ準備しろ!次は、俺とだ」
「数字の若い部隊からと、バーンズ大隊長が言ってたの聞こえなかったのですかー?」
「そもそも、てめェは研修生じゃないだろうが」
カリムに正論に、私は少し腹が立った。
「ハァー……ごめん茉希。この上着、持ってくれる?」
「ハ、ハイ」
近くにいた茉希にスーツの上着を渡し、両手に抱かえていた返却する筈だった防火服に私は腕を通す。前は止めずに、腰ベルトに装着していた槍伸縮型を手に持って歩き始める。
能登研修生がいた場所に向かう途中、星宮中隊長とすれ違いに軽く肩を叩かれる。「次はカリムと絵馬か」と言いながら。そのあと、能登研修生からは「頑張って下さい」とおどおどしながらの応援があった。
足を止め、クルリと180度回転すると武器を持つカリムと向き合う形になる。
「てめェのワガママな態度がワガママ過ぎて少しは、ワガママなおせよ」
「これが、私のスタイルだ。くどくど野郎に言われる筋合いはないね」
槍伸縮型のロックを外し、本来の槍の姿になったその武器をカリムに向けた。
この一瞬、私は全ての雑念を振り払って、目の前の敵に集中した。カリムとの対峙はいつもながら緊張感が伴い、だがその内心にある少しばかりの高揚感も、抑えることはできなかった。