Ratchet
夢小説設定
この小説の夢小説設定本人曰く、至って普通の20代日本人。
国防長官ジョン・ケラーと面識があったため、大学院卒業後すぐ彼によって就職先を斡旋され… 現在人類と金属生命体の緩衝材として軍地基地に勤務中。
「私はジョンに騙されたの!!」…とのこと。
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『思ったより早かったなぁ』
『ああ。早く事を終わらせたいのは皆同じだ』
『こっちも変わりはなかったぜ』
遥か頭上で交わされる司令官と副官との会話を、翡翠は見上げながら聞いていた。
その日、久し振りにオートボット全員が揃った。任務に出ていたオプティマス、ラチェット、アイアンハイドが戻ったのだ。
翡翠は任務地にはもちろん行ったことはないけれど、任務から帰ってきたオプティマスはいつも穏やかな表情をしている…それだけ、大変なことを終えてきているんだろうな、と思っていた。
「とにかく、今回も無事戻ってきてくれてよかった」
『うむ』
オプティマスににっこりと微笑んで、翡翠は手にしていたパンを頬張った。
こう見えても、軍事施設で一人奮闘中…しかもここ数日のちょっとした出来事のせいで今の翡翠には、ほんの少しの時間すら惜しかった。
お行儀が悪い、というのは今回ばかりは見逃してほしい。
『翡翠、食欲出てきたんだね』
「うん、今は前以上にお腹が空いちゃうくらい」
『ホントによかった、心配したよ』
座っている翡翠の背凭れになってやっているバンブルビー。
安堵の様子を見せる彼と翡翠の些細な会話だった。…いや、だったはずだ。
でも、その会話に反応を見せた人物が一人…
『翡翠、具合でも悪かったのか?』
「え?あ、うん、でももう大丈夫だよ」
ふいに声をかけてきたラチェットに頷きながら、翡翠がさらにパンを頬張る。
『……………』
「いや、そんなじっと見られても…」
実は先日、翡翠は風邪をこじらせ突然の高熱にうなされていたのだ。今、こんなにも多忙を極めているのはそのせいだったりする。
『ラチェットが不在の時だったからなぁ…大変だったんだぜ?』
「わ、悪かったわね」
両手を上げて、やれやれとでも言いたげなのはジャズ。確かに迷惑をかけた。
ラチェット以外にこの軍事施設に医者はいない…大丈夫だったのか、と心配そうに聞き返してくるオプティマスに翡翠は笑顔を見せている。
『何とかな。近場の医者を検索して診てもらった』
そう…あの日、意識が朦朧とする翡翠を必死になって街まで運んでくれたバンブルビー。
途中、あまりのスピードに違う意味で三途の川を渡るんじゃないかと思っていたのは内緒にしておこう。
そして、その車内で近場の医者を探しつつ、翡翠の看病をしていたジャズ。
看病に慣れていないようで、顔の上にびしゃびしゃのタオルを落としてくれたのも忘れよう。
感謝している。
「おかげで元気になりました」
Vサインを出しつつそう言うと、心配性のオプティマスも少し安心したように見えた。
しかし、…まだ腑に落ちない表情をしている人がいる。
『本当にもう良いのか?』
「うん」
『だが念のためだ。一応、私が改めて診察しておこう』
「え~…いいよ~」
いつになく取っ掛かりを見せてくるラチェットに何処となく違和感も感じつつ…翡翠は手を振りながら、やんわりと断りを入れた。
だが…と引き下がらないラチェットに、大丈夫と繰り返す。
「ちゃんと人間のお医者様に診てもらったから、もう心配ないよ」
『……………』
「良い先生だったんだよ?優しいし、親身だし、熱があっさり下がった辺り腕も良さそうだしね」
『…そうか』
よかった~、と微笑む翡翠に対して、ラチェットはどこか浮かない表情。
そのまま、翡翠が首を傾げる横を通り過ぎ、部屋を出て行ってしまったくらいだ。
…え?なに??と、瞬きを繰り返した後、ふと見上げると真上にあるバンブルビーの表情もキョトンとしていた。
一瞬の沈黙。
そして、翡翠が行き着いた思考は一番間違っていて欲しいと願ってしまうものだった。
「…もしかして、怒ってる?」
その質問に、答えてくれる人は誰もいなかった。引き攣る笑顔のまま一人一人に視線を送ってみるが…
「ちょっ…」
額に手を当てて悩んでくれるな、オプティマス。
盛大に目をそらさないで、アイアンハイド。
ジャズは明後日の方角を向いて口笛を吹いているし。
最後の砦と思って目を向けたバンブルビーに至っては、オロオロ、ソワソワ、ドキドキしている。
「な、なに?私、何かまずいこと言った??」
ラチェット…一番怒らせたくはない。
いや、怒らせてはいけない人物だ。
誰がそう言った訳でもないけど… 翡翠の本能がそう告げている!!!
