Sideswipe
夢小説設定
この小説の夢小説設定本人曰く、至って普通の20代日本人。
国防長官ジョン・ケラーと面識があったため、大学院卒業後すぐ彼によって就職先を斡旋され… 現在人類と金属生命体の緩衝材として軍地基地に勤務中。
「私はジョンに騙されたの!!」…とのこと。
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その日の訓練を終え、そのまま格納庫に戻ろうかとも思ったサイドスワイプだったが…まだ夕暮れ時であることに気付いて思い留まった。
この時間はまだ人間も十分に活動している時間帯だったはずだ。
となれば…翡翠も。
広い基地の中ではあるが、サーチをかけると彼女の小さな反応はすぐに見付かった。
「あはは、そんなことがあったんですか?」
「そうなんだ。おかしいだろ?君にも見せてあげたかったよ」
軍本部へ向かう途中、翡翠は足を止めていた。
今、声をかけてきているのは若い1人の兵士。
所属部署は全く違うが、歳も近く基地内部で顔を合わせた際は言葉を交わすことも多い相手だ。
「そういえば、今更だけど呼び止めても大丈夫だったのかな?」
「え?」
「いや、忙しかったかなって思って」
「いえ、私は別に。これからレノックスさんのところに集計したデータを持っていくだけでしたから」
そう言って、持っていたUSBを見せる翡翠は心も晴れやかだった。今日は早めに仕事も終わりそうだ。
特別溜めている仕事もないから…ある程度の自由時間が出来るだろう。
もちろん基地から出る訳にはいかないけれど、それでも嬉しくなってしまう。
「あぁ、そうなんだ」
「えぇ」
何故か歯切れが悪くなる目の前の彼に翡翠は首を傾げた。
「どうかしました?」
「いや、別に!あのさ…俺も、今日は訓練が終わったら非番なんだ」
「へぇ、よかったですね!ゆっくり体を休められる」
そういえば、目の前の彼がこの前訓練が厳しいと話していたのを思い出した。
そう思って労っての言葉だったのだが…彼はますます苦笑いを見せている。
私…何か悪いこと言ったかな?
「あの…?」
そう思って、声をかけようとした…その時だった。
「っ…!!!?」
いきなり強い力で体を引っ張られ、頭がガクンと揺すられた翡翠。
思わず気分が悪くなりそうになったが…こればかりは不可抗力だ。
『よぉ』
うっすらと目を開けると飛び込んできたのはサイドスワイプの顔のアップ。
何故、いきなりサイドスワイプのドアップがあるのか…
一瞬そう思ったがすぐに、あぁ、さっきの感覚はこの人のせいだったのか、と妙に納得した。
「うぇ…」と小さな声で嘔吐感を堪えつつ、何とか顔を上げるとさっきまで自分が立っていたであろう場所に残された若い兵士が茫然とこちらを見ていた。
「ごめんなさい!またっ…」
『おい、手なんか振るな』
「え?」
何故か睨まれたような気がして首を傾げてしまう。サイドスワイプはすぐに視線を前に戻して…今も猛烈に移動中だ。
翡翠はどうやら、そんな彼の片腕にガッチリと抱えられているらしい。グラリグラリと体全体が揺すられる感覚に、再び嘔吐感が込み上げてくる。
「ちょ…吐きそう」
『おぉ、悪い。俺の腕に吐くなよ』
「誰のせいよ…」
『さぁな?』
弱弱しく呟いてみると、サイドスワイプもいくらかスピードを緩めてくれた。
誰のせいでこうなっているのか…自覚はあるらしい。
足にタイヤが付いているサイドスワイプの移動速度は極めて速く…翡翠にとってはいつになっても慣れないもの。
それにしても…と思う。
「どうしたの?私に何か急ぎの用事?」
『は?』
「は?じゃなくて…私、今あの人とお話中だったのよ?それなのに横から掻っ攫うなんて…それなりの理由があるんでしょ?」
『……………』
何故か無言のままジッと見詰められる。
どういう訳か少し機嫌が悪いらしいことはわかるのだが…返答を求めるかのように「サイドスワイプ」ともう一度名前を呼んでみたけど、ふいっと顔まで背けられてしまった。
『…みすみす告白の機会を与えるつもりはない』
「…はい?」
質問しておきながら、その返答にハテナを浮かべている翡翠にサイドスワイプは小さくため息をつく。
片腕に抱えた彼女の体勢が辛くないよう、そっと抱え直した。
より近付いた翡翠の顔をチラリと見ると今も言われた内容がわからない…と言わんばかりの表情。
「告白って…私はただ話をしていただけよ」
『お前はな。ただ、男の勘ってのは意外と当たるモンなんだ』
「そんな理屈…彼はそういうのじゃないのに」
『……………』
翡翠の返答に遂にサイドスワイプは無言になった。
彼女は元々こういう類の話には疎いほうだとは思っていたが…ここまで意識していないとなると、あの若い兵士にとっても悲劇だな、などと考えてしまう。
もう随分あの場から離れたため、その兵士の姿は見えなくなっていたが。
「サイドスワイプ」
『何だよ?』
何やら腕の中で翡翠が体を捩っているのは感じていたが…ふと視線を落とすと彼女の顔がすぐ間近に見えて、瞬時にスパークが高鳴るような感覚を覚える。
いつの間にかサイドスワイプの手の上に立ち上がるようにして顔を近付けてきていた翡翠。
そのままフワリとサイドスワイプの首元にしがみ付くように抱き付いてきた。
耳元で翡翠の小さく笑う声が聞こえて…
「ふふっ、サイドスワイプってば妬いてるの?」
『まさか。何を言う…』
「別に。そうならちょっと嬉しいなって思っただけ」
そう言いながらにっこりと微笑む翡翠の表情を知らずのうちにメモリーしていた。
正直、この星に来たばかりの時は小さな種族だ、と蔑んでいたくらいだった。
小さいばかりでなく、脆く、儚い種族だ…と。
オートボットとして、司令官であるオプティマスに従う覚悟はもちろん出来ていたが…当初人間を守ろうなどという感情を自分が持つようになるとは思わなかった。
『はぁ…』
「何?ため息ついて」
サイドスワイプがそんなことを考えてるとは知る由もない翡翠はただ目の前で首を傾げるだけ。
そんな表情も今では可愛らしいな、と思ってしまうのだから自分も重症だ。
『何でもない』
「そう?」
ふい、と顔を背けるサイドスワイプに翡翠が何を思ったのかはわからない。
ただ…手の上に立つ体を精一杯伸ばして、そっぽを向いてしまった彼の頬にそっと口付ける。
驚いて振り返ると照れたような表情ではにかんでいる翡翠。
『やめろよ、何してる』
「いいでしょ?怒っちゃったのかなって思ったから、機嫌直してもらおうと思って」
『…別に、怒ってない。だいたい、日本人ってのはキスするのは苦手なんじゃなかったのか?』
「サイドスワイプは特別よ」
『……………』
翡翠の言葉には魔法でもかけられているようだ。
たった一言で、さっきまでの不快な気持ちが消え失せ、代わりに今は心地よい優越感がスパークの中に芽生えている。
『…お前、俺がヒューマンモードを導入したら、覚悟してろよ』
「え?どういうこと?」
『さぁな』
その一言が完全に照れ隠しであることをおそらく翡翠は気付いていない。
この時ばかりは彼女の疎さに感謝してしまったくらいだ。そして思った。
いつかヒューマンモードを導入したら、今は小さな彼女の体を強く強く抱き締めよう。
きっと、翡翠はひどく恥ずかしがってしまうだろうけど…
その時のことを思って小さく笑ってしまったサイドスワイプに気付いて、翡翠が首を傾げた。
「なに?」と聞いてくる彼女に『何でもない』とだけ返して、格納庫へ向かう足は無意識のうちに軽くなる。
徐々にスピードが上がり、翡翠が再び嘔吐感を訴えるのは、この数分後の話…