第参章
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冷たい風が二人の間に吹き抜け、緊張が空気を切り裂く。アーサーがエクスカリバーを構えた瞬間、シンラが動いた。彼の身体が力強く弾けるように動き出し、地面を蹴る鋭い音が耳に突き刺さる。一瞬にして距離を詰め、シンラの右脚が弧を描きながらアーサーの脇腹を狙う鋭い回し蹴りが放たれた。アーサーは咄嗟にエクスカリバーを斜めに構え、蹴りを弾く。
だが、シンラは止まらない。彼はその場で地面に両手をつき、まるで風車のように身体を回転させ、連続して蹴りを繰り出してきた。ガガガと激しい衝突音が消防所内にこだまする。アーサーは一瞬の隙を見逃さず、エクスカリバーを横に薙ぎ払った。刃が空を切り、シンラを捉えようとしたが、彼は軽やかに後ろへ飛び退き、攻撃をかわした。アーサーはシンラの動きを読んでいたようだ。エクスカリバーを構え直し、シンラの胸元に突きを繰り出す。シンラの動きが一瞬止まったその刹那、アーサーの左手がシンラの右頬を力強く殴りつけた。鈍い音が響き、シンラの顔がわずかに歪む。
「チャンスはあと一回、このままヒーローを捨てて死ぬか」アーサーの声が響いた。シンラの瞳が鋭く光る。
「ヒーロー?そんなくだらないモノ、初めからいらねェ」とシンラは吐き捨てるように言った。
「くだらねェだと⁉︎だったら今まで俺たちが争ってきたのはなんだったんだ!」
「だから、そんなくだらねェモノは全部燃やしてやるって言ってんだよ」
シンラは一気に距離を詰め、鋭い回し蹴りでエクスカリバーを弾き返した。アーサーは負けじとエクスカリバーを下から上に振り上げるが、刃はシンラの身体をわずかに掠めただけだった。すぐにエクスカリバーを横に薙ぎ払ったが、シンラはその動きを読んでいたかのように素早く地面に低くジャンプし、前転しながら左足で踵落としを繰り出した。その一撃がアーサーの右頬に炸裂し、鋭い痛みが彼の顔を歪ませる。だが、シンラは勢いを緩めない。能力を駆使して地面を蹴り、右足でアーサーの顎を蹴り上げながら回転した。
「アーサー‼︎」」私は思わず叫んでいた。衝撃でアーサーの身体が後ろに吹っ飛ぶ。彼はすぐに体勢を立て直した。口の中を切ったのか、ぺっと血の混じった唾を吐き出す。
「本気で殺す気でやらないとこっちも危ないな」
「アーサー、いや騎士王!私も加勢します」私は彼を見つめ、思わず声を上げた。だが、アーサーは私を一瞬だけ見て、すぐにシンラに視線を戻した。
「画家、今は手を出さないでくれ」と彼は静かに、しかしきっぱりと言った。その声には、騎士としての誇りと覚悟が宿っていた。
「騎士とヒーロー……。どちらがすげェかなかなか勝負がつかなかったな」
「今となってはどうでもいい話だ」とシンラが冷たく答えた。
「…………そうか……お前は信念を捨てたんだな……」
アーサーの声は、まるで何かを悟ったように静かだった。彼はエクスカリバーをすっとシンラに向け、こう続けた。
「だったら、もう遠慮する必要はない」
アーサーの足が地面を強く踏みしめ、砂塵を巻き上げながら一気に距離を詰める。エクスカリバーが弧を描き、シンラは瞬時に反応し、身体をわずかに傾けてバンと激しくぶつかり合う音が響いた。
「誓いを守る所だけは認めていたんだが、結局、悪魔だったわけだ‼︎!」アーサーの声が、怒りに震えながら響いた。
シンラは一歩後退し、口元に薄い笑みを浮かべた。
「ああ‼︎そうだ。母親を殺した鬼を殺すためだったら、悪魔にもなってやるぜ」
「でも、最初からそんな奴はいなかった……。母親が鬼だったんだろ?」