「オ、オプティマス~~~…」
決死の思いでオプティマスを見上げると、彼は『う~む…』と唸っている。
その時、チラリとオプティマスのカメラアイと目が合った。瞬きもせずに、固唾を飲んで彼を見上げ続ける翡翠に、オプティマスは観念したように…
『ラチェットは誰より研究熱心だ』
…と、一言。
それは、誰もが周知の事実。
翡翠とて、その名目で何度も…それはもう何度も危険な目に合ってきた。
『彼がこの星に来てから研究しているのは、君たち人間のことばかりだ』
反論しようとした矢先にそう言われ、翡翠は思わず口を噤む。
『君たちの力になりたいのだ。人間のことを少しでもたくさん学び、その知識で君たちを救いたいのだろう』
「…っ…」
『ラチェットは自らそういうことは言わないからな、誤解されやすい』
「…そ、っか」
何となく、ラチェットにすごく悪いことをしたような気がした。
常に研究して、人間のために何かしたいと思ってくれていたのなら…さっきラチェットが出て行ってしまったのも、わかる気がした。
そんなラチェットの目の前で、翡翠は人間の医師のことを絶賛してしまったのだから。
「……………」
ひょっこりと顔を出して、中をこっそりと伺う。自分の足でココを訪れたのは正直初めてだった。
今回のような特別な理由がなければ、こんな危険地帯に自ら足を踏み入れたりなどしないだろう。
そ~っと翡翠が中を覗くと、ラチェットはこちらに背を向けたまま、診察台に向かって何かをしていた。
響き渡る音でどうやら翡翠の存在には気付いていないらしい。
「…え~っと…」
…どうする!
…どうする、私!!
よくよく考えれば、自分から声をかける勇気など到底なかった。
オプティマスの話を聞いて、とっさにラチェットのラボを訪れた翡翠だったが、正直なところ、今更尻込みしてしまっている。
「お邪魔しま~~~すっ!」なんて朗らかに入って行ったほうがいいだろうか?
それとも「失礼してもよろしいでしょうか?」と神妙な面持ちなのがベストだろうか??
コクリ、と喉を鳴らして、ああでもない、こうでもないと翡翠が考えを巡らせていた、その時。
『…何かね?』
「っ…!!!?」
診察台に向かったまま、ラチェットがそう言った。確かに、言った!!
