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シカゴの戦いから時が経ち、両軍の間に結ばれた危うい和解。
サイバトロン星の再建と地球という小さな…しかし温かな惑星を仮住まいとするために結ばれた協定の元、かつての敵同士が一つのラボに集っていた。
『…ショックウェーブ、ここの出力計算は…これで、よろしいでしょうか?』
白く華奢なアウディA4のビークルを持つオートボットの女性戦士、◯◯◯は、手元の端末を差し出しながらも、決して彼の一眼を見ようとはしなかった。
ショックウェーブの肘ほどまでしかない◯◯◯との身長差は、かつての科学者仲間だった頃から変わらない。だが、かつてはもっと親密に交わされていたはずの視線が、今はショックウェーブの一眼を捉えることはなく、虚空を彷徨っている。
『…修正は不要だ。極めて論理的な数値と言える』
ショックウェーブの淡々とした声が響く。
隣ではキューが『素晴らしいな、流石は元科学者だ!』と陽気に声を上げているが、二人の間に流れる不自然なまでの沈黙を、ショックウェーブは非論理的だと感じていた。
『おい、ショックウェーブ。本当にお前たちは旧友なのか? 彼女、お前と話す時だけ、まるで回路が凍りついたような顔をしているぞ』
背後で通信端末を操作していたサウンドウェーブが、重低音で問いかけるが、ショックウェーブは答えなかった。ただ、かつてディセプティコンへの合流を断った◯◯◯の、あの時の決然とした瞳を思い出していた。
かつての勧誘、そして彼女の拒否が現在の2人の間に流れるこの不自然な空気の元になっていることにも気がついている。以前、ジャズに気まずさの理由を聞かれた◯◯◯がそう答えたのを知っていたから。
ラボの廊下で、同い年のジャズが◯◯◯に気さくに声をかけるのが見えた。
『よう、相棒! さっきの手際の良さは、相変わらず最高だったぜ!』
『ふふっ、ありがとうジャズ』
ジャズに見せる、柔らかな微笑み。
ショックウェーブはその光景を、数十メートル先からじっと無言で見つめていた。
ジャズが彼女の肩に親しげに手を置いた瞬間…ショックウェーブの回路が、異常な警告を発した。胸の奥で、かつての爆撃でも感じたことのないような、激しいノイズが走る。
『…何だ、これは』
その日の午後、作業を終えた◯◯◯が、キューと共にラボを去ろうとした時だった。
『待て…君は、残れ』
ショックウェーブの鋼鉄の指が、彼女の細い手首をやんわりと…だが決して逃がさない強さで掴んだ。
『え…っ?あの、 ショックウェーブ…?』
驚いて顔を上げる◯◯◯から視線を外すことなく、キューが先に退出するのを確認すると、ショックウェーブはラボの扉を静かにロックした。
『え、っと…未処理のデータが…っ!?』
言葉が途切れた。
巨躯を持つショックウェーブが、◯◯◯を部屋の隅へと追い詰める。逃げ場のない壁際…彼の巨大な影が、華奢な彼女を完全に覆い隠した。
ショックウェーブは◯◯◯に圧迫感を与えないよう、わずかに屈んでその赤い一眼を明滅させる。
『説明しろ。…今の私の回路の異常、および循環液の温度上昇の原因を』
その声は、冷徹で論理的な計算に基づいたものではなく、どこか切迫した熱を帯びていた。
『ジャズと接触する君を見た瞬間、私の思考回路は大部分が機能停止に陥った。これは非論理的だ。…この、胸の奥で渦巻く不快なノイズの正体は何だ…?答えろ、◯◯◯』
静かに、だが捲し立てるような問いに、◯◯◯はキョトンとして固まっていた。
だが、その一眼の奥に宿る、“戸惑い”に気付いた時、彼女の頬が紅に染まる。
『…ショックウェーブ。それは、おそらく…“嫉妬”という感情、ではないかと』
『…嫉妬だと?』
ショックウェーブは動きを止め、その単語を自身のデータベースで照合した。
…ジャズに向けられた彼女の笑顔。それを消し去り、自分だけのものにしたいと願う衝動。
『…成程。これが“嫉妬”か…ならば、次の論理も確定する』
ショックウェーブは逃がさないよう◯◯◯の両脇に手をつき、さらに距離を詰めた。◯◯◯が驚いたように見上げる。
こうして視線が合うのは、随分久し振りのように感じられた。
『サイバトロン星時代から、私の回路は君という存在を常に最優先していた。…どうやら、私は君のことが好きらしい』
『…えっ、』
『…返答を、◯◯◯。Yesか、Noか』
それは、あまりに直球な、彼らしい告白だった。
『え、あ…あの、それは…あまりにも、急で…』
『…Noか? 私のことが、嫌いなのか…?』
わずかに視線を逸らしながら問うショックウェーブの仕草には、論理を信奉する彼らしからぬ「不安」が滲んでいた。
『…嫌い、な訳がありません! 私だって、ずっと…ずっと、貴方のことを想っていましたから!』
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、◯◯◯の視界は銀色の硬質な胸部装甲で埋め尽くされた。
ショックウェーブが、壊れ物を扱うように、確かな意志を持って、◯◯◯をその腕の中に引き寄せたのだ。
『…満足のいく返答だ。君の心も、私の管理下にあることが証明された』
『管理だなんて…もう、ショックウェーブは相変わらずですね』
大きな腕の中で、彼女の小さな笑い声が響く。
論理では説明できない温かな熱が、2人の間に静かに満ちていった。
【菫さま、素敵なリクエストありがとうございました!】
