第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『決意』
〜夕暮れの恋歌<73>〜
基地内を滑るように走る車内でシートへゆっくりと身体を沈み込ませながら、そっと窓の外に目を向けた。普段乗せてもらうことの多い車高の高い彼とはまた違った高さから眺める景色は、どこか新鮮にも感じられた。
エネルゴンの精製作業を手伝うようになってからというもの、翡翠は1日のほとんどをラチェットのラボで過ごすようになっていた。
『それにしても、すごい光景だったな』
スピーカーからそんな声をかけられる。「え?」と聞き返すとすぐに返ってきた言葉はどこか興奮気味にも聞こえた。
『さっき見たエネルゴンの精製さ。あんなことが出来るなんてなぁ…やっぱ翡翠はすげぇな』
「私は何もしてないんだよ?今日だって、燃料の側でラチェットと話をしたり、本を読んでいただけで…」
『そうだとしても、結果が目に見えてすごいことになってるからなぁ…』
「そう言ってもらえると嬉しいような…恐縮してしまうような…」
頬を掻きながら翡翠がそう言うと、スピーカーからは『ははっ』と笑う声が聞こえてきた。
『何だそれ。お嬢ちゃんは、俺らの女神様だな』
「ジャズ…そんなこと言ってくれても何も出ないよ?」
ふふっと笑いながらそう返してくる翡翠とは、以前にも同じようなやり取りをした記憶がある。彼女のボディーガードを請け負い、彼女の生活に寄り添っていた頃の話だ。
それ程昔の話ではないのに、やけに以前の記憶だったような錯覚さえ覚える。色々なことが、ありすぎたのだろう。
『そんなの求めちゃいない。俺が感謝を伝えたいだけだ』
「何もしてないのに…」
『そう思ってんのは翡翠だけだぞ?』
「そうなの?」
『俺らは全員翡翠の存在そのものに感謝するばかりだ』
翡翠が僅かに安堵したような表情を見せた。ふと、オプティマスにも何度もそう伝えられていることを思い出したのだ。恐縮してしまう気持ちが強かったが、彼らの感謝の気持ちを素直に受け取ろう、と自分に言い聞かせた。
今翡翠を乗せているジャズにしてもそうだ。エネルゴンの精製に成功した、と聞いてすぐには信じられず半信半疑だったが、実際に目にしたエネルゴンの輝きは故郷で見た懐かしい記憶と相違はなく…もういつ振りともわからないエネルギーが満ちていく感覚にスパークが震えるのがはっきりと分かった。それが、翡翠の存在がきっかけだと知れば、浮かび上がる感情は感謝以外に有り得ない。
いつしか、翡翠はトランスフォーマーたちにとって無くてはならない存在へと変わっていった。彼女の振る舞いに精神的に惹かれるだけでなく、エネルゴンの精製にまで関わってくるとなると、物理的にも彼女の協力が不可欠になってくる。翡翠は喜んで力を貸してくれるだろう。だが、それに甘んじてばかりいてはいけないとも思うのだ。
『…翡翠は、大丈夫なのか?』
「何が?」
『ほら…学校とか、さ…熱心に通ってただろ』
「…あ〜…うん、そうだね…」
翡翠の日常生活に一番寄り添っていたのは、おそらく自分自身だろう、とジャズは思う。何しろ、2週間近く彼女の家のガレージで過ごし学校への送り迎えもしたし、課題が終わらない、と夜遅くまで部屋の明かりが消えなかったことも知っている。
そんな日常生活から突然切り離され、ここでの生活を余儀なくされている翡翠を心配に思うのは当然のことだった。シートに沈み込ませていた身体をゆっくりと起こすと、翡翠は膝の上の両手を組むようにして、そっと視線を落としていた。
「まだ様子見だけど…学校は諦めなきゃいけないかなぁって、頭では分かってるんだ」
『いいのかよ?』
「ん…まだ気持ちが固まった訳ではないけど、やっぱり今のまま通い続けるのは難しいだろうし…」
何とかしてやりたい、とは思うものの、それが如何に難しいかもよく分かっているジャズは何も言葉にすることが出来なかった。年齢を重ねない状態になっている点については、問題となってくるのは数年後からだ。卒業まで通学する分には何も問題にはならないだろう。
それ以上に問題視しなければならないのは、翡翠が狙われ始める可能性について、だ。まだまだディセプティコンの残党もどこに潜んでいるかわからない状態…ただの下っ端であればまだしも、万が一力を持ったディセプティコンが翡翠の中に潜むオールスパークの存在に気が付いた場合には…最悪の事態も想定せざるを得なくなる。
そうならないためには、やはり翡翠の行動を制限し、いつでも守れる状態でオールスパークの量を測定し続けるしかない。今後オールスパークが強まるようなことがあれば、勘付かれる可能性も高まっていくのだから。
『…悪ぃな』
ポツリとそう零せば、翡翠はどうしてジャズが謝るのか、と言いながら笑った。
「謝らないで。私も悲観ばかりしている訳じゃないし…貴方たちのこと大好きだから、何かお手伝いが出来るならこんなに嬉しいことはないって思ってる」
『……………』
「私にしか出来ないことなんでしょ?それって、すごいことだよね!」
それは、彼女の本心でもあり、彼女自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
だが、その一言に救われた気持ちになっている自分がいるのも事実で…ジャズは小さく排気した。
『お嬢ちゃんは強いな…身体はそんなに小さいってのに』
「小さいは余計です〜」
『ははっ、悪かったって!ただ…俺には我慢しないで、何でも話してくれよな』
「え?」
『愚痴でも、しんどいことでも、何でも…オプティマスには言えないこともあるだろ?アイツ、翡翠のこととなると極度の心配性だからな』
冗談混じりにそんなことを話せば、翡翠は片手で口元を覆うようにして笑っている。「ありