第参章
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「みなさん、退がってください‼︎」
茉希が一歩前に出て、両腕を構えた。その視線の先に、氷を砕きながらゆっくりと身を起こす一角の”焔ビト”がいた。角が生えた個体。見た瞬間、誰もが息を呑んだ。
カリムが舌打ちする。
「クソ!時間稼ぎにもならないか」
「私に任せて。ーー踊れ!火蛇‼︎」
私は槍の先を地面に突き立て、素早く絵を描いた。描いた絵から、炎に包まれた一匹の火蛇が這い出てくる。
「火蛇。あの”焔ビト”を捕まえて」
火蛇は地面を滑るように進み、”焔ビト”の足に絡みつき、腰まで一気に巻き上げた。動きが止まる。わずかな隙。
その間に火縄中隊長が拳銃を抜き、銃口を向ける。
ガコン。
弾丸は”焔ビト”の胸に命中した。だが、傷一つない。一角の”焔ビト”は腰に巻きついた火蛇を引き剥がそうと、もがき始めた。
「第2小隊、撃ェい‼︎」
一人の隊員の号令で、第2小隊が一斉にライフルを構え、火縄中隊長の弾痕を狙って援護射撃を浴びせる。乾いた銃声が連続する。だが、やはり傷はつかない。
一角の”焔ビト”はこちらに視線を移し、まだ身動きが取れる腕で周囲の炎をかき集め始めた。吸い込むように。炎の渦が膨張していく。
「反撃がくるぞ!」
「炎を防ぐ壁は俺が張る!お前たちは、とにかく撃ちまくれ!」第2小隊の一人が叫びながら、炎の渦を押し返す。だが、火縄中隊長の声が鋭く響いた。
「無駄だ!弾速を上げた弾がまるで効いてない!通常の対”焔ビト”用の火器では歯が立たん!」
「第二世代!力を合わせて防御態勢をとりましょう‼︎」茉希が叫びながら、炎の壁を張る隊員の元へ駆け寄る。その声に呼応するように、第2・第5小隊の第二世代たちが素早く集まり、渦をさらに押し返す。
その光景を見たリヒトが、息を呑んだ。
「これが角持ちの”焔ビト”……」
ヴァルカンも初めての恐怖を隠せない様子で呟く。「こんなのどうやって倒せばいいんだ……」
リヒトが冷静に、しかし早口で桜備大隊長に説明した。
「過去に特殊消防隊が角持ちを倒したのは二回だけ……。浅草で紺炉中隊長による超高火力砲”紅月”と同じく浅草での新門大隊長による”紅月”の2例のみ……。理論上、それだけの火力を出せば角持ちの鎮魂は可能になります」
桜備大隊長が顔をしかめる。
「あの規模の火力……リヒト!何か策はないか⁉︎」
「策と言われましても……なんで十二小隊長だけで浅草の第7を呼ばなかったのですか?」
「呼んだよ‼︎面と向かってな。そしたら『絵馬だけで十分だろ』だって。それ以降、電話しても出ねェんだもん‼︎」
リヒトが私に視線を移した。
「では十二小隊長は、新門大隊長や紺炉中隊長に匹敵する火力を持っていると?」
私は静かに答えた。
「二人には及ばない。でも、それに近い火力は出せます」
桜備大隊長が目を丸くする。
「本当か、絵馬?」
「はい。ただ、条件があります」
「条件とは?」リヒトが尋ねる。
「その技を出すには、私と敵しか周囲にいないことが必要です。他の人がいると……出せません。出せにくいというか」
「どうしてですか?」と首を傾げるリヒト。
「簡単な話です。その技はまだ完成していません。私自身、制御もままならない。そして、その炎は広範囲を焼き尽くします。発動すれば、敵も味方も、私自身も、すべてを灰にする可能性が高い炎だからです」
私は槍を握りしめ、呟いた。
「それに、今はまだ……」
少し離れた場所からカリムが声を張り上げた。
「炎ならいくらでもある!それともまた凍らすか⁉︎」
私は視線を一角の”焔ビト”に戻した。周囲の熱気が、肌を刺す。確かに炎はある。だが、この状況で私が望む「量」と「質」は、まだ揃っていない。
「炎ならいくらでもある!」とカリムの言葉を、リヒトが復唱するように呟いた。
リヒトが私を見下ろす。
「十二小隊長。角持ちの”焔ビト”に巻き付いている火蛇……大きさを変えることはできますか?」
私は槍を握りしめたまま、答える。
