第弐章
夢小説名前設定
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「バーンズ大隊長!」
私の呼びかけに、バーンズ大隊長は足を止め、ゆっくり振り返った。表情に驚きの色はなく、ただ静かに私を見据える。
「十二小隊長、君がいるのは気づいていた。声をかけず去ってすまなかったな」
「いえ、それについては気にしないでください」
私は少し背筋を伸ばして、素直に答える。バーンズ大隊長はそのまま私の目をじっと見つめているが、次第に表情が緩み、ゆっくりと頷いた。
「そうか……。地下から帰還、ご苦労だった」
「あ、ありがとうございます!バーンズ大隊長、その……少しお話をしたいのですが」
言葉が続かず、私は間を置く。今の私には、彼に話すべきことがいくつかあった。地下での出来事、そして、いまだに解決しきれない疑問の数々。私が抱えているものが、胸の内で膨らんでいく。
「なんだね?」
バーンズ大隊長は、私を見下ろしながら静かに言った。その声は、穏やかでありながらも、何かを見透かすような鋭さが感じられる。私は息を呑み、そして意を決して話し始めた。
「過去に、シスターが小さな子どもを連れて火事から逃げた、という報告はありませんか?」
バーンズ大隊長は一瞬、眉をひそめたが、すぐにその目を鋭く細め、私をじっと見つめる。
「……それを聞いて、君はどうしたいんだ?」
私の言葉に、彼は冷静に返した。その口調には、疑念とともに何か警戒心も混じっているようだった。
「えっと、バーンズ大隊長なら、ご存知かと思いまして。もし何か、情報があればと思ったわけです」
私はできるだけ平静を保ちながら答える。しかし、心の中では不安が大きくなっていた。バーンズ大隊長の反応が、何かを隠しているように感じられたからだ。
しばらく沈黙が流れ、バーンズ大隊長は腕を組みながら、空を見上げる。その表情には、深い思案とともにわずかな疲れが滲んでいるように見える。彼は、何かを考えているのだろうか。やがて、ゆっくりと口を開く。
「その件については……確かに、昔、報告を受けたことがある。シスターと子どもが火事から逃げたという話だ。だが、詳細な情報はほとんどなかった。君がそれに執着する理由は、何かあるのか?」
私は少しの間黙っていた。答えに詰まったわけではない。胸の中で膨れ上がる疑問に、どう言葉をつなげるべきかを考えていた。
「実は、そのシスターのことが気になっていて。彼女が持っていた物や、その後の足取りについて、もう少し調べたいんです。もし、バーンズ大隊長が知っていることがあれば、教えていただけないでしょうか?」
言葉を絞り出すようにして話すと、バーンズ大隊長は再び黙ったまま考え込んだ。その表情は硬く、そして少しだけ遠くを見つめている。私の言葉がどう響いたのか、彼の心の中を計りかねる。
「……そのシスターが持っていた物について、心当たりが少しある」と、彼はようやく口を開いた。
その言葉に私はすぐに反応できなかった。期待と不安が入り混じり、心臓が少し速く鼓動する。
「だが、それ以上のことはわからない。あまり深入りするなよ、十二小隊長」と、バーンズ大隊長は警告のような口調で続けた。
「危険な匂いがする」と、彼の言葉は私の胸にずっしりと重く響いた。
「危険な匂い、ですか?」
私は思わず声を上げる。しかし、バーンズ大隊長は無言のまま、ただ私をじっと見つめ続けていた。沈黙が長く続く。彼の目からは、何かを悟っているような、知っているけれど言えないことがあるような、不思議な重圧を感じる。
「……ああ」と、彼がやっと答えた。「彼女は、とある組織から武器を持ち出したんだ」
「とある組織……?」
「灰島だ」
その一言に、私は驚きのあまり言葉を失った。灰島――。それは、私の知らぬ間に関わりを持っていた組織の名前だ。しかし、それ以上に彼の言葉の重さが心にのしかかってきた。
「その武器に関しては、詳しくは知らない」と、バーンズ大隊長は続けた。だが、彼の表情には、言葉以上の何かが隠されているように感じられた。
「そう……ですか」と私は短く返すしかなかった。
「十二小隊長」と、突然バーンズ大隊長が声をかける。その声には、今までとは違う、少しだけ硬い響きがあった。
「この場に置かれている状況が、すべて真実だとは限らないぞ」
その一言が、私の胸に鋭い痛みを走らせる。
「それって、どういう意味……?」
「話は終わったかね?」
振り返ると、オニャンゴ中隊長が歩み寄ってきていた。いつの間にこんなに時間が経っていたのだろうか。目の前に立つ彼の歩き方に、少しばかり急ぎの色が見えた。
「ああ……絵馬小隊長、私は第1に君をいつでも歓迎している」
その言葉が予想外だった。まさか、こんな形で名前を呼ばれるとは思わなかったから。
「えっ!下の名前……?」
驚きがあまりにも大きすぎて、思わず言葉を飲み込んでしまった。バーンズ大隊長が私の名前を呼ぶ瞬間、それは予想以上の衝撃を与えた。
「どうした? 驚いたか?」バーンズ大隊長は、ほんの少しだけ楽しげな笑みを浮かべながら、私を見つめた。その笑顔の中に、何か余裕のようなものを感じて、私の心はますますざわついた。
「絵馬小隊長とは長い付き合いになるだろうから、そろそろ良いかと思ってな。嫌だったのなら、戻すが」
「いえ、ありがとうございます……バーンズ大隊長」
思わず声が震え、戸惑いを隠せなかった。冷静でいようとするのに、言葉が出てこない。私は無理に答えた。その返事が、少しだけ自分を取り戻すためのものだった。
「そうか。では、また何かあれば第1に来なさい」
「承知しました」
私は軽く頭を下げ、二人を見送った。彼らが去って行くのを見つめるうちに、気づけば自分の手が微かに震えていた。バーンズ大隊長が名前で呼んだことに、思いがけず動揺していたことを、今になってようやく実感する。
そして、彼の言葉が、ふと脳裏に浮かんだ。
「この場に置かれている状況が全て真実だとは限らない……か」
その言葉が、何度も頭の中で反響し、私を捕えて離さなかった。まるで彼の言葉が、私を試しているかのようで、その奥に隠された意図を探ろうとすればするほど、答えが見えなくなっていく。どうしてこんなに心がざわつくのだろうか。なぜ、あの言葉がこんなにも胸に残っているのか。
私はその場に立ち尽くしたまま、深く息を吸い込んで、ぼんやりと空を見上げた。