第壱章
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「火事場に見立てたあの建物に一斉に突入してもらう!障害を突破しーー要救助者を助けてから最も早く”焔ビト”役の隊員の元にたどり着け!」
私の隣に立つボランティア隊員が、大会に参加する新人隊員たちに簡潔に説明をしている。彼の目がこちらを向いてくる。「あっ、次私の番か」と少し緊張しながら、私は受付隊員から渡された紙に目を通した。
「建物の中には、要救助者1名・”焔ビト”役1名がいることを周知し、突入すること。なお、第二・第三世代の能力は使用して行うこと」
その言葉を読み上げると、私は新人隊員たち一人一人の顔を確かめた。シンラ、アーサー、そして第1隊員のタマキがいるのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
「最も早く”焔ビト”を捜し出し鎮魂せよ!用意はいいか?スタートォォォ‼︎」
その瞬間、ボランティア隊員の指から赤い炎が一気に放たれ、それがスタートの合図となった。皆、一斉に建物内に向かって突進していく。
シンラは、第三世代の能力を使い、足から炎を出してひとっ飛びで最初に建物内に入っていく。その後に続いたのはタマキだ。彼女も第3世代の能力者らしく、炎が猫のような耳と二本尾を造り出し、シンラに続いて豪快に突入していった。アーサーは、刀身のない剣から炎を噴き出し、壁を切り抜いて建物内へと侵入していく。
同じ第3世代でも、その能力の多様性を目の当たりにし、この大会が少し面白いと感じた瞬間だった。
「火だぁーーーー‼︎‼︎」
その時、まだ建物に突入していなかった第2エンブレムのヘルメットを被った少年が、両手から炎を放っているのを見た。その瞬間、まるでミサイルのように彼は無差別に建物内へ向けて攻撃を始めた。
「うわぁぁ!こっちにもきた‼︎」
隣にいたボランティア隊員が慌てて叫ぶ。私もこちらに向かってくる炎ミサイルに備え、防火服のボタンをすばやく外し、腰ベルトから槍伸縮型を取り出し、地面に絵を描き始めた。
「踊れ!火鼠‼︎200匹だ‼︎」
地面に描かれた絵から、火鼠たちが次々と飛び出し、私とボランティア隊員を守るように半円状を作って炎のミサイルを防いだ。
「あ、ありがとうございます。第7十二小隊長」と、ボランティア隊員が感謝の言葉を口にした。
「怪我がないなら、ここから少し離れましょう。建物の瓦礫が落ちてきたら危険ですから」
「ハ、ハイ!」
私はボランティア隊員に指示を出し、近くにいた別のボランティア隊員にも呼びかけた。
「他の隊員も建物から少し距離を取って‼︎瓦礫が落ちる可能性があるから!」
すると、あるボランティア隊員が私を睨むように鼻で笑い、反発の言葉を投げてきた。
「誰が第7十二小隊長の指示なんか聞くかってーの!俺は中隊長や大隊長の指示に従う」
「あっそ、勝手にしとけェ」
私の言葉に従う者と、従わない者。大会を通じてこうした対立が鮮明に現れるのが、皇国の連中だ。友好関係がない部隊同士が集まると、こういった場面が日常茶番になる。取り敢えず、イチャモンつける隊員を無視し、私の指示に従ってくれるボランティア隊員たちを引き連れ、各大隊長たちがいる観戦席の方へ向かうことにした。
「絵馬、無事か⁉︎」
「桜備大隊長!」
私はボランティア隊員たちに各部隊の中隊長や大隊長に状況を報告し、行動を共にするように伝えた後、近くにいた第8小隊の皆に合流した。桜備大隊長に微笑みながら、私は言った。
「私は、大丈夫です。怪我もしていませんので」
桜備大隊長に状況の報告を伝えようと口にした瞬間、建物がズンと揺れ、爆音とともに爆風が押し寄せてきた。
「シンラ‼︎アーサー‼︎」
茉希が建物内にいる二人の名を呼ぶ。桜備大隊長は無言で、一目散に建物へ駆け出した。
「桜備大隊長‼︎」
私の声が届かないのか、桜備大隊長はそのまま走り去ってしまう。
「絵馬、これを持っていくぞ!」
「火縄中隊長!」
火縄中隊長が、観戦席近くにあった防火用マットを脇に抱かえてやって来た。その姿を見て、私はアイリスと茉希に指示を出す。
「アイリスはここで待ってて。茉希も一緒に行くよ」
「はい!」と、アイリスと茉希が頷いた。
私は火縄中隊長の後に続きながら、防火服を着直し、茉希を引き連れて建物に急いで向かった。
建物の近くに到着すると、再び大きな爆発音が響いた。その瞬間、建物内から探していた人物が空中に舞うのが目に入った。シンラの横には、今回の要救助者と焔ビト役のボランティア隊員がいた。二人とも気絶しているようだ。シンラが彼らの服を掴んで、必死に引き上げようとしているのが見える。
そのすぐ近くの上空では、手足をバタバタさせている第1小隊のタマキがいて、落下する運命を受け入れているかのように見えるアーサーもいた。このままではタマキとアーサーが危険だ。そう思い、火鳥を出現させようとした、その時、何かが私の上を過ぎていくのに気づいた。
上空を見上げると、バーンズ大隊長がシンラの上を飛び越えて、タマキを難なく保護していた。しかし、アーサーはそのまま放置され、ゆっくりと落下し続けている。
「アーサー‼︎lここだァ‼︎」
声がする方へ視線を向けると、先に建物の近くに到着していた桜備大隊長が落下点に立ち、両手を広げてアーサーを迎え入れる態勢を整えていた。
「桜備大隊長!早く持って!」
火縄中隊長が桜備大隊長に声をかけ、茉希とともに防火用マットを広げる。桜備大隊長は私たちに気づき、
「それいいな‼︎」
と、声を上げると私から防火用マットの端っこを受け取った。四人で息を合わせて、防火用マットをアーサーの落下点に広げた。そして、桜備大隊長は落下しているアーサーに向けて叫んだ。
「臆するなアーサー‼︎第8魂を見せろ‼︎」
アーサーは応えるように身体を反転させ、背を地面に向ける。ゴンと鈍い音が鳴ったが、見事に防火用マットで包み込むことに成功した。
「いてーー」
アーサーは防火用マットに落ちた際に打った頭部を軽く手で押さえた。私たち全員でしっかりと引っ張ったつもりだったが、どうやら引っ張りが足りなかったようだ。アーサーが周りを見回し、私を含めた全員を眺めた後、
「画家以外全員筋肉ダルマでよかった……」と呟いた。
「誰が、ゴリラサイクロプスですって⁉︎」
その言葉に反応したのは茉希だった。どうやら彼女の癪に触ったらしい。茉希は防火用マットを引っ張り、まるでアーサーを放り投げるかのようにして、彼を地面に放り出してしまったのだった。
私はアーサーの無事を確認した後、シンラと桜備大隊長がいる場所に近づいた。
「桜備大隊長、シンラは?」
そこには桜備大隊長が立っており、シンラは地面に長座位で座り込んでいた。近くにはバーンズ大隊長と第1小隊のタマキもいた。バーンズ大隊長がこちらに気づき、視線を向ける。
「十二小隊長。その防火服は、今度第1に来る時に返しに来なさい」
「はいっ!承知しました!」
反射的に、私はお辞儀をしてしまった。すると、バーンズ大隊長は、
「それじゃ、失礼するよ……タマキ、中で何があったか報告しろ」
「はいっ‼︎」
顔を上げる頃には、バーンズ大隊長がタマキと一緒に私たちから離れていくのが見えた。二人が去ったのを確認し、私はシンラに駆け寄る。
「シンラ!大丈夫?怪我しているけど……」
シンラの身体には、所々に建物内の爆風で飛んできたガラスの破片が刺さって傷があった。彼は顔を上げて、
「絵馬さん、イテテ……」と、その表情には苦痛が浮かんでいた。
「ちょっと待ってて」
そう言いながら、私も地面にしゃがみ込み、絵を描き始めた。
「踊れ!火羊‼︎」
描いた絵から、青い炎に包まれた羊がシンラと桜備大隊長の前に現れる。火羊はこてりと地面に横になり、その上に私が腰ベルトから取り出したバンダナを火羊のお腹の上に広げた。
「はい、シンラ。バンダナが敷いてあるところに頭をのせて」
「絵馬さん、一体何をーー」
シンラは地面に横たわる火羊と、私の行動に戸惑いを隠せない。
「いいからッ!ほらぁ!」
少し強引に、私はシンラを引っ張り、バンダナの上に頭を乗せるように促した。緊張した面持ちになるシンラは、恐る恐る火羊の上にあるバンダナに頭をのせた。すると、彼はギョッとした表情で私を見つめた。
「ッ⁉︎これは……」
「どう?疲れが吹き飛んでいくでしょ」
「はい、なんていうか……周りの炎は熱くなくて、ほんのりと暖かいもので包まれている感じがして、身体が軽くなっていくようです」
「怪我を治療する能力はないけれど、火羊に介して触れると、疲れなどで緊張している筋肉を緩ませてくれて、即効性のある疲労回復の効果を得られるんだよ」私は簡単に火羊の能力を説明した。
「ほー。そんな能力があるのか、今度俺にも試してみてくれ」
桜備大隊長はしゃがみ込んで、火羊とシンラを面白そうに見つめていた。その表情には、興味と何か別の感情が交錯しているのが感じられた。
「ありがとうございました!絵馬さん」
シンラは火羊から頭を離し、起き上がって、その場に立ち上がった。私はバンダナを火羊から拾い上げ、腰ベルトに装着し直した。手に持っていた槍伸縮型を地面にタンと叩くと、火羊は形を崩し、炎と化して消えてしまった。
「どういたしまして」
その瞬間、背後から声が聞こえた。
「十二小隊長ーー!少し手伝ってくれませんかーー?」
振り返ると、先ほど炎ミサイルで助けたボランティア隊員が私を呼んでいるのがわかった。私は桜備大隊長とシンラに向かって言った。
「桜備大隊長、シンラ。他の隊員に呼ばれましたので、先に行きますね」
軽く手を挙げ、私はボランティア隊員の元へ向かった。彼は私に敬礼した。
「第7十二小隊長。すみません、この瓦礫を一緒に運んでくれませんか?」
「承知です」
私は頷いて、ボランティア隊員と共に瓦礫の撤去作業を始めた。
「ん?なんだこれ」
「どうしましたか?」
ボランティア隊員が瓦礫を地面に降ろした時、何かに気づいたようだった。
「第7十二小隊長も自身の手を見てください!」
言われた通りに両手を見ると、灰色の何かが手に付着しているのに気づいた。指先同士で擦り合わせると、それはサラサラとした質感で、さらに黒色も見えた。灰だ。
「これは灰……どうしてここに?」
私は不思議に思った。今回の新人大会では、灰を利用することについては一切説明書には記載されていなかった。だからこそ、この灰は何のために使用されたのか、ましてはこの灰は一体何の灰なのか、今の私にはさっぱり分からなかった。