第参章
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冷たい風が法被の裾を揺らす。フゥっと、息を吐く。
「答えはくれない、か」
私はもう一度、深い息を吐いた。シンラの姿を改めて見据える。法被の襟を正し、槍を握る手に力を込める。
「”アドラリンク”を強制的に断ち切るしかないね」
「だろうな」アーサーが短く頷く。その声には、一切の迷いがなかった。
オグンが声を上げた。シンラを見つめながら、苛立ちと焦りが混じる。
「”アドラリンク”⁉︎そいつを止めれば正気に戻るのか?でも、どうやって⁉︎」
彼の言葉は、私の心にも突き刺さる。どうやって? その問いに、私はまだ答えを持たない。だが、動かなければ何も始まらない。
アーサーの声が、冷たく響く。
「正気に戻す?なんで俺たちがそこまで面倒を見なきゃならないんだ。甘ったれんじゃねェ……このままバカみたいに暴れるようなら、容赦なく斬る」
彼の言葉は鋭いナイフのようだ。アーサーがシンラを見据え、ゆっくり口を開く。
「おい、悪魔。チャンスは三回までだ。三回は見逃してやる。四回目の隙は切る。それまでに正気を取り戻せ」
彼の覚悟に呼応するように、私は法被を片肌脱いだ。布が肩から滑り落ちる感触が、戦いの始まりを告げる。
「笛吹き、私たちは少し派手に動く。何があっても、文句は受け付けないから」
パーンを振り返ると、彼は静かに私を見つめ返す。
「十二、最初からそのつもりだったんだろ」
パーンの声には、諦めと覚悟が混じる。彼はハァっとため息をつくと、笛を唇に当て、音色が響き渡った。
私はシンラの動きを、息を殺して見つめる。彼の身体は、まるで誰かに操られる人形のように、ぎこちなく動いていた。
「騎士王、先に動きます」
そう言って地面を蹴り、猛烈な速さでシンラに突進する。彼の右拳が私の顔を狙って振り上げられる。私は槍の柄を斜めに構え、拳を滑らせるように受け流す。衝撃が手に響くが、火猿が即座に反応。尻尾を私の腰に巻きつけ、まるで私が羽のように軽やかに後方へ引き寄せる。シンラの拳が空を切る。シンラは止まらず、駆け出してくる。私は火猿の尻尾から離れ、着地と同時に槍を振り、先をシンラの肩へ向ける。鋭い突きが空気を裂き、彼の肩の布を切り裂いた。
「掠っただけか」
火猿が地面を蹴り、巨体でシンラに突進。シンラは腕を交差して火猿の突撃を腕で防御し、距離を詰めようと低く跳びながら私に近づいてくる。火猿も素早く動く。火猿の尻尾が私の体を左へ滑らせ、突進を回避。だが、シンラはこちらに目を向けずアーサーに向かって駆け出していることに気づいた。
「相手を変えた⁉︎アーサー!」私は叫ぶ。
シンラの右膝蹴りが空を切り、アーサーの胸元を狙う。私は息を呑む。だが、アーサーは冷静だった。
「話はちゃんと聞いていたか?チャンスは四回だぞ」
彼は膝蹴りを軽やかに避け、身体を反転させると、右肘をシンラの腹部に叩き込んだ。衝撃でシンラがよろめき、2、3歩後退する。私はその一瞬に、アーサーの次の動きを感じた。
エクスカリバーが閃く。刃はシンラの頭部を狙い、鋭い弧を描く。だが、シンラは咄嗟に身体を捻り、剣を避けた。さらに、アーサーの左足蹴りを右手で受け流す。その動きは、まるで本能に支配されているようだった。シンラは私たちから距離をとる。
「まず、一回だ……」アーサーの呟きが、静かな戦場に響いた。
オグンの声には、どこか呆れたような、しかし感嘆を隠しきれない響きがあった。「流石、妄想が捗っている時のお前はクソ強いな……。いくらお前の強さがプラズマの性質に似ているとはいえ、何がお前をそうさせるんだ……」
私は思わずアーサーを見やった。彼の横顔は、いつものように静かで、どこか遠くを見ているようだった。
「俺は生まれながらの騎士王だ。そう、育てられてきた……」
その言葉に、オグンの目が見開いた。「騎士王……⁉︎貴族⁉︎お前……一体どういう家庭で育ったんだ⁉︎」彼の声には、驚きと混乱が混じっていた。
アーサーは過去を掘り起こすように、わずかに眉を寄せた。「貴族……か……?王族も貴族になるのか?あれは一体、何族だったんだ?」彼の声は小さく、自分に問いかけるようだった。まるで記憶の断片を拾い集めようとしているかのように。
彼が語り始めた。「家計は火の車が灰だった。城で最後の晩餐を済ませた夜、朝目覚めたら両親は消えていた。残されていたのは一枚の手紙だけ。そこにはこう書かれていた。『この城はお前のものだ。今日からお前が王だ』ってな」
私は息を呑んだ。彼の言葉は、まるで古い物語の一節のようだった。
「その日から俺は……騎士王になった」アーサーはそう言って、かすかに唇を綻ばせた。
オグンが口を開いた。「それって……お前……蒸発……両親に捨てらーー」
「ピピーー‼︎」
その瞬間、パーンが鋭く笛を吹いた。耳をつんざく音が、オグンの言葉を切り裂いた。私はアーサーをもう一度見た。彼の目は遠くを見つめたまま、微動だにしなかった。騎士王。一枚の手紙で背負わされた「騎士王」の名は、彼を突き動かす力になり、彼の背中にどれほどの重さを課したのか、私はその瞬間、初めて実感した。