第壱章
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「アナウンスが放送されるまでの間は一旦、観戦席で座って待とうと私は思っているのだが、十二小隊長はどうする?」
バーンズ大隊長は記入した紙を受付担当隊員に渡した後、少し屈んでいた身体を戻して私の方を見る。
アナウンスが放送されるまではこの辺りで待機していても良いし、バーンズ大隊長と一緒に観戦席に移っても、正直どちらでも問題ない。なので、私は彼の意向に従おうと思い、口を開く。
「私は、バー……」
「すいません」
急に誰かが私の声を遮ってきた。
「ん?」と、バーンズ大隊長が後ろを振り返る。
バーンズ大隊長の身体と声の主の身体が重なって見えなかったので、私は少し身体をズラして声の主を見る。すると、視線がぶつかった。
「あ……」
「あ!」驚いたのは私だけではなかった。同じタイミングで声を上げてしまう。
バーンズ大隊長は、私が驚いている表情を横目で見ながら、「何か用か?」と声の主、つまりその少年を見つめた。
「今年入隊した新人かい?」
「はい!」
少年はしっかりと敬礼をし、ちらちらと私の方を見ながら答えた。
「第8の特殊消防官、森羅 日下部です」
「私の所属する隊の後輩、シンラ隊員です」
私はバーンズ大隊長を見上げながら、シンラを簡単に紹介した。シンラがバーンズ大隊長に何か用があって呼び止めたのか、それとも私とバーンズ大隊長が一緒にいるのを見かけて声をかけてきたのか、私には分からなかった。ただ、シンラの話し方から察するに、恐らく前者だろう。私のことを知らずに呼び止めたように思えたから。
「あの、つかぬことをお聞きしますが、十二年前の火事を覚えていますか?」シンラが真剣な様子で尋ねる。
バーンズ大隊長はじっとシンラを見つめるが、何も返答しない。どうやらこの二人の間には、私が知らない十二年前の火事に関する共通認識があるようだ。私は、彼らの会話を聞く方が良いと思い、じっとその様子を見守ることにした。すると、バーンズ大隊長がくるりとこちらに振り向いた。
「今、君と話している暇はないんだ。すまないね」
バーンズ大隊長はシンラに背を向け、片手を上げた。そして、私を見下ろしながら、「十二小隊長、すまないが私は先に行く」と呟いた。
「エ……ちょっとだけでいいんです!」
シンラは慌てた様子で、歩き出したバーンズ大隊長に再度呼び止めようとする。その瞬間、私の横を誰かが通り、シンラの前に立ち塞がった。
「テメェー‼︎第1の大隊長に気安く話しかけてんじゃねェよ。きゃん♡」
喧嘩越しにシンラの前に立ちはだかったのは、ツインテールの少女だった。彼女の防火服には「1」のエンブレムが光っている。もしかしたら、先ほどバーンズ大隊長が紙に名前を記入していた、第1隊員の子かもしれない。
少女はシンラを睨みながら近づいてきてーーーー。
「わ‼︎違う‼︎ごめんなさい‼︎」
「なに笑ってんだよ!変態‼︎」
こちらからは見えにくいが、どうやらシンラとその少女の間には何かしらのトラブルが発生しているようだ。シンラは少女から慌てて離れ、私とバーンズ大隊長の方へ近づいてくる。
「第1の大隊長!少しだけでいいんです!」
バーンズ大隊長は足を止めるが、依然としてシンラの方には振り向かない。一方、少女はヨロヨロしながら、他の隊員から胸やら尻を触られたり、自ら触られに行ったりしている様子を見て、少し可哀想になった私は、バーンズ大隊長に声をかけようとする。
「バーンズ大隊長、あの子……」
はぁっと短い吐息をついた後、バーンズ大隊長は振り返った。
「おい、タマキ……落ち着け」
タマキと呼ばれた少女は、ピタッと動きを止め、その場で四つん這いになってすすり泣いている。
「チクショウ。こんな時もいつもの”ラッキースケべられ”が発動するとは……」
「邪魔しにきたんだろうけど、マジで邪魔だわお前……」
タマキの”ラッキースケべられ”に巻き込まれたシンラは、顔を赤面させたままやるせない表情を浮かべていた。その瞬間、お知らせのチャイムと共に近くに設置されていたスピーカーから男性の声が聞こえてきた。
”まもなく競技が始まります。参加者の隊員は防火服を着用し集合して下さい。ボランティア隊員は、競技会場前に集合して下さい”