「この槍伸縮型槍の中に蓄積した炎の量だけで、それなりの大きさには可能だね」
「炎の渦になったとしても、それを捕らえることは?」
「できるよ」
私は簡潔に頷いた。リヒトの目が輝くのを、横目で捉える。
「十二小隊長の火蛇、マキ隊員の広範囲の炎操作にこれだけの第二世代がいれば……………。ありますよ、町中の炎を消して角持ちも倒せる一石二鳥の策が!」
リヒトはニヤリと笑みを浮かべ、桜備大隊長に視線を移した。
「十二小隊長、もう少しだけその槍に炎を吸収させていてください」
「承知!」私は頷き、槍を構え直す。炎の流れが、わずかに強まるのを感じる。
「ヴァルカン君。地図の用意をしてください」
「オウ!」
ヴァルカンが返事をしながら、駆け寄ってくる。それに続いて、桜備大隊長も近づいてきた。
「リヒト……どんな方法があるんだ」
「全体の第二世代とこの町の地形を利用して炎も角持ちも一網打尽にする策です!始めましょう!」
リヒトの声は、興奮を抑えた冷静さがあった。策の内容はまだ明かされていないが、その目には確信が宿っている。町の地形——路地、建物、炎の広がり方。すべてが計算に入っているのだろう。
彼の言葉を信じるしかない。信じる以外の選択肢が、今のところ存在しない。私は、槍伸縮型に炎を吸収することに集中した。
私は槍を握り、炎の吸収に集中していた。槍伸縮型の内部で、熱がゆっくりと蓄積されていく。周囲の喧騒が遠のく中、各部隊がリヒトの指示通り配置についていくのを、横目で確認した。路地や大通りに散らばる隊員たち。すべてが計算された動きだ。
私の隣で、手持ち無沙汰になったカリムがリヒトに声をかけた。
「なァ……。絵馬と俺はまだ何もしなくていいのか?」
リヒトは冷静に返す。
「十二小隊長はもう少々お待ちください。カリム中隊長は、最後の仕上げに備えてください」と冷静に返すリヒト。
リヒトは視線を遠くにやり、呟くように続けた。
「”焔ビト”の多数発生により出火の止まない危険な火事場。各地の火災は、既に町中に燃え広がっている。もし、その炎を一箇所に集めて一気に消化できれば……」
カリムが少し苛立つ。
「そんなことどうやってやる!口で言うのは簡単だがそんなことどうやって……」
「この現場には、炎を操作する第二世代が多数います。彼らの力を合わせるんです」
「合わせるって言ったってーー」
私は口を開きかけた。いくら第二世代でも、能力だけでは不可能だ、と。だが、リヒトが私の言葉を先読みするように、重ねて言った。
「でもいくら第二世代でも能力だけでは不可能だ。この作戦には、町中を吹く風の流れが重要になります。町の風にはいくつか種類があります。この町だと特に高層建築の間を吹く”谷間風”と大通りを吹き抜ける”街路風”がある。この二つの風、南から吹く街路風と北から吹く谷間風が合流する場所があるんです。それが中央広場!双方向から吹き込む風が入り交じる、この町の風の終着点だ!」
私はリヒトの策に、静かに納得した。
「それが、ここ中央広場。私たちがいる場所なのね」
「各地で炎を操作して風の気流に乗せれば、能力と風力を合わせて全ての炎を集中できるはずです。そして、気流に乗った炎は最終的に……」
リヒトの言葉を聞きながら、私は視線の先にただ一人立つ人物を見据えた。マキ隊員だ。
「マキ隊員の待つ中央広場に集まっていく!十二小隊長、そろそろ準備をお願いします」
リヒトの指示で、私は腰ベルトから槍を取り出す。空に向けて、その刃で炎を描いた。
「承知。ーー踊れ!火鳥‼︎」
空中で揺れる炎が、形を整えて火鳥へと変わる。火鳥は茉希の立つ場所で円を描くように飛行した。
「角持ちを鎮魂するため、集結した炎である現象を起こします!通常、これが発生すると大災害になる……でも、マキ隊員の能力でうまく制御できれば……中央広場に吹き込む二つの風が双方向から炎をあおり渦を巻く!生まれるその現象は……”火災旋風”」
リヒトの言葉と同時に、マキは円を描く火鳥を中心点として、炎の竜巻を作り出した。
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