自信がついたようで何よりだけど
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「アズール…、」
経済誌やらビジネス書やら… ベッドの上に色々広げてそいつに夢中になっているアズールの横顔をしばらく見つめていた。
「ん?」
それらから目をそらす事なく返事をしたアズールに手を伸ばす。極力優しく頬を撫でてから耳を触れば擽ったそうに眉を寄せて視線を向けてくれた。
「何…どうかした?」
瞳を見れば分かる…僕に嫌悪感がない事が。初めて僕に歩み寄ってくれた人。初めて触れてくれた人。初めて僕を認めてくれた人…。暴言と暴力ではない…賞賛と信頼をくれる唯一の人…。
「君が好きだ…アズール」
「え…、…何を今更。僕だって君が大切だ」
「僕は…君が思っているよりもずっと君の事が好きなんだ。…君の望みは何でも叶えてあげたいし君を幸せにしてあげたい」
「僕も同じ…」
「違うよ。違うんだ…。…僕は君を…愛しているんだ。…死ぬまでそばに居たい。僕と生涯を共に…、…っ、いや、…ごめん…なんでもない…」
「え?あ、ちょっと…」
こんな醜い奴が言っていい事じゃない。望んでいい事じゃない。アズールは綺麗で、輝いていて、僕とは住む世界が違う。傍にいたらきっと邪魔になる…。
思わず部屋を飛び出した。…気色悪い事を言ってしまった。嫌われたら…どうしよう。…いや、アズールは違う。子供の頃からアズールだけは…僕を否定した事は一度もない。でも…、…ダメだ、頭を冷やそう。
───
「あら、何してるのよ一人で」
「ヴィル・シェーンハイトっ!ごフッ…」
よりによって何でこの人が…。寮から出るんじゃなかった…。中庭のベンチに座る僕を腕を組んで見下ろすヴィルさんの瞳は冷めている…怖い。…でも、蔑んだ目じゃない。…少なくともこの人は口汚く罵ったりはしない。
「アタシの美しさに慣れないのは分かるけど吐血はやめて」
「美人はいつだって無茶言うよな…」
「は?」
「アズールも無茶ばっか言うんだ。そのわがままが可愛くてどんな手を使ってでも望みを叶えてやりたくなる」
「ちょっと、惚気を聞く気はないわよ」
相変わらず冷たい視線。でもそれが逆に美しさを際立たせているような気もする。…この人は綺麗だ。顔も、姿も、瞳も、心も。…全てが。強くて美しい。だから苦手だ…。
「あんたみたいに綺麗なら…胸を張ってそばにいられるのに…」
「………」
…っうわ…、と、とと隣に座ってきた…何で?美しい人が僕の隣に…っこ、怖い…。
「アンタのダメなところはそこよ。卑屈で勝手に自分を醜いと決めつけている。その姿勢こそが最も醜いわ」
「はっ…見た目だけじゃなく中身まで醜いなんてな。生きる価値がないのに死ぬ勇気もないゴミでどうもすみませんね」
「なんかイデアと話してる気になってきたわ…。アンタ本当に鏡に映る今の自分が醜いと思うの?」
「鏡は本当の自分を映す残酷な道具だろ」
「現実を見るのも本当の自分を受け入れるのも大切。でも一番大切なのはなりたい自分になる為の努力を怠らない事。見なさい。鏡は醜いと言わせない為にアンタがしてきた努力をそのまま映しているわ」
「………」
「その姿は誰がなんと言おうと美しいのよ。なのにアンタがアンタを否定してどうするの?他人にも自分にも醜いなんて言わせないで。…美しさを認めて自信を持ったアンタは無敵。口に出して言いなさい」
「………ぼ…っ、私…は…無敵…。私は、…美しい。今この瞬間…誰よりも…、…私が最も美しい…」
「まぁアタシの次だけど」
「うう…」
何なんだ…この人の発言の力強さは…。気品があるから?…自信に満ち溢れているから…?美しさは力、なんだろうか。この人の言う事は絶対に正しいと、間違いなんてひとつもないと思わずにはいられない。気力に圧倒される…やっぱり苦手だな。でも…、………憧れる。
「───やっと見つけた…!」
「!」
ヴィルさんを見送ってから数分、どんな顔して戻ればいいのか分からなくてぼーっとベンチに座っていた。そんな僕に駆け寄って来たのは…、
「う…アズール………」
「急に飛び出していくから心配しただろ…っ」
肩で息をしている。珍しく汗までかいて…。…本当に…心配して探し回ってくれたのがひと目でわかる。…君だけだよ。僕なんかを心配してくれるのは…。
「はぁ…、はぁ…」
「ごめん…アズール…」
隣に座ったアズールの額にハンカチを当てる。…こういう事も嫌がらないのが嬉しい。僕がする事を拒絶しないのが…とても嬉しい。まぁこんな事はアズール以外にしようとも思わないが。
「…あのさ…」
「はぁ…っ、…何?」
「………君の望みは…全て叶える。沢山笑わせる。幸せにする。だから…僕と、…生涯を共にしてくれないか」
「改まって何の確認なんだ…。そんな当然の事を…」
「え…当然?」
「子供の頃から何度も言ってるだろ。君が大切だと。君が僕に思う事と同じ事を僕も思うんだよ」
「いや……でも、」
「なぜ僕の言う事が信じられないんだ!」
「だ、だって僕は…君を愛している」
「僕もだって言ってるだろ!」
「…そんなわけ…だってこんな醜…」
"アンタがアンタを否定してどうするの?"