その言葉に、私の胸の奥で何かが軋んだ。あの時、シンラがバーンズ大隊長から聞かされた真実。私もその場にいた。シンラの顔が怒りと痛みで歪むのをはっきりと見た。
「それを十二年も隠されて馬鹿みてェに鼻息荒くしてたんだよ。母親もいねェ!仇の鬼もいねェ!もう面倒だから全部燃やしてやるんだよ」シンラの声は、虚無と憎悪が混ざり合っていた。
その瞬間、シンラの視線が私の方へ向いた。
「なぁ、お前もそう思うだろ?」
突然の言葉に、私の息が一瞬止まった。ヒュッと喉が鳴る音が、自分の耳にまで響いた。シンラの瞳の奥に潜む何か――それは、まるで私を最初から見透かしていたかのようだった。この懐かしさ、この胸を締め付ける感覚は、私だけのものではなかった。向こうもまた、どこかで私を感じていたのだ。
シンラの手が、ゆっくりと私の方へ伸ばされる。その瞬間、頭の中で過去の断片がフラッシュバックした。目の前に立つ人物。顔はモザイクのようにぼやけ、輪郭すら定かではない。その手がこちらに伸び、私を見つめる。しかし、その手を取るべきか、迷いながら、私は一歩、また一歩と人物から遠ざかった。なぜだ。なぜ私はあの時、その手を取らなかったのか。その記憶はいつ、どこで刻まれたものなのか。答えは霧の向こうに隠れている。
「なんでそうなる?意味がわからねェな」
アーサーの呟きが、私を現実に引き戻した。シンラは手を下ろし、視線をアーサーに戻す。アーサーの声には苛立ちと困惑が混ざり、剣を握る手に力がこもる。
「弟のショウはどうするんだ?」
「うるせェ‼︎」シンラが叫んだ。
「俺は、あの火事にいた鬼をブッ殺すためにこれまでやってきた‼︎なのに、あの鬼が母親だった?ふざけんじゃねェ‼︎俺の十二年間の殺意は、どこに向ければいい‼︎今まで馬鹿にしてきた奴らを、俺を騙してきた奴を、この胸糞悪い世界を、人体発火で遅かれ早かれ勝手に燃えんだ。だったら、俺の憂さ晴らしに燃やさせろよ」
憎悪に突き動かされ、シンラはアーサーに向かって飛び出す。「邪魔する奴は殺す‼︎!」
だが、アーサーは冷静だった。シンラの突進を読み、力一杯ドロップキックを腹に叩き込む。シンラは呻き声を上げ、膝が地面に沈む。すかさずアーサーはシンラの顎に拳を叩き込んだ。鈍い音が響き、シンラの身体がよろめく。
「騎士とヒーローではなかなか勝負がつかなかったが、弱えェな悪魔‼︎」
「なんだと……」シンラは呟き、よろめきながらも体勢を立て直す。だが、アーサーは隙を与えない。彼は頭突きをシンラに食らわせ、シンラの身体がさらに揺らぐ。
「お前に何がわかる。仇だと思っていた奴が大事な人だった……。これから、どいつを殺そうと生きていけばいい?」シンラの声は、憎悪と悲しみが混ざり合っていた。
「大事な人を守れ‼︎騎士もヒーローも消防官もそういうもんだ‼︎」アーサーの叫びは、ホール全体に響き渡った。その声には、揺るがぬ信念が宿っていた。
地面に四つん這いになったシンラを見下ろし、アーサーは言葉を続けた。
「さぁ立て‼︎ヒーローか‼︎悪魔か‼︎立って答えろ‼︎お前は何者だ‼︎その答え次第でーー……斬る‼︎」
「うおおおおおおおおおおおーー」
シンラは雄叫びを上げ、能力を発動させて立ち上がる。だが、次の瞬間、ズンという音と共に、彼は自らの膝蹴りを自分の顔に叩きつけた。
「自分で自分の顔を!?シンラ!」私は思わず呟いた。
勢いで後ろに吹き飛び、シンラは消防所の壁に激突した。仰向けに倒れたまま、彼は叫んだ。
「俺は‼︎ヒーローだ‼︎」
その声は、消防所の壁を震わせた。私は立ち尽くし、シンラの姿を見つめる。彼の身体は、まるで全てを吐き出したかのように一瞬だけ静かだったが、その瞳には燃え尽きることのない炎が宿っていた。