第参章
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懐かしい、という感情が胸を締めつける。何故だろう。目の前にいる彼を見ていると、心の奥から、まるで過去の何かが蘇るような気がした。だが、彼は私が知っている彼ではない。ただ、確かにその姿は彼そのもので、でも、何かが違う。それが私を不安にさせ、深い違和感を覚えさせる。
「別の奴の気配」とあの子が言っていた。私も感じていた。彼の中には、確かに何かが宿っている。その「何か」は彼を支配し、操っている。目の前の彼は、もはやただの彼ではない。だが、どうしてだろう? その不安定で歪んだ姿を見て、私はなぜか懐かしさを覚える。
その時、あの子の声が響いた。
「くるぞ、絵馬!」
私は震える手で槍の柄をしっかりと握り直した。いや、震えていたのは手だけではない。心も揺れていた。だが、今はそれを乗り越えなければならない。
「痛いと思うけど、ちゃんと目を覚ましなさいよね!踊れ!火猿ッ‼︎」
私は力を込めて、地面に絵を描き始めた。心が揺れる。それでも、冷静に、確実に。火猿を召喚するその瞬間、私はもう迷っていなかった。絵が急速に形を成し、炎をまとった猿の姿が現れる。その熱を感じながら、私は一歩踏み出した。
「絵馬、火は集まったか⁉︎」
カリムの声が私の耳に届く。視界の隅で、彼が振り返り、瞬時に私の名前を呼んだ。その声に、私はほんの一瞬、耳を傾けた後、再び手を動かし始める。
「悔しいけど、周りの炎だけで十分すぎるくらいにはねッ!」
自分でも驚くほど、言葉がしっかりと口から出てきた。火は次々と集まり、手のひらで槍を巧みに操り、まばらに広がった炎が、次々と槍伸縮型に吸い込まれていく。
ふと顔を上げると、茉希が必死に炎を抑えている姿が見えた。彼女の顔には苦しみが浮かび、身体を震わせながらも必死に耐えている。
「茉希、後三秒持ち堪えて‼︎」
「はいィ……。3……2……うぐっ……絵馬さん、カリム中隊長ォ、私もう無理ですぅ……」
彼女の声がかすれ、炎の抑制が効かなくなってきたことがわかる。だが、彼女はよく頑張った。この瞬間、すべての力を槍伸縮型に集中することができた。
「持ち堪えてくれてありがとう、茉希!カリム‼︎」
感謝を込めて叫ぶと、カリムがこちらに目を向け、力強くうなずいた。そして、再び前を向く。その眼差しに、覚悟が込められていた。
「ああ、よくやった!あとは俺たちに任せろ‼︎」
彼のその言葉に、私は一度深呼吸をする。カリムが武器をしっかりと握りしめた。
その瞬間、私は地面に絵を描きながら、周りの炎が渦巻く様子を肌で感じた。炎が暴れながら、私の意志に応えるようにうねり、その力が増していくのを感じる。
「踊れーー」
その言葉が空気を震わせ、炎が一気に駆け巡る。すべての力を、この瞬間に注ぎ込むために。
海は、どこか生温かい光に包まれていた。太陽はまだ高くないものの、その光は確実に海を照らし、青さを一層際立たせている。風は穏やかで、波も静かだ。
「緊張しているのか?」
その声が、突然、背後から聞こえた。振り向くと、彼が立っていた。空気の流れがその声を運んできたのだろう。彼の顔には、何かを言いたげな表情が浮かんでいたが、それを口にすることなく、ただ黙って私を見つめている。
「緊張……は、してます。この槍の情報を知れると思うと」
そう言って、私は手に持つ槍伸縮型を見つめる。冷たい金属の感触が、指先を伝って、私の胸の奥に不安を引き寄せる。これが、私に与えられた最後の答えだ。真実を知れば、すべてが変わる。しかし、その変化がどこへ導くのか、私はまだ予測できなかった。
「絵馬、真実を知ることは時に、己自身を苦しませることにもなる」
「はい」
「だがな、真実を知ってから、お前がどう生きるか、それが最も重要だ」
彼はゆっくりと、私を見据えるように言った。その言葉が、私の心を震わせる。今、目の前にある槍の情報。それが何を意味するのか、それを知ることが、私の未来にどんな影響を与えるのか、すべてが不確かで、怖ろしいほどの重さを感じる。
私は深く息を吸い、再び槍を握りしめた。その冷たい金属の感触が、心を引き締める。もう一度、視線を海に向けると、その青い広がりの中に、どこか遠くから迫る波のような予感を感じ取った。