第参章
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アーサーとオグンがシンラと対峙するように、少し前に歩き出す。それを見守りながら、私はアーグ大隊長の隣に並んだ。
「すみません、アーグ大隊長。シンラ隊員がご迷惑をおかけしました」
「いや、すまない。私も日下部君のアドラーバーストに興奮してしまって、結果としてこういう事態になってしまった」
「シンラのアドラリンク……」
「十二小隊長も知っていたのか。……いや、第8全体で共有されているんだな」
「そう捉えていただいて構いません。しかし、シンラ隊員は決して理由もなく攻撃を仕掛けるような隊員では……」
私はシンラに視線を向ける。彼は私たちの登場に反応することなく、静かにこちらを伺っている。その姿を見て、懐かしい、という感情が胸を締めつける。何故だろう。目の前にいる彼を見ていると、心の奥から、まるで過去の何かが蘇るような気がした。だが、彼は私が知っている彼ではない。ただ、確かにその姿は彼そのもので、でも、何かが違う。それが私を不安にさせ、深い違和感を覚えさせる。
「ここは、私に任せて下さい」
私はアーグ大隊長から離れ、アーサーとオグンに近づいた。アーサーが、シンラに向かって呼びかける。
「なんだ、お前。本当にシンラか?どうした?」
シンラは答えることなく、ニヤリと笑うだけ。その表情を見て、アーサーが何かを感じ取ったようだ。
「ん?この電気信号……地下で会ったあの、ふざけた女か……?いや、違うな……また別の奴の気配がシンラの内にいる……」
「別の奴の気配」アーサーの言葉に、私も心の中で同意する。私も感じていた。彼の中には、確かに何かが宿っている。その「何か」は彼を支配し、操っている。目の前の彼は、もはやただの彼ではない。だが、どうしてだろう? その不安定で歪んだ姿を見て、私はなぜか懐かしさを覚える。
「ハウメアではなく、別の奴の気配?アーサー、詳しく分かる?」
「いや……あのふざけた女とは違う電気信号を感じるだけだ」
「そっか」私は呟き、アーサーの冷徹な反応を見つめる。どうやら彼には、今のシンラに懐かしさを感じることはないらしい。
「十二‼︎アーサー‼︎第4にきてたのか!」
突然、パーン中隊長の声が響いた。私たちは目線だけでその方向を向けると、私は無言で鋭い視線を送った。
「別に、好きでここに来たわけじゃない」
「また地下で会った電気使いがシンラを狙ってくるかもしれないからな。第8の大隊長に、絵馬と一緒にこいつの護衛を頼まれたんだ」
アーサーは一度パーン中隊長を見つめ、再びシンラに視線を戻す。右手にエクスカリバーの柄をしっかりと握りしめている。
「あいかわらずひどい顔だな……。絵馬、行くぞ。悪魔狩りの時間だ……」
アーサーは軽くエクスカリバーを振り、その鋭い一撃を予感させる。しかし、その瞬間、オグンが慌てて声を上げた。
「おい、待て!シンラを正気に戻す方法を考えよう。十二小隊長もいるし、連携して動こう。そのためにも、まずシンラを大人しくさせないとな」
「笛吹き、援護よろしく」私は無言でバーン中隊長に指示を出し、シンラに視線を戻す。
「十二、前にも言ったが、そろそろ名前で呼んでくれ。援護は、こちらでする!三人は日下部を止めることに集中しろ!」
「言われなくても、最初からそのつもりだ」私は槍を回し、戦闘態勢に入る。
「絵馬、そうは言うがどうするんだ。伝導者のとこの電撃使いの仕業でないなら、あいつを正気に戻す方法はわからないぞ」アーサーが冷徹に問いかける。
「日下部君は、先ほど執務室で”アドラリンク”をしていた。その影響でああなっているなら、リンクを切ればあるいは……。どちらにしろ、このまま日下部君を野放しにする訳にはいかない」アーグ大隊長は静かに、しかし確信を込めて言った。
「なら、アドラリンクを切ってみます!火犬!」
私は、アーグ大隊長を守っていた火犬を呼び、シンラに向かって突進させる。シンラはその動きに反応し、素早く回避しながら、火犬を一匹ずつ消滅させていった。
「一筋縄ではいかないみたいだね……」
シンラはゆっくりとこちらを見据える。その視線が、まるで私を試すようだった。その時、アーサーの声が響いた。
「くるぞ、絵馬!」
私は震える手で槍の柄をしっかりと握り直した。いや、震えていたのは手だけではない。心も揺れていた。だが、今はそれを乗り越えなければならない。
「痛いと思うけど、ちゃんと目を覚ましなさいよね!踊れ!火猿ッ‼︎」
私は力を込めて、地面に絵を描き始めた。心が揺れる。それでも、冷静に、確実に。火猿を召喚するその瞬間、私はもう迷っていなかった。絵が急速に形を成し、炎をまとった猿の姿が現れる。その熱を感じながら、私は一歩踏み出した。
私の火猿より、シンラの方が速かった。目の前で彼の動きが一瞬で加速する。足に能力を発動させ、まるで風のようにアーサーに迫る。その瞬間、私の心が一気に引き絞られる。
「アーサー‼︎」
叫ぶ間もなく、シンラはアーサーに詰め寄った。彼の鋭い足蹴りが空気を震わせる。その動きの速さに、私は思わず目を見開く。アーサーの目は一瞬でその動きを読み取っていた。エクスカリバーでシンラの足蹴りを受け止める。その衝撃は凄まじいもので、アーサーは数メートル後退した。
「ピピーーーー‼︎」
パーン中隊長の笛の音が響き渡る。その音が、まるで私の身体に力を注ぎ込むかのように感じた。まるで、無意識のうちにその音に応えているように、体が反応する。次の瞬間、シンラは一気に私に迫ってきた。彼の動きは、私の予想を超える速さで、すでに目の前にいる。
私は一瞬も迷わず、槍を構え、その長さを自在に伸縮させて強烈な足蹴りを受け止める。衝撃が全身を貫く。どん、と重い音が響き渡る。槍がシンラの足を捉える瞬間、その圧力に耐えきれず、私は数メートル後退する。その振動が腕に伝わり、足元が少しだけふらつく。
「嘘だろ……。速すぎて見えない……」オグンの声には、明らかな困惑が込められていた。
「オグン君、前!」私は必死で叫んだ。
シンラは次の瞬間、狙いをオグンに定めた。足を振り上げ、その強烈な蹴りが空気を切り裂き、オグンの腹部に命中する。オグンの身体が空中に浮き、衝撃を受けたその瞬間、彼は腹部を抑えながら、苦しげに息を吐いた。「ゴホッ、ゴホッ」と、痛みをこらえるような咳を漏らす。
「筋力向上の笛をかけて耐久度は上げてやったぞ」パーン中隊長が冷静に言うが、その声にオグンは苦笑いを浮かべる。
「それでもクソ痛てェです……」と、息をつきながら、腹部を抱え込む。
「これが”ラビット”か。実際に受けてみると、反応はできても体が追いつかねェな……」アーサーは一歩も引かず、無表情でつぶやいた。
オグンは肩で息をしながら、少しの間、その場に立ち尽くしていた。やがて、再び冷静を取り戻し、言葉を続ける。「かなり厄介だな」
「これ以上に速さを上げられても困るね……」私はその思いを胸に、シンラの姿を見据えた。彼の中に潜む何かが、次にどんな動きを見せるのかを警戒しながら。