第壱章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ついてきなさい」
バーンズ大隊長がそう言った後、彼を先頭に、第一小隊の中隊長三名、私と茉希、そして防火服を着た研修生たちが訓練場所に向かって歩き出す。少し前を歩く星宮中隊長が、ふと首を振り返らせ、目を輝かせた。
「絵馬!元気そうだな☆」
「お久しぶりですね、星宮中隊長!」
熱血漢の神父、烈火・星宮中隊長が私の顔を見て、にっこりと笑いかけてきた。その笑顔に、思わず私も釣られて微笑んでしまう。星宮中隊長の隣を歩いていたリィ中隊長が、軽く首だけをこちらに向け、穏やかな声で話し始めた。
「貴方が引率とは……これも神の導きでしょうか」
星宮中隊長とは正反対に、フォイェン・リィ中隊長は落ち着いた口調で、言葉の一つ一つに丁寧さを感じさせる。私は隣を歩くカリムを指さしながら、軽く口を開いた。
「神の導きなら、このくどくど野郎を何とかしてほしいですね」
「指さすな」
カリムは私の指を払うようにして、強い視線で睨みつけてきた。
「おい、ワガママ女。テメェも参加しろよ」
「ハァ?何で私が⁉︎そもそも、引率に来ただけで、防火服なんて持ってきていませーん!」
思わずムキになって反論した。カリムは鼻で笑いながら、私が両手に抱えている防火服を指差し、嫌味たっぷりに笑顔を浮かべた。
「何言ってんだよ?『そこに』ちゃんとあるじゃねェか。どうせワガママ女は、俺に負けるから負けるのが怖くて、闘いたくないだけだろ?」
「……いい度胸じゃん、くどくど野郎。後で吠え面かくなよ」
私はカリムと睨み合いながら、言葉を吐き捨てる。その視線の応酬に、空気がピリピリと張り詰める。カリムはふんと鼻を鳴らし、私から離れて、最後尾へと歩いて行った。その一部始終を見ていた茉希が、戸惑いの表情で私を見つめる。
「ちょっ、絵馬さん……」
リィ中隊長も私とカリムを見ながら、ため息をつく。
「どうしていつも、あなたたちは会うと喧嘩になるのですか?」
「喧嘩じゃありませんよ、リィ中隊長!嫌味を言われたので、嫌味を言い返しただけです!」
「どっちも同じです……はぁ……」
リィ中隊長は再び深いため息を吐き、私とカリムに目を向けた。そんな二人のやりとりを見て、星宮中隊長が楽しげに笑った。
「相変わらず、仲が良いな二人とも☆」
どうやら、星宮中隊長は私とカリムが仲良しだと勘違いしているらしい。それが一体どうしてなのか、私には理解できなかった。少なくとも、この状況を見て仲がいいと感じるなら、星宮中隊長の頭の中を一度覗いてみたいものだ。
そのまま興奮した気持ちを抑えきれず、私はシンラに振り返った。
「シンラ!私も組手に参加するから!」
「ハッ、ハイ!」と頷くシンラ。
私は、最後尾を歩いていたカリムをもう一度睨んだ。次に、アーサーの隣にいるシンラに視線を向けると、彼は私を見てニヒルな笑みを浮かべ、茉希と同じように困惑した表情をしていた。
訓練場所に到着した私たちは、茉希の隣に立ちながら、リィ中隊長から声を掛けられた。
「絵馬」
「リィ中隊長、どうされましたか?」
「なぜ彼は、あんなケンカ腰なんでしょうか……」
リィ中隊長の言う「彼」とは一体誰だろうと思いながら、視線を追った先でシンラが第1小隊を睨みつけているのに気づいた。その様子を見た茉希が、ハハハと乾いた笑い声を漏らしながら代わりに答えた。
「第1に来たのが嬉しくて、みなぎっちゃってるようで」
茉希の言葉を聞いた星宮中隊長が、シンラを見ながらガッツポーズを決めた。
「元気のいい隊員だな‼︎俺、燃えてきちゃったぜ☆フォイェン‼︎」
「みなぎってるのはレッカもか……」
星宮中隊長の周りの空気が一気に暑苦しく感じる中、私は思わずリィ中隊長に囁く。
「リィ中隊長。星宮中隊長は相変わらずのようですね……」
「そうみたいです」
リィ中隊長の頬が少し引きつり、目の前で繰り広げられる星宮中隊長のエネルギッシュな姿に、やや困惑した様子だった。そんな中、アーサーがふとバーンズ大隊長に質問した。
「誰から始めるんだ?」
「数字の若い部隊の者から相手にしよう。遠慮はいらんぞ。能力を自由に使って構わない。存分に実力を見せてみたまえ」
バーンズ大隊長のその一言で、私を含めた一同が一斉に第2の研修生に注目する。
「ということは、エェーーーー‼︎僕からですか?」
第2の研修生が驚愕した様子で、慌てて言葉を絞り出す。彼の戸惑いぶりに、シンラがすかさず反応した。
「お前……中に何着たら、そんな体型になんの?」
「なんですか⁉︎なんですか⁉︎それ、今、関係あります⁉︎」
シンラの問いかけに、慌てふためきながらも反論する第2の研修生。そんな二人のやりとりに、星宮中隊長が一歩前に出て、豪快に言った。
「中隊長の星宮だ☆俺が君の相手をしよう‼︎」
第2の研修生も、覚悟を決めたように一歩前に進み出る。その瞬間、私たちは訓練場所を囲む金網近くまで移動し、見学することになった。
「第2の二等消防官、武 能登です。実家がジャガイモ農家なので、ジャガーノートって呼ばれます」
「そうか‼︎ジャガーノート‼︎熱い勝負にしようぜ☆」
