第壱章
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「研修生が来ると聞いたから、またワガママ女がワガママ言いに来たかと思ったが……」
私たちを案内していたシスターを下がらせ、こちらに近づいてくる神父の声が響いた。
「ハッ、残念。今回は私じゃなくて、こっちの四人。私はあくまで引率だよ、くどくど野郎」
目の前に立つ神父に向かって、私は嫌味を言った。くどくど野郎と呼ばれた神父は、私の服装を上から下に見下ろした。
「ワガママ女、その格好……」
「文句があるなら、バーンズ大隊長に言え、くどくど野郎。私には、文句は受付ねェーからな」
くどくど野郎は私の皇国式のパンツスタイルスーツ、そして両手に持つ防火服を見て何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。彼の視線が逸れると、そのまま私の後ろに並んで立つ研修生たちに向かい、
「てめぇらが研修の新人か」と言いながら、私の横を通り過ぎ、一人一人をジロジロと見始めた。
茉希が私に近づいて、くどくど野郎を見ながら耳元でコソッと尋ねた。
「絵馬さん、お知り合いの神父様ですか?」
「うん。私が研修生の時にね……くどくど野郎は、同じ言葉を何度も繰り返して言ってくる、ムカつく神父だよ」
「そうだったのですね」
私は茉希にくどくど野郎について簡単に説明しながら、再び彼を見た。横髪を刈り上げた神父らしからぬ髪型、垂れ目の三白眼、そして首元にはヘッドホンがかかっている。妙に奇抜なスタイルで、「ワガママ女」と呼んできた彼こそが、神父のイメージとはかけ離れている。ワガママなのはどちらかと問い詰めたくなる。
くどくど野郎はシンラを見ながら話し始めた。
「ったく……どうせ、クソみてェなクソしやがんだろ?クソかよ、クソが!」
その言葉を聞くと、私も新人の頃に同じようなことを言われたことを思い出し、苦笑した。シンラに対する彼の言い方は、あの頃の私に対する態度と何も変わらなかった。
研修生たちを一通り見たくどくど野郎は、私に振り返りながら言葉を投げかけた。
「ワガママ女、研修生。バーンズ大隊長がお待ちだ……ついてこい……」
くどくど野郎の指示に従い、私たちは大聖堂へと足を運んでいった。
くどくど野郎が先頭に立ち、大聖堂の扉を開けると、私たちは中に入った。中央回廊の先にある高祭壇に立ち、腕を組んでいるバーンズ大隊長の姿が見えた。彼は私たちを見下ろしながら静かに言葉を発した。
「第1にようこそ。君たちを歓迎する」
「新人大会以来ですね……バーンズ大隊長。第8所属と小隊長を務めます、絵馬 十二です。引率として参りました!」
バーンズ大隊長と目が合い、私は少しぎこちない動きで軽く会釈した。
「同じく第8所属、一等消防官茉希 尾瀬です!研修新人をお連れしました!」
茉希を筆頭に研修生たちはバーンズ大隊長に敬礼をする。が、彼は静かに指摘した。
「着帽子であっても、ここは大聖堂だ。申し訳ないが、敬礼ではなく合掌にしていただきたい」
「失礼しました!」
バーンズ大隊長の言葉に従い、茉希は敬礼から合掌にし直した。私は合掌もせず、ただ彼をじっと見つめ続けていた。
バーンズ大隊長は視線を左側に向けたので、私も同じ方向に視線を移す。すると、大聖堂を支える柱の近くに、くどくど野郎と同じ服装をした二人の神父が柱に背を預けているのが見えた。その二人は柱から離れてバーンズ大隊長の方へ歩み寄り、高祭壇を上っていった。それに続いて、私たちを案内をしていたくどくど野郎も同様に歩き出した。
バーンズ大隊長の右側に並んだ三人の神父を見やり、彼は私たちに簡単に紹介した。
「外から第1のフラム中隊長、星宮中隊長、リィ中隊長だ。彼らが君たちの世話をさせていただく」
名を呼ばれた三人の神父は合掌し、高祭壇からこちらを見下ろす。茉希たちもそれに続いて合掌をする。くどくど野郎、つまりカリム フラムは、私が合掌せずに見上げていることに少し苛立ちを感じているように見えたが、私は視線を逸らし無視することにした。
「今日は施設を見学してからゆっくりくつろいでくれ」
「バーンズ大隊長!よろしいでしょうか?」
シンラが一歩前に出て、質問を投げかけた。
「これからしばらく第1の隊員と作戦を共にしますよね?急ですが、俺たちの実力を見てもらうため、大隊長に組手の相手をしていただきたいのですが」
「へぇ」と私は小さく呟いた。新人大会の時、シンラとバーンズ大隊長しか分からない事件についてシンラが訪ねていた場面が思い浮かんだ。シンラには何かしらの理由があって、バーンズ大隊長に組手を申し出ているのだろう。
「シンラ!何を言っているの!」
茉希は驚いた様子でシンラに注意する。その声に中隊長の一人、星宮中隊長が一歩前に出て口を開いた。
「君たちの能力は頂いた資料で把握している。その必要はない」
私はシンラの横に並び、高祭壇に立つバーンズ大隊長に向かって、高鳴る心臓を抑えながら尋ねた。
「私からも、研修生たちの今の実力を見たいので、よろしいでしょうか?バーンズ大隊長」
「絵馬さんまで⁉︎」
シンラに続いて私がバーンズ大隊長に話しかけたため、茉希はますます困惑した表情を浮かべた。
「なっ!」カリムが何か私に言おうとして一歩前に出かけたが、バーンズ大隊長が腕を伸ばして彼を制止した。
「構わんよ……レッカ、お前も胸を貸してやれ」
「エ⁉︎いいんですか⁉︎」
バーンズ大隊長の申し出に、星宮中隊長は子供のような笑顔を浮かべた。
「レッカ……大聖堂内ですよ」
リィ中隊長は冷静に星宮中隊長へ注意した。「コホン」と星宮中隊長は咳をし、大人しくなった。
「シンラ君!そんな怖いことをさせないでよ‼︎それって、すごく……怖いよ⁉︎十二小隊長も!シンラ君の言葉にのっからないで下さい‼︎」第二隊員の研修生が焦り気味に言う。
「そーだよ……タリィんだけど、マジで」
第5の研修生はガムを小さく膨らませながら、面倒くさそうにそう呟いた。
「絵馬!貴様やるなァ」
アーサーが私の隣にきて、肩を三回叩きながら高笑いした。
「はっはっはっは!はぁ〜〜っ、はっはっはっは‼︎」
アーサーの高笑いに、私は若干ひき気味になった。
「何?その笑い?少し、怖いんだけど……」
「気にするでない!はっはっは!」
アーサーは笑い続けたが、私は茉希に助けを求める視線を送った。しかし、茉希はシンラに近づき、何やら囁き合っていた。話を終えたシンラは帽子を少し深くかぶり直し、バーンズ大隊長に向かって軽く会釈した。
「もし、一本取れたらお聞きしたいことがあるのですが」
「構わんよ」バーンズ大隊長が静かに回答した。
その瞬間、場の緊張感が一層高まった。全員の視線が交錯し、シンラの言葉とバーンズ大隊長の了承は、研修生たちと第1小隊の組手が始まることを告げる合図となった。