第参章
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静かな部屋の中、時計の針の音がひときわ耳に残る。リヒトの部屋は予想以上に整然としていて、机の上には資料や機械部品が並べられている。無造作に置かれているわけではなく、どれもが計算された配置に見えた。彼らしく、目に見えるものには一切の無駄がない。
その静寂を破ったのは、リヒトの声だった。
「十二小隊長」リヒトがポツリと呟いた。
「リヒトさん、私の武器、槍伸縮型の解析結果は?」
リヒトは槍を手に取り、慎重に回転させながら言葉を続けた。
「これ、かなり特異な構造をしています」彼は槍を指でなぞり、どこか楽しげに話し出す。
「この槍、槍伸縮型は引火性のある金属でできていることがわかりました」
「引火性…?」私は眉をひそめた。「つまり、空気や火が近くにあると発火するってことですか?合ってますか?」
リヒトは少し考えた後、うなずいた。「まぁ、そんな感じです」彼は再び槍を回しながら、目を輝かせた。
「試しに、シンラ君に槍後方の柄から炎を注いでもらって、十二小隊長みたいに絵を描いてみたんです。そしたら――」
「そしたら?」私は少し興奮気味に聞き返す。
「摩擦などによって、炎が発生したんです!」リヒトは自信満々に告げた。その言葉を聞いて、私は思わず目を見開いた。
「はぁ……」
「それだけじゃないんです!」リヒトは続けて言った。
「この槍、無能力者の僕でも、間接的ではありますが炎を発生させることができる。けれど――」彼は言葉を切り、私をじっと見据える。「炎を発生させても、十二小隊長みたいに自在に炎を操作することはできません。火縄中隊長にもリハビリがてら協力してもらったんですけど、炎を動かすことはできても、その形状を変化させるのは難しいという結果に」
「つまり?」私は問いかける。
「つまり、この武器は最初から十二小隊長のためだけに造られた武器だということになります」リヒトはにやりと笑った。
その言葉が私の頭にスッと入ってきた。あの日、バーンズ大隊長から聞いた話が、まるで繋がったかのように思えた。彼が言った、「とある組織から武器を持ち出した」という言葉。それが灰島だということが。
「驚かないんですか?」リヒトが私をじっと見据えていた。
私はその視線に気づき、現実に引き戻される。
「驚いているよ。一つ付け加えるとするならば……私の武器、槍伸縮型は、アンタが所属している灰島で製造された可能性がある」
驚いたようにリヒトの目が見開いていくその瞬間、ドアが勢いよく開かれた。
「ここにいたのか、絵馬」
声が響いた。振り返ると、そこには学生服を着たアーサーが立っていた。
「そろそろ、第4に行くぞ。大隊長の命令をまっとうせねばならないからな」
「あ、そうだった!」私は思い出したように言った。「今日はシンラの護衛のために、槍伸縮型を取りに来たんだった。ありがとう、リヒトさん」
「……あっ、いえいえ〜〜」リヒトは、何事も無かったかのように、あくまで軽い調子で答えた。
アーサーに続いて、私は廊下に出ようとした。そのとき、背後からリヒトの声が聞こえた。どこか含みを持たせた声だった。
「灰島ねェ……」
その一言が、私の胸に微かな波紋を起こす。リヒトの言葉はいつだって軽いが、何かしらの重みを伴っているような気がした。
第8教会の玄関に立つと、アーサーが突然振り返り、私に向かって言った。
「絵馬、シルバーを出してくれ!」
その一言に私は驚き、少し思考を止めた。「シルバー……?もしかして、火馬のこと?」
「そうだ!」アーサーの声にはすぐに答えが返ってきた。「騎士王は、シルバーに乗って行かねばならぬ」
あの地下で交わした、アーサーとのやりとりが一瞬、脳裏に浮かぶ。あの時、私は微笑んで言ったものだ。
「仰せのままに……踊れ!火馬‼︎」
槍で地面に絵を描き、炎をまとった二頭の火馬が現れた。炎をまとった馬たちはまるで生き物のように蹄を鳴らし、周囲の温度を一層上げていく。私はその一頭に近づき、防火バンダナを腰に乗せながら、冷静に言った。
「アーサーは第三世代だから、直接触っても問題はないけど、学生服は燃えちゃうかもしれないからバンダナの上に乗ってね」
「あぁ、賜った」アーサーは嬉しそうに頷き、火馬に跨った。
その光景を見ながら、私はヴァルカンからもらった雷火鼬を両手に装着する。続いて、私も火馬に跨った。法被が炎に照らされ、まるで自分自身もその火に包まれるような気がした。
「取り敢えず、第4に着いたら、アーグ大隊長に挨拶しないと。アーサーはそのことを桜備大隊長から――」
言葉を続けようとしたその瞬間、アーサーが私の言葉を遮るように叫んだ。
「行くぞ、画家!ハイヨ、シルバー‼︎」
私の言葉が風に流れ、アーサーは無遠慮に火馬を走らせた。炎が跳ね、周囲の地面が揺れるほどの速さで。私は思わず声をあげた。
「って、まだ出発しないでよッ!アーサー!」
だが、アーサーはすでにその背中を遠ざけ、スピードを上げていく。彼の無鉄砲さには驚くことも慣れたはずだったが、どうしても急かされるような焦燥感が心に湧き上がる。