星宮中隊長は、即座に能力を使い、自身の手から炎を湧き出させた。あの情熱的な笑顔と共に、周囲の空気が一気に熱くなる。
「うわっ、うわぁあ。僕からも火がぁあ……僕は火を消してもらいたいんだよォ〜〜」
能登研修生の手からも炎が噴き出し、ギュルルルと音を立てながら、炎ミサイルを作り出している。その炎ミサイルは、あの新人大会でも見せた破壊的な力を持っている。確か、無差別に飛んできたっけ……。今ここにいたら、また飛んでくるんじゃないかと一瞬考えてしまった。そんな私の心配をよそに、リィ中隊長が近づいてきた。
「絵馬、ここにいたら危険です。皆さんと一緒にカリム中隊長の後ろに」
「承知しました。皆、リィ中隊長に従って!」
私は茉希たちに振り向き、指示を出す。みんながリィ中隊長に従って、カリムの後ろに移動するのを見守りながら、私たちは安全な場所から星宮中隊長と能登研修生の組手を見続けることになった。
「たぎるよ‼︎君のような才能を俺たち消防官は待っていたんだ‼︎」
「やめてよ。焚き付けないでよ。僕は炎が怖いんだよ‼︎僕の炎を消してもらうために、消防官になったのに‼︎そうやって焚き付けるからァああ‼︎」
能登研修生は両腕を交差させ、炎ミサイルを星宮中隊長に向かって撃ち出した。その火力はすさまじい。私も思わず目を見張った。
「すごいよ‼︎この熱量‼︎一発一発が破壊兵器‼︎」
星宮中隊長はその炎ミサイルを楽しそうに次々と避けていく。しかし、そのミサイルが避けられた後も、威力を落とすことなく私たちの方向に向かってきていた。今度は、私たちの前に立って見学していたカリムが、星宮中隊長に向かって大声で叫んだ。
「全弾、避けてんじゃねェ‼︎お気楽な気楽がよ気楽が!」
カリムの声が響き渡ると、星宮中隊長はあっけらかんと答えた。
「俺の後ろには、カリムがいるじゃないか‼︎」
その言葉に、星宮中隊長はまるで当たり前のことのようにカリムを指さした。カリムはじっと炎ミサイルを見つめた後、手に持っていた武器を構え、ハンドベルを鳴らす。すると、カリムの周囲に大きな半円状の膜が現れ、炎ミサイルは次々とその膜に消されていった。私はその冷気に驚く暇もなく、目の前で起こっていることに集中した。
「相変わらず、くどくど野郎の能力は凄いな……」
その言葉が、自分でも予期しない形で口をついて出る。カリムの能力で簡単に炎ミサイルが消される光景を目の当たりにして、私は少しだけ嫉妬を感じた。その瞬間、ハンドベルが高らかに鳴り響き、空気はさらに冷たくなった。
「どうなってんだ⁉︎寒ッ‼︎」
「炎が冷気に⁉︎一体何が⁉︎氷⁉︎」
茉希と研修生たちは驚きの声を上げている。カリムのもう一つの武器、トランペットの形をした武器から氷の氷柱が現れる。次の瞬間、カリムが放り投げた氷の氷柱が星宮中隊長に向かって飛んでいった。
「レッカァ‼︎俺がいなかったら、大隊長に当たるところだったぞ‼︎」
「だから、カリムがいるって俺は信じているからだろ‼︎」
星宮中隊長は、悠然と氷柱をかわし、その氷が地面に落ちて粉々に砕けるのを見て、少しだけ感心したような顔をする。
「第1には炎じゃなく、氷を出す消防官がいるのか……‼︎」
隣に立っていたアーサーが呟く。その言葉を聞き、カリムは面倒臭そうにこちらを向いた。
「ん?何バカな事を言ってやがる。俺は、そこのワガママ女と同じ第二世代だぞ。氷を出せる人間なんているかよ」
カリム、フラム。第1特殊消防隊の中隊長であり、神父でもある。彼は、トランペットのような武器を通して炎を氷に変換し、音響冷却という能力を操る。それは、私と同じ第二世代の能力者による技だ。
「そんなことができるんですか……」
「能力のおかげだけどな。原理は違うが、エアコンや冷蔵庫も熱気を冷気に変えてるだろう」
茉希の問いに答えるカリム。その後、彼は私を睨みながら言った。
「ワガママ女。さっさとさっさ準備しろ!次は、俺とだ」
「数字の若い部隊からと、バーンズ大隊長が言ってたの聞こえなかったのですかー?」
「そもそも、てめェは研修生じゃないだろうが」
カリムの言葉に、私は少し腹が立ったが、それでも冷静を保とうとした。
「ハァー……ごめん茉希。この上着、持ってくれる?」
「ハ、ハイ」
茉希が答えるのを聞き、私はスーツの上着を渡した。続いて、両手に抱えていた防火服に腕を通す。前は止めずに、腰のベルトに装着していた槍伸縮型を手に取る。
能登研修生がいた場所に向かう途中、私は星宮中隊長とすれ違いざま、軽く肩を叩かれる。「次はカリムと絵馬か」と言われたその言葉に、私は微かに息を飲んだ。能登研修生からは、控えめに「頑張って下さい」とおどおどしながら声をかけられた。
足を止め、クルリと180度回転すると、私は武器を持ったカリムと向き合う形になった。
「てめェのワガママな態度がワガママ過ぎて、少しはワガママを直せよ」
「これが、私のスタイルだ。くどくど野郎に言われる筋合いはないね」
私は槍伸縮型のロックを外し、槍の姿になったその武器をカリムに向けて構えた。
目の前の相手、カリム。いつもと同じように、緊張感が走る。しかし、その内心には、少しの高揚感が混じっていた。相手は強い。それを知っているからこそ、この一戦を負けたくないと思った。