第壱章
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ーーーーアイリスの事件から1週間後
私は庭に出て、槍伸縮型を手にただひたすら地面や空中に絵を描いていた。それを妨害するかのように、紅丸の蹴りが飛んできた。ギリギリで交わしたものの、横腹を掠められる感触があった。
「絵馬!まだ反応が遅ェぞ!」
紅丸は次々と蹴り、拳、手刀と繰り出してくる。彼の攻撃をかわしたり、時には身体に当たったりしながら、私は地面や空中に何度も描いたり描き直したりしていた。
私の武器、槍伸縮型は、絵を描くことで能力を発揮する特殊な武器だ。絵を描くのには5秒が必要だが、その間は無防備状態になり、”焔ビト”などに狙われやすい。この5秒の間に攻撃をかわせれるよう、紅丸と一緒に庭で稽古を重ねていたのだ。
「ッ!踊れーー!」
「まだ、遅ェ」
ようやく紅丸の攻撃を交わして完成させた絵から、十二炎を出そうとした瞬間、私が絵に気をとられている隙を突かれ、紅丸の拳が槍伸縮型ごと私に突き刺さった。鈍い衝撃と共に、私は槍ごと背後に吹っ飛び、地面に倒れこむ。
「絵馬、気を抜くんじゃねェよ……」
「うっ……!ごめん、もう一度」
地面に思いっきり倒れた衝撃で呻く私。地面に落ちた槍伸縮型を持って立ち上がり、頬についた土を法被の袖で拭き取りながら、気を取り直す。
その時、庭で紅丸と稽古をしていた私を呼びにやって来たのは、詰所で事務作業をしていた紺炉だった。
「絵馬、第8小隊の大隊長さんから電話来てるぞ!」
「桜備大隊長から?何だろ……。紅丸、今日の稽古はここまでにしよう!付き合ってくれてありがとう」
「あぁ」
紅丸は自身の法被についた土の汚れを払いながら、縁側から居間の方へ向かう。彼の行き先は多分、大浴場だろう。汚れを落としに行くのだと察する。私も法被の汚れを落としつつ、槍伸縮型をポーチに戻し、縁側に立つ紺炉と一緒に詰所へ向かうことにした。
詰所に到着すると、紺炉は自身の作業机の座布団に胡座を掻きながら、事務作業を再開していた。私は黒電話の受話器を手に取り、耳に近づけて話し始める。
「もしもし?電話を代わりました。絵馬です」
「1週間ぶりだな、絵馬。元気にしていたか?」
「はい、私は元気ですよ!それより、どうしたのですか?」
「うーん……。実はな、明日からシンラとアーサーが協力関係になった第5小隊の隊員と一緒に、「研修生」として第1に行く事になったんだ」
「第1に……桜備大隊長!私も第1に引率として行かせてください!」
電話越しに、桜備大隊長へと志願の言葉を送る。引率として行ければ、出動謹慎も仕方ないと紅丸が思って解除してくれるはずだ。そろそろ動き出したかった私は、これはまたとないチャンスだと感じていた。事務作業をしている紺炉を視界に入れつつ、桜備大隊長の声に耳を傾ける。
「第7の大隊長には、どう説明するんだ?」
現在私が出動謹慎中であることを知っている桜備大隊長。電話越しでも、彼が疑問を抱いている様子が容易に想像できた。
「私に考えがあります。決まり次第、また連絡します」と告げて、私は黒電話を切った。
「紺炉ー。私、紅丸の所に行ってくる」
「おぅ。若もそろそろ風呂から上がってる頃だろうし、部屋にいると思うぞ」
「ありがとう」と紺炉に礼を言ってから、私は急いで紅丸の部屋へと突入することにした。
「紅丸ー、入るよ」
私は一声掛けてから、どんな反応をするのか、彼がどう出るのかを考えながら、私は紅丸の部屋に足を踏み入れる。
「どうした?」
法被姿で寝転がっていた紅丸は、私を見て身体を起こし、胡坐をかいた。彼の前に正座して座ると、じっと紅丸を見つめながら言った。
「紅丸!そろそろ出動謹慎を解いてほしい!」
「何故だ?」
紅丸はただじっと私を見つめ返している。その視線に少し緊張しながら、私は意を決して答えた。
「第8小隊の隊員が研修生として、第1に明日から行くらしい。それで、引率として第1に行きたいんだ。ついでに借りた”第1小隊の防火服”をバーンズ大隊長に返したいの!お願い、紅丸!」
そう言って私は頭を下げたが、紅丸は黙って何も言わない。仕方ない。ここは奥の手を使うしかない。
「……返さないと、ずっと私の部屋に飾ったままになっちゃうし。紅丸が私の部屋に入る度に、第1の防火服を見て舌打ちされるのも嫌だから」
紅丸は何かを考え込んだ後、チッと舌打ちした。
「……分かった。出動謹慎は解除する」
「本当!?ありがとう、紅丸!早速、第8に連絡してくるね」
顔を上げると、紅丸は嫌そうな表情を浮かべているが、私の願いを聞き入れてくれたようだ。なんとか紅丸から出動謹慎解除してもらうことに成功した私は、紅丸にお礼を言ってから、急いで桜備大隊長への報告のためにもう一度黒電話の元へ戻ることにした。