第参章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パーンが私たちの背後から言った。
「十二、二人のサポートを頼む。二人とも強化付与と回復は俺に任せて攻撃役に集中しろ!」
その声には、ためらいも迷いもなかった。私は軽くうなずき、短く応じた。
「……承知。アーサー、オグン君。……笛吹きの言う通り、私たちは前に出るよ」そう言いながら、私は火猿を呼び寄せる。
「十二小隊長。……笛吹き、というのはパーン中隊長のことなんですね」オグンがぽつりとつぶやいた。
「ん? 何か引っかかった?」
彼は一瞬、パーンの方へ視線を送り、それからこちらを見て首を横に振った。
「い、いえ。なんでもありません」
ぎこちない否定だったが、追及するほどのことでもない。私は黙って火猿の首元を撫でる。
「十二小隊長、先ほどの質問は気になさらないでください。……よし、シンラの機動力に対抗するために、役割分担で戦うぞ!俺たちで前衛をやる!わかったな、アーサー‼︎」
オグンが名を呼ぶ。しかし、返事はなかった。
「アーサー?」とオグンはアーサーに振り返る。
私も思わずアーサーの方を見た。彼の表情は──そう、まるで魂が抜けたようだった。目は焦点を結ばず、口は半開き。彼らしからぬ、ぼんやりとした顔。
「アーサー? 聞こえてる?」
声をかけても反応はない。彼がこんな状態になるのは、私も初めて見る。
パーンも異変に気づいたらしい。眉をひそめて、鋭く声を飛ばす。
「アーサー‼︎急にどうした……様子がおかしいぞ……十二は何ともないのか⁉︎」
「なんともない。アンタは?」
「俺も大丈夫だが……」
一拍置いて、背後から別の声が上がる。アーグ大隊長だった。
「他の者と同じく操られたか?」
その推測に、オグンが静かに首を振った。
「……違う……これは……捗っているんです……」
言葉の意味をすぐに理解できた。パーンは、驚いた顔で声を上げた。
「あの、いつもの騎士ごっこか!」
「何かこいつの内でイメージがわいているようです」
私はアーサーから目を離し、オグンに視線を向けた。
「オグン君、アーサーって、訓練学校の頃からこうだった?」
「そうです。しかし、こいつはいつも以上のバカ面……。これは相当捗っていますよ……」
「よく見てたんだね」
「あいつの行動、いつも予測不能でしょう?自然と観察力が鍛えられました。でも……一体何がきっかけでそんなスイッチが入ったんだ?」
その時だった。
バッ、と風を裂く音がした。視線を上げると、シンラが一気に間合いを詰め、アーサーへ向かって突っ込んでくるのが見えた。
シンラの目が鋭く光る。刹那、彼の右足が空気を裂き、アーサーの首筋を狙った。風を切る鋭い一撃。だが、アーサーは左腕を瞬時に上げ、まるでそれを見越していたかのように受け止める。シンラは一瞬の隙も与えず、跳ねるようにアーサーの背後に回り込んだ。着地と同時に右拳がアーサーの顔面を狙う。アーサーは首を振って紙一重でかわし、金色の髪が揺れる。
シンラは止まらない。両手を床につき、体を反転させると、後ろ蹴りをアーサーの顔に叩き込もうとする。その瞬間、アーグ大隊長の声が場を切り裂いた。
「”アドラバースト”‼︎」
アーサーの動きが速かった。彼はアーグ大隊長の胸元をぐいっと引き寄せ、まるで人間の盾のようにシンラの前に突き出した。
「”フォースシールド”」
シンラの蹴りがアーグ大隊長の体に直撃する。
「あいぃいい〜〜〜〜‼︎」アーグ大隊長の叫び声が空気を震わせた。
アーサーは息を整え、目を光らせた。そして、アーグ大隊長を前に押し出しながら叫んだ。
「”シールドバッシュ”‼︎」
「グェッ」
アーグ大隊長が呻く。アーサーはその声を無視し、突きを繰り出し、シンラを弾き飛ばした。シンラの体が地面を滑り、埃を巻き上げる。
「えぇーー‼︎?何やってんのアーサー!」私は思わず叫んでいた。この状況、ふざけているのか、本気なのか、ちょっとわからない。