思わず声も出せないまま、口をパクパクさせている翡翠にラチェットが続けた。
『翡翠、何か用があったんじゃないのか?』
…と。
「う、後ろにも目があるの?」
『何を今更…君たちは体の表面温度が高い。熱探知ですぐにわかるよ』
「そ、そっか」
言われてみれば、確かにそうだ。
そんなにも簡単なことなのに、あんなに驚いてしまうなんて、相当余裕がないらしい…
見るとラチェットが微かに振り向いていて、診察台の上には修理途中のキャノン砲があるのがわかる。
「アイアンハイド、の?」
ラチェットの横にゆっくりと歩み寄りながら、そう聞くと彼は小さくため息をついた。
『任務に出るといつもこうだ。もう少し丁寧に扱って欲しいものだがね』
「アイアンハイドらしいね」
アイアンハイドは確かに喧嘩っ早くて、戦闘でもいつも前線に出ていくと聞く。
だが、翡翠は知っている。
「アイアンハイドは、ラチェットの腕を信頼してるんだよ、きっと」
『ん?』
「ほら、ラチェットがいつも隅々までリペアしてくれるから、安心して前線に出ていけるし、壊れてもラチェットがいるから絶対に直してくれる…そう思えるから、躊躇いなく戦えるんじゃないかな?」
『そういうものだろうか?』
「そういうもんだと思うなぁ、少なくとも私は」
そう言いながら、横にいるラチェットを翡翠が見上げると、しばらく黙っていた彼が小さく息を吐いた。
『本当にそうだとしたら、悪くはないものだ』
金属生命体の彼ら、オートボットは表情に乏しい。だけど、どうしてだろうか。
今のラチェットは…すごく穏やかな表情で笑っているような気がした。
再び器具を手にして、作業を再開しようとするラチェットに翡翠はハッとする。
「ラ、ラチェット!!」
言わなくちゃ…
こんなに穏やかで、仲間思いの人を私は傷付けてしまったのかもしれない。
「あ、あのね?」
『何だね?』
「ごっ、ごめんなさい!!」
突然大きな声で謝罪を口にして、頭をガバッと下げる翡翠を見て、ラチェットは驚いているようだった。
「私、ひどいことを言ったと思うの。貴方を怒らせた」
言い出してしまえば、あとは簡単だった。
次々に言葉が口から出てくる。
伝えたいことがたくさんあった。
「ラチェットはいつも私たちの体のことを心配して、検診して…病気の兆しを早く見付けて治療してくれたことだってあったのに…私…」
『翡翠…私は怒ってなどいない』
「だけど、ホントにごめんなさい。人間のお医者様のほうがよかった、みたいな言い方して」
『今回は私も不在だったのだ。何より君が元気になってよかったじゃないか』
「でも…」
翡翠がゆっくりと顔を上げると、ラチェットがじっと見降ろしていて…彼の大きな指が近付いてくる。
その冷たい指が頬にそっと触れた時…不思議と暖かいと感じた。
『ありがとう。翡翠にそう言ってもらえて嬉しいよ』
何度も何度も、頬を優しく撫でられて、何だかすごく安心した。もっと…早く言えば良かった。
勝手に距離を作っていたのは自分のほうだったのかもしれない、と翡翠は思った。
「また、具合が悪くなったら…診てくれる?」
『もちろんだ。風邪をひく度にカーチェイス並のスピードを体感したくはないだろうからね』
「…え?よ、よくご存じで…」
唖然としながらそう言うと、ラチェットは『バンブルビーの日頃の行動パターンを見ていればわかる』と一言。
…さすがは、オートボットの軍医様。
呆気に取られていた翡翠はその時、ふいにラチェットにひょいっと持ち上げられ…
「ん?」
気がつけば、台の上。
そこは確かにさっきまでアイアンハイドのキャノン砲が乗っていた診察台だ。
おやおや?…と思い、ふと下を見るとリペア途中のキャノン砲がものの見事に診察台の下に放り投げられている。
カシャンッ
「…はい?」
聞き慣れない金属音に翡翠が視線を戻した時、その目にはとんでもないモノが飛び込んできた。
診察台から伸びてきているらしい金属の手錠のようなモノが何故か翡翠の足首をとらえている。
両足とも。綺麗に揃えて。
「…あの…これは??」
引き攣る口元を何とか開きつつ、ラチェットを見上げると彼のブルーのカメラアイがキラリッと光った。
『今回のことで実感したのだ。君たちの信頼を得るため、私はまだまだ君たちのことについて研究不足だった』
「な…」
いえっ、もう充分です!
そんな反論は心の中でのみ…翡翠は唖然としたまま言葉を発することが出来ない。
いや、今のこの状況が理解出来ない!!
なにっ!この足に絡み付いてるの、なにっ!!?
無駄な抵抗とは知りつつ、金属をひたすらガチャガチャしている翡翠。
「ちょ、ちょっと~~~!!」
『翡翠、私は君の信頼に応えられるような軍医となろう。さぁ、これを』
そう言いながら、ズイッと何かを差し出してくる軍医ラチェット。
試験管からは、何やら真っ赤な煙が出ている…
そしてラチェットからは…マッドな空気が漂っている…
翡翠は悟った。
「やっぱり…結構怒ってたんじゃない~~~っ!!!」
うそつき〜と叫び騒ぎつつ、無駄な抵抗をやめない翡翠と、怪しい試験管を突き付け続けている軍医。
第二ラウンド…開始…
マッドな実験、禁止です!!