第壱章
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火縄中隊長が上着を脱ぎ、シャツを腕まくりしてこちらにやって来た。
「絵馬、俺も手伝うが、どれから運べば良い?」
「火縄中隊長!丁度良い所に!」
「どうした?何かあったのか?」
「これを見てくれませんか?」
私は火縄中隊長に掌を差し出し、先ほど自分が行った行動を彼の前で改めて見せた。火縄中隊長は眉をひそめる。
「これは……灰か?」
「そうです。今回の新人大会では、灰を使用する等の行為については一切説明がありませんでした。でも、瓦礫の裏に何故か灰が付着している……この灰は一体どこから来たのか、私も不思議に思っていたところです」
私の報告を受けた火縄中隊長は何かを考え込む素振りを見せ、ズボンのポケットから小瓶を一つ取り出して私に見せた。
「この小瓶に灰を入れるぞ。手伝え、絵馬。そこにいる君も」
火縄中隊長とボランティア隊員と共に、後片付けをしながら灰の付着した瓦礫から灰を掻き集めていく。ある程度灰が集まったのを確認した火縄中隊長は、
「第8で調べてくる」
と言い残し、その場を離れていった。私はというと、槍伸縮型の炎が足りなくなっていたため、瓦礫を槍で粉砕しながら炎を補充し、後片付けを従事した。
ふと気付けば、辺りは薄暗くなり、夜を迎え入れようとしていた。後は周りの隊員たちに任せることにしよう。帰宅時間も迫っていたので、一緒に後片付けをしていたボランティア隊員に一言伝え、私は火鳥で浅草に帰ることにした。
浅草に戻り、紅丸たちと食堂で夕食を食べていた。紅丸は私の報告に耳を傾けながら呟いた。
「んで、結果はその爆発によって幕引きになっちまったと」
「そうそう!結局、優勝者のいないまま中止になったんだよー……そして、ボランティア隊員の私は、そのまま後片付けをしていたってわけ。途中までは面白かったんだけどね……紺炉、おかわり!」
「あいよ」
私は紺炉にお茶碗を渡す。彼は、ちらりと私を見ながらお茶碗にご飯を注いでくれた。
「前から思っていたが、絵馬、お前ェさん……最近、皇国に肩を入れ過ぎじゃねェか?」
「そうかな?」私は思わず言い返した。
「あぁ。ことある毎に皇国の奴等が、お前を指名してきてるし。断ったらどうだ?」
紺炉の言葉に私は一瞬考え込む。彼はごはんが載ったお茶碗を私に渡した。
「断るねェ……。そうしたい気持ちもあるけど、一応私も皇国の人間だし……」
そう言いながら、ホカホカの白米を一口、口の中に放り込む。
「絵馬」
紅丸が私の名を呼んだ。彼の方を向くと、紅丸は食事は終えてこちらを見ていた。私は一旦箸を止め、口に入っていた白米を飲み込んでから答えた。
「何?」
「絵馬が浅草と皇国を行ったり来たりすることは俺は別に構わねェ……だけど、絵馬のお人好しな性格を利用して、皇国の奴等に好き勝手に呼ばれるのは正直気に入らん。暫く、皇国の奴等の要請には応えるんじゃねェぞ」
そう言って、紅丸は表情を変えずに、私から視線を逸らし、椅子から腰を上げて出入り口の方へ歩いていく。
「ちょっ!?紅……」
紅丸の突然の行動に驚き、私は椅子から立ち上がり彼を呼び止めようとしたが、彼は私の制止を無視して食堂から出て行った。最後に、くるりと振り返り、見ていた紺炉に視線を向ける。
「若がああ言うのも仕方ねぇよ、絵馬」
「紺炉まで……」
紺炉もまた、紅丸の味方のようだった。私は席にしぶしぶ戻り、夕食を食べ続けることにした。そんな時、ヒカヒナが私の気持ちなどお構い無しに法被の袖を引っ張った。
「絵馬ーー!土産はどうしたーー?」
「姉々ーー!メロンパンチを何処にやりやがったんだーー?」
「ちゃんと買ってきてるよ。私の部屋に置いているから、部屋に入って持っていって良いよ」
「部屋が散らかっても文句言うんじゃねェぞーー!!」
そう言って二人は早々に食堂を去っていく。その光景を見つめながら、少し冷めてしまった夕食を再開することにした。
夕食を終えた私は、詰所にある黒電話から第8の桜備大隊長に電話をかけた。紅丸からの出動要請謹慎について、簡潔に伝えた。
「……と、大隊長から言われまして……許可が降りるまでは、暫く出動を控えることになります」
受話器の向こうで、桜備大隊長が静かに反応する。「そうか…… 絵馬。こっちのことは気にするな!最近、俺たち第8の要請に引っ張ってしまって悪かったな」
「謝らないでください、桜備大隊長」
私は思わず言った。彼の声には申し訳なさが漂っていたが、正直なところ、桜備大隊長には責任はない。元々、原国主義の浅草は、太陽神を信仰する皇国に対してあまり良い感情を抱いていない。私もその一人だ。皇国の奴らに呼び出されることに対し、あれは紅丸なりの行動だったのだろうと推測していた。
再び受話器から桜備大隊長の声が続く。
「また何かあれば、こちらから連絡するから、今は束の間の休憩だと思ってゆっくりしとけよ」
「はい、承知しました」
「それと、絵馬」
「はい、何でしょうか?」
「今日の新人大会のボランティア、シンラと同じように他の隊員を助け、誘導したそうじゃないか!第8として誇りに思う。良くやった!ありがとう」
「ありがとうございます」
電話越しに桜備大隊長に賞賛を受け、私の心は嬉しさで満ち溢れた。こういうところが他の皇国の奴らと違い、桜備大隊長のカッコイイところだ。
「じゃあな!」
桜備大隊長の言葉を最後に、私は受話器をゆっくりと耳から離し、電話を切った。