パーンが笛を吹き、鋭い音が響く。
「ピピーー‼︎アーサー‼︎お前、大隊長をなんだと思ってるんだ!」彼の声には怒りと呆れが混じっていた。
アーサーは、平然と言った。
「いいぞ、ドエムーの大盾」
「こんなの、は・じ・め・て♡」
「大隊長も喜んでんじゃないよ‼︎」パーンがツッコミを入れる。
「……アーグ大隊長が喜んでいるのなら、良いんじゃない」私は呟いた。だが、パーンは即座に反論する。
「十二、考えを諦めるな!そういうことじゃない!」
私はパーンの言葉を無視し、アーサーに叫んだ。「アーサー!次が来るよ!」
「任せろ!この盾で防いでみせる!」アーサーの声には、妙な自信があった。
シンラが動いた。右足が鞭のようにしなり、アーサーの脇腹を狙って風を切る。鋭い蹴りが空気を裂くが、アーサーはアーグ大隊長を瞬時に傾け、衝撃を受け流す。シンラは止まらない。体を低く沈めると、連続する足蹴りを繰り出した。右、左、右――まるで嵐のような連撃がアーサーを襲う。その攻撃をアーグ大隊長が盾となり受け止め、埃が舞い上がる。アーサーの表情は変わらない。
パーンが諦めたように呟いた。
「二人とも訓練校にいた時とは別人のようだ。アーサーの強さは、プラズマの性質が理由だったか……」
オグンが横で口を開いた。「はい!アーサーの能力がかなり特殊なものなんで、学生の頃バカなアイツの代わりに色々調べてみたんですけど、ヤツの状況によって強さが上下する特徴が、プラズマの性質とよく似ていることがわかりました」
私はオグンに目を向けた。
「どのように似ているの?」
「簡単に言いますと……物質の最小単位、原子は電子と原子核でできています。プラズマは、その原子核と電子が分解された不安定な状態。電磁場とか外部の影響で性質がコロコロ変わる。アーサーの能力も同じで、外部情報…特にアイツの『騎士としてのイメージ』を増幅すると、強さが変化するみたいです」
「なるほど。詳しく教えてくれてありがとう」私は頷き、オグンはペコリと頭を下げた。
アーサーが、くたっと力を失ったアーグ大隊長を、まるで荷物のように地面に投げ捨てた。大隊長の巨体が床に叩きつけられ、低い音が響く。私は一瞬言葉を失い、すぐに火猿に指示を出した。
「火猿、アーグ大隊長を回収して」火猿は私の声を聞くや否や、素早く動き、アーグ大隊長をパーンたちの元へ運んだ。その手際の良さに、ほんの少し安堵した。
私はパーンに視線を向け、言った。「笛吹き、アーグ大隊長を頼んだ」
パーンは眉をひそめ、呆れたように返した。「十二もアーグ大隊長の扱い、雑だな……」
「そう?敬意はあるつもりなんだけど」
「そうかい」パーンはそう呟き、やれやれといった表情でアーグ大隊長に近づいた。「大隊長、しっかりしてください!」
「し・あ・わ・せ♡」
「大隊長、ハァ……」幸せそうな大隊長の顔を前に、パーンの疲弊が手に取るようにわかった。
アーサーがシンラを睨み、エクスカリバーを構えた。
「おい、シンラ。お前……ヒーローはどうした?」
シンラの声は冷たく、どこか虚ろだった。「ヒーローなんて、そんなくだらねェモノ燃やしちまったよ」
その言葉に、私は胸の奥で何かが締め付けられるのを感じた。シンラの本心なのか?それとも、彼の中に潜む「何か」が彼を操っているのか?ヒーローを夢見てきたシンラが、こんな言葉を口にするはずがない。私はそう確信していた。だが、彼の不安定で歪んだ笑顔は、どこか懐かしさを感じさせ、同時に言いようのない憎悪を掻き立てた。あの笑顔は、シンラのものではない。そんな気がした。
アーサーは声を低くし、問うた。「…………本気で言っているのか?それとも内にいる奴か?」
彼の目は、シンラの奥に潜む「何か」を捉えようとしている。
「その笑顔は、何を意味するんだ?ついに本性を出せて喜んでんのか?それとも、騎士王に助けを求めているのか?」
私はさらに踏み込んだ。「シンラ、誰と”アドラリンク”しているの?」
私たちの言葉を聞いたシンラは、表情をさらに歪ませて微笑んだ。