第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『“ありがとう”』
〜夕暮れの恋歌<7>〜
半年前。
メガトロンとの戦いの最中、足元にいた人間をとっさに飛んできた瓦礫から遮った。
呆然としたまま見上げてきた彼女と目が合う。
状況を飲み込むことが出来ていないのか、その場から動こうとしない彼女をそっとすぐ横にあった細い路地へと押し込んだオプティマス。
その刹那、メガトロンの拳を受けて自身の体が吹き飛び、それを最後に彼女のことは見失ってしまった。
だが…見間違いはなかった。
今、自分に乗り込んでいる彼女の顔をしっかりと見て、オプティマスは思う。
『やはり、君の顔には覚えがあるようだ』
“翡翠”と名乗った彼女の名前をメモリーに記憶しながら、そう口にした言葉は何故か安堵感に溢れていた。
その日から数日。
また異国でディセプティコン出現の報告があり、任務に出ていた。
基地に戻り報告も済ませた今、特に任務がある訳ではないのだが、オプティマスはまたこの街に来ている。
仲間と共に偵察に来ることは何度かあったが、一人で来るのは初めてだった。
狭い路肩にビークルモードのまま鎮座して、数時間。
彼女は来た。
その姿を見た途端、またひどく安堵している自分がいる。
『あぁ、翡翠』
何故か、どうしても会いたかった。
そして確かめたいことがあった。
彼女がリクエストした夜景とやらを見せるために、走りながら検索をしたのだが…どうやら吉と出たらしい。
自分から降りてはしゃぐ翡翠を見て、オプティマスはほんの少しだがスパークが熱くなっているのを感じた。
何故、こんなにもこの翡翠という人間に肩入れをしているのだろうか。
あの場で偶然とはいえ、助けたのは事実。
戦いが終わった後、あの人間は無事だっただろうか、と考えたこともない訳ではない。
徐々に復興が進む街中を走りながら、その顔を無意識に探していたことも、今では自覚している。
だが、これだけの数の人間の中から安否すらわからない彼女を見つけ出すのは不可能に近いだろう、といつしか自身に言い聞かせていたように思う。
それほど、彼女との接触はほんの一瞬だった…にも関わらず、ずっとどこかに引っかかっていたのは何故なのか。
今のオプティマスに答えを出すことは出来なかった。
「そういえばオプティマスさんは、いつから地球に?」
『…ん?』
突然話しかけられたので、少しだけ驚いた。
思わず排気を漏らすと、翡翠は振り向き、顔の前で片手を振る。
「あ、別にしゃべりたくなければ」
『いや、構わない。今日で6ヶ月と19日になる』
「何のために…」
『ある目的があった。だが、もういいのだ』
「…そ、っか」
オールスパークは消え、故郷復興の願いは潰えた。
だが、この星でも多くの出会いを得た。
今となっては、この星も新しい故郷だ。
目の前には、再び景色へと視線を戻してしまった翡翠の姿。
今なら…聞けるだろうか。
『翡翠』
「はい?」
『今更こんなことを聞くのかと思われてしまうかもしれないが、正直に答えて欲しい』
「…え?」
ゆっくりと振り返った翡翠を見て、はっきりと思う。
『君は、私とこうしているのが怖くはないのか?』
…そうか、私は彼女に拒絶されることが怖いのだな…
と。
『私たちは意図せずとも、あの時君に恐怖を与えたはずだ』
あの戦いで、人間を巻き込んでしまった。
彼女もその一人だ…突然日常の中で戦いに巻き込まれ、恨まれていてもおかしくはないだろうと思う。
だが、翡翠から返ってきたのは意外な一言だった。
「私、本当の貴方と話したい」
『……………』
それが何を意味しているのかはオプティマスにもすぐにわかったが、思わず沈黙した。
『…私は、君を怖がらせたくはないのだ』
今、この場でロボットモードになるなど、オプティマスには考えられなかった。
あの日、彼女が見ていたのは戦い合う巨大なロボットだったはず。
そんな恐怖の対象となった姿を見せるなど…
だが、翡翠ははっきりと告げた…「大丈夫」と。
その言葉にしばし考えて、オプティマスは折れた。こんなに緊張しながらトランスフォームしたことが、今だかつてあっただろうか。
ロボットモードになった後、一度だけ高い位置から翡翠を見下ろして、その後身を屈めるようにして彼女と出来るだけ目線を同じにした。
翡翠は変身の様子を見て、一言「…すごい…」と口にしただけ。
『大丈夫か?』
「はい、平気です…むしろ、このほうが“話してる”って実感できていい、かな」
またしても意外な言葉が返ってきたことに、オプティマスはパチパチと瞬きした。
『そうか…では、可能な限りそうすることにしよう』
「はい」
コクリと頷いた翡翠がオプティマスへとそっと手を伸ばす。
動かず、じっとしているオプティマスの腕にその小さな手が触れた。
その時翡翠の口から漏れた小さな言葉。
「私も、貴方に見覚えがあります」
「あの時、守ってくれた…んですよね?」
「ありがとう。助けてくれて…」
……………。
一瞬、思考が停止したかのような感覚に襲われた。
“ありがとう”
…あぁ…
私は、一体何を危惧していたのだろう。
彼女の心は、もっと広く、暖かいものだというのに…
これまで、オプティマスの記憶にあったのは…あの時、足元で乾いた瞳をしながら、呆然と自分のことを見上げている翡翠の表情のみ。
今、ひどく穏やかに笑う彼女の笑顔を決して忘れることがないように…
無意識のうち、メモリーに記憶していた。
(加筆・修正)
