第参章
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氷の中に閉じ込められた一角の”焔ビト”を、茉希は静かに見つめていた。
「炎を氷に……相変わらずすごい‼︎」
「ひとまずこの間に事態を収める策を立てよう」火縄中隊長が、いつもの落ち着いた調子で言った。
「みんな、怪我はないか⁉︎」
と背後から声が聞こえ振り返ると、桜備大隊長が第5小隊と第2小隊を率いて、こちらへ近づいてきていた。
「桜備大隊長!」と私は思わずと叫んだ。
桜備大隊長は私とカリムに視線を向け、静かに言った。「絵馬、来てくれて助かった。カリム中隊長、シスター部隊の派遣ありがとう。無事に俺たちの部隊と合流し、町民の避難は完了だ」
カリムは軽く頭を下げた。
「助かります、桜備大隊長」
桜備大隊長の視線が、氷づけの一角の”焔ビト”に移る。
「この氷は、どのくらい保つんだ?」
「そう長くは……今のうちに鎮魂する手段を探さないと」
「絵馬は?」と桜備大隊長は私に視線を向けた。私は首を横に振った。
「鎮魂したいとは思っているんですが……まだ炎が貯まりきっていなくて」
「そうか、誰か第三世代はいないか?」と桜備大隊長が周囲にいる第5世代、第2世代に呼びかける。数名が反応し、駆け寄ってきた。
「どうされましたか?」一人が尋ねた。
「すまないが、絵馬小隊長に炎を分けてもらえないか?」
「え、いや、その………」その言葉に、団員たちは明らかに動揺した。
私は横目で団員たちを見て、静かに言った。
「桜備大隊長、私はそこらにある炎を吸収していくので、大丈夫です」桜備大隊長に向き直った瞬間、後ろから一人の男が人垣をかき分けて前に出た。
「絵馬小隊長!俺が、炎を分けます!」
私は彼の顔を見た。見覚えはある。訓練校の同期か、あるいは別の任務で一度だけ顔を合わせたのかもしれない。だが、名前がすぐには浮かばなかった。
男は続けた。
「俺は第三世代です。炎を分けるくらい、なんでもありません」
「本当にいいのか?」桜備大隊長が眉を寄せた。
男は即座に頷いた。
「はい。焔ビトを鎮魂するためなら」
「ありがとう。頼む」と私は地面に槍伸縮型を置いた。
「俺たちは急ぎ周囲の消化活動に取り掛かるぞ!」第5隊員の号令で周りにいた第5小隊と第2小隊が即座に動き出した。
その様子を眺めていると、男がぽつりと呟いた。
「これは、訓練校の時の借りだからな」
私は一瞬、息を止めた。
「……やっぱり、君、同期生だったんだ」
男が私を睨んだ。
「だったんだってお前……覚えてねェのかよ」
「えっと――ごめん」
私は申し訳なく下を向いた。
男は小さく息を吐いた。
「まぁ、あの頃のお前は、俺も周りも含めて嫌悪感出しまくってたしな」
その言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……そう、だったね」
私は小さく頷いた。
「俺も……」男はそこで言葉を詰まらせた。少し顔を上げると、彼は私を見てこう言った。
「俺も、お前が原国主義の浅草出身者ってだけで、仲間外れにしていた部分もあった。……悪かった」
男は過去に対して謝っているのだろう。彼は続ける。
「お前は、たった1年で俺らを抜かし首席で卒業したし、今となっては第7と第8の小隊長まで昇進している。それに対して俺は……第2小隊の隊員のまま。正直、周りに頼りにされているお前が羨ましく思う」
「……言いたいことはそれだけ?」
「なっ!」私の言葉に、男の顔が驚きで引きつった。
「あんたが言ったように、私は原国主義で浅草生まれ。だからこそ、お前等のように常に嫌悪感で私を見る視線は正直今でも気に入らない。その視線を向けてくるだけで反吐が出そうになるし、ぶん殴ってやろうかと思う」
その言葉に男は申し訳ないと思ったのか、下を向いた。私は言葉を続けた。
「けど、こうやってあんたのように謝ってくる奴、怖がりながらもお礼を伝えてくる奴、頼ってくれる奴だっている。原国、皇国と考えずに私を私自身を見てくれる人はいるんだって、そう思えたのは……第8小隊に出会ってからなんだ」
男の表情が、わずかに緩んだ気がした。バキバキバキキ。氷づけの一角の”焔ビト”の氷にヒビが入っていく。時間はもう、ほとんど残されていない。
私は地面から槍伸縮型を掴み、ゆっくり立ち上がった。
「炎、分けてくれてありがとう」
男は一瞬、目を伏せたあと、短く頷いた。