私はその放送を聞きながら、大会がそろそろ始まることを実感する。視線をバーンズ大隊長に戻すと、彼が冷たい目でシンラを見つめている姿に、一瞬背筋がゾクリとした。
「シンラ隊員と言ったね。年間に何件の火事が起こるか知っているのかね?申し訳ないが、十二年前のことは覚えていないな。競技が始まるぞ、支度したまえ。十二小隊長、君も集合場所に行きなさい」
そう言って、バーンズ大隊長はタマキ隊員を引き連れ、私たちから離れその場を立ち去っていった。
「絵馬さん、先程はすみませんでした!俺、どうしても第1の大隊長に聞きたいことがあって、絵馬さんと第1の大隊長の話しに割って入ってしまいました」
シンラは私に敬礼した後、バーンズ大隊長と私が話しているところに割って入ったことを謝罪してくる。私は首を左右に振った。
「いいよ、そんなに私は気にしていないから」
実際、私にとってシンラとバーンズ大隊長の接点が気になっていたため、それほど気にしていなかったのだ。絵馬と呼ばれることに、少し戸惑いながらも彼はおずおずと尋ねてきた。
「絵馬さんのもう一つの所属している部隊って……もしかして「第1小隊」なのでしょうか?」
「ん?どうしてそう思ったの?」私はシンラの問いに首を傾げる。
「絵馬さん、第1の大隊長に小隊長と呼ばれていますし、それに……第1の防火服を着ていますから」
シンラの緊張した様子は、ニヒルな笑みからも伝わってくる。彼の視線が、私が着用している第1の防火服に向いていた。私は、そのエンブレムを指で軽く引っ張りつつ答える。
「あぁ、これね。私、第1で研修生として勤務していた時期があったんだ。その時に来ていた防火服だよ」
「第8小隊に入る前ですか?」
「うん。実際は、半年しかいなかったけどね」
ハハハと軽く笑うと、シンラのニヒルな表情が少し和らいでいく。バーンズ大隊長が近くにいたため、相当緊張していたのだろう。そんなことを考えていたとき、背後から凛とした声が響いてきた。
「オイ、貴様は何者だ?」
振り返ると、フードを被った少年が立っていた。その突然の登場に、私は驚きを隠せない。
「え?誰、君?」
「君ではない。俺の名は、アーサー・ボイル騎士王だ‼︎!」
「ハ、ハァ……」
「バカ騎士ッ!」
シンラは私の背後に回り込み、アーサーと名乗る少年に向かって怒鳴った。
「何だ、悪魔?」
「何だじゃねェよッ!この前、桜備大隊長が言っていただろうが!俺たちの他に2つの隊に所属して勤務している隊員がいるって」
アーサーという少年は、私の顔をじっと見つめ、何かを思い出したのかフッと鼻で笑った。
「貴様が!姫君が言っていた画家か⁉︎」
「画家?姫君?」
何を言っているのか分からず、私は困惑した。アーサーの言葉が理解できなかったとき、シンラが代わりに説明してくれる。
「すみません、絵馬さん!こいつ、最近第8小隊に所属したやつで……俺と同じ訓練校出身なんです」
「あぁ!君が、最近第8小隊に入ってきた子だったんだ。宜しく、私は絵馬 十二。同じく第8小隊の隊員だよ」
桜備大隊長が言っていたアーサーという子か。金髪で青い瞳を持つ少年に軽く自己紹介をし、お互いに握手を交わした。アーサーが手を離すと、彼が疑問を投げかけてくる。
「ところで画家、何故貴様は違う隊の防火服を着ているのだ?」
アーサーもシンラと同じように、私が着ている”第1”の防火服を見て疑問を持っているようだ。それに、アーサーは私を画家と呼ぶ。先ほどの画家とは私のあだ名だったらしい。まぁ、いいか。私はアーサーを見つめながら、軽く答えた。
「うーん。今回は第8小隊でなく、別の隊でボランティアに参加するからだよ」
「うむ。納得した」
「お前ェ……絵馬さんにーー」
「あー、いいよ、いいよ。シンラ、落ち着いて!私は気にしてないからさ」
シンラがアーサーの胸ぐらを掴みかけていたのを止めながら、彼が冷静になるように促し、話題を変えることにした。
「ほらッ、二人とも。さっき、集合の放送があったから行こうか!私も二人の競技場所に集合しないといけないからさ」
個性豊かな隊員が第8小隊に入ってきたなと感じながら、私は二人の背に回り込み、ぐいぐいと押しながら集合場所へと向かうように促した。