私は一度深く息を吐き、気を取り直してその背中を追いかけた。火馬の蹄の音が響き、私はそのリズムに合わせるように第4特殊消防所へ向かって駆け出した。
じゃり。足元に響く砂利の音が、深い記憶の底から静かに浮かび上がる。ここに足を踏み入れるのは、あれから3年ぶりのことだ。
私がこの特殊消防官訓練学校に入校したのは、浅草大災害の一週間後だった。あの日、すべてが崩れ去り、私の世界は変わった。家族を失い、無力さを痛感したその後、皇国の親族に引き取られることになった。親族との関係は薄く、なぜ自分がここにいるのか、正直に言うとよくわからなかった。ただ、与えられた役目として、この学校に足を踏み入れ、何もかもを一から学び始めた。
あの頃のことは、今でも鮮明に記憶している。学校では、皇国の生活様式や学問、そして火災への対応方法を学び、時にはその難解さに心が折れそうになった。特に、教室内で飛び交う専門用語の数々には何度も混乱し、頭を抱えたものだ。それでも、実技の訓練では、浅草で培った経験が私を支えた。誰よりも速く、誰よりも正確に、燃え盛る炎に立ち向かうことができた。それは、浅草の街が焼け落ちるのを見たあの日から、私が無意識に身につけた「能力」だった。
「ん?どうした、絵馬?」アーサーが火馬から降り、私に声をかける。
「いや……ただ懐かしいな、と思って」私は少し間を置いて答える。
火馬から降り、私は槍を地面にコツンと叩く。すると、火馬は静かに消えていった。目の前の景色に目を向けると、少し懐かしさを感じながらも、ここはあくまで任務の場所だという冷徹な感覚もまた湧いてきた。
「先に、シンラがアーグ大隊長のところにいるはずだから、私たちも行こうか」冷静に言葉を選んで、アーサーに伝えた。
「そうだな」
その時、目の前から突然、声がかけられた。「アーサーじゃねェーか!」
その声に、アーサーが素早く反応する。少年がコチラに手を振りながら近づいてくる。目を凝らすと、活発そうな褐色の肌を持つ少年が見えた。黒髪のドレッドヘアーが頭の後ろで一つに束ねられており、つなぎを着て、両手首には青いリストバンドが巻かれている。
「オグンか!」アーサーが少し驚きながら、その少年に声をかけた。
「久しぶりだな、元気だったか!」
「あぁ」アーサーは頷き、少しだけ笑みを浮かべた。
「今日は何しに来たんだ?あっ、シンラも第4に来てたぞ!って、お前ら同じ第8だったな」オグンはアーサーの顔を見て、少し驚きながらも言った。
その言葉とともに、少年の視線が私に移る。「ところでアーサー、この人は?」
「絵馬だ!」アーサーが自信満々に答える。
「絵馬さん……って、第7特殊消防隊の絵馬 十二小隊長⁉︎」
オグンの声に驚きが混じり、目を見開いて私を見つめる。その瞬間、彼は急いで深く会釈した。
「挨拶が遅れてしまってすみません!十二小隊長!俺、第4特殊消防隊二等消防官、オグン・モンゴメリと言います‼︎」
「よろしく、オグン君。第7と第8小隊の小隊長、絵馬 十二です」
オグンは少し戸惑いながらも、顔を上げ、私をじっと見つめた。
「十二小隊長にお会いできて光栄です。ずっと一度、お会いしてみたかったので」
「ん?浅草に行ったら、いつでもいるはずだぞ」アーサーは首を傾げる。
「アーサー、すまねェが少し静かにしててくれ」オグンは少し呆れながらも、やんわりと注意する。そして、再び視線を私に戻す。
「第二世代の中でも、第三世代のように炎を自在に操り、技を繰り出す能力者であると……。ここでお会いするとは思っても見なかったので、素直に嬉しいです」
「そう、ありがとう」私は少しだけ微笑みを浮かべて答える。
「俺やアーサー、シンラと同じ、特殊消防官訓練学校卒業生だと聞いています。しかも、戦闘訓練でその年の首席だったとか……色んな噂を聞いています」
「噂ねェ……」私はその言葉に、思わず鋭い視線をオグンに向ける。
「絵馬……俺たちと同じ卒業生だったのか⁉︎」アーサーが驚いたように、私を見つめて言った。
「そうだよ、前にも伝えていたと思うけど」
「忘れた!」アーサーが開き直る。
私は苦笑し、その光景を見たオグンが楽しげに言った。
「噂は噂でも、俺はしっかりと十二小隊長に会って、どんな方なのか知りたかったんです。実際、気さくな方ですねェ」
「……オグン君」
「はいッ!」
「君、良い子だね」私は、彼の純粋さに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます‼︎」オグンは、その笑顔を浮かべて答える。
「アーグ大隊長のところに行くんですよね?俺、案内します!」
「話が速くて助かるよーー」
その時、私の声を遮るように、突然、バリンと窓ガラスが破壊される音が響き渡った。
「なんだ⁉︎」オグンが驚き、声を上げる。
「敵か⁉︎」アーサーもその音に気づき、周囲を見渡す。
「少し、離れた場所でなったね!」
「十二小隊長、方角からして第4特殊消防所で何かあったと思います!」オグンは冷静に状況を分析し言った。
「わかった。オグン君、道案内を頼むよ!アーサー、行くよ」私は、即座に指示を出す。
「あぁ」
アーサーは一言だけ返し、私たちはオグンの案内でその場所へと駆け出した。