"美しさを認めて自信を持ったアンタは無敵"
「………、………ぼ、僕は…僕は!努力をしている。誰にも醜いなんて言わせない為の努力を…っ」
「うん…?」
「君の望む最高の魔法薬を作れる。…魔法薬もこの美しさも、君の役に立つ…自信がある!君の隣にいても恥ずかしくないよ!」
「え……さっきから何なんだ…分かりきってる当然の事ばかり……」
「アズール、…好きだ」
「知ってる」
「綺麗で、夢や希望に満ち溢れて輝いている君が好きだ」
「ええ、それはどうも!」
「僕と……ずっと一緒に…っ」
アズールの手に口を塞がれた。…喋るなって事?…続きは聞きたくないって……いや、違う。アズールは僕を否定したりなんかしない。何か考えがあるんだ…。
「分かった」
何が………、
「僕らは互いの事を知り過ぎている。言葉にしなくても伝わる事がほとんどだ」
「………」
「でも君は自分に自信がないあまりに時々こうなる。…僕が悪かった。君の性格は一番よく知っているのに…」
何を言っているんだ…?アズールが謝る事なんて何もないのに…。
「これからははっきり言う事にしましょう。気恥しいですが…」
「え…?」
「僕にとって君は特別だ。…君が僕に思う事と同じ事を思っている。…君が好きだし、愛している。君がいない未来なんて考えたくもない」
「アズール………」
「…だから、僕とずっと一緒にいてほしい」
…それは、さっき僕が言いかけた事だ。…君に口を塞がれたから言えなかったが……何だ、遮らせたのは僕に言わせろって事だったのか……。
「ごめんね…気を使わせて…」
「この程度で君が安心するならなんて事ない」
「でも…顔が赤いよ」
「走ったせいだ!」
「ふふっ…。…抱き締めてもいい?」
「ここで…!?……まぁ、いいでしょう……」
中庭だもんな…。誰かに見られたら…と考えたんだろうけど許可してくれた。…嬉しい。
極力優しく…壊れないようにそっと抱き寄せた。…ずいぶん熱いな、君の体は…。
「ありがとう、アズール……」
「…今後何があっても僕の気持ちを勝手に決めないように」
「ああ…」
「自分は完璧だと自覚して自信を持ちなさい」
「…はい」
「よろしい」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる…どうして君は、僕を喜ばせる事しかしないんだろうな…。
「好きだ……」
「知ってる。…僕の気持ちは?」
「…分かってる…。君も同じだろ?」
「分かっているならいい」
「君がいれば…後は何もいらないな…」
「………その点だけは同意しかねます」
「ははっ!分かってるさ!それがいいんだ。僕は夢、希望、願望、野望…はっきりとした目的があり明確に動いている君が好きなんだ!」
「急に元気だな…僕は疲れた…」
「僕のせいかな…」
「そうだと言ったら?」
「ごめんね。…部屋まで運ぼうか。お姫様抱っこしてあげる!」
「やめてください。彼女に姫抱きにされているなんて噂が広まったら馬鹿にされる」
「噂も馬鹿にする奴も消せばいいだけの話だろ。君の邪魔する奴は魔法薬の材料にしてやる」
「ふふっ…僕は君のそういう思考が好きですよ」
「じゃあ抱っこしていい?」
「それはダメ」
「…部屋ならいい?」
「人の目がないなら君のしたい事を断る必要がない」
「じゃあ帰ろう!君の部屋に!…手を繋ぐのはいいだろ?」
「それくらいなら…」
「へへっ…アズちゃん、大好き」
「…僕もだ」
「……………、
《自信がついたようで何よりだけど》
時と場所は選びなさいと言う必要があるわね…。まったく…見てるこっちが恥ずかしいわ」
──ヴァレッタの様子が気になり戻って来ていたヴィルは少し離れた所から二人を見て溜め息混じりにそう言った。
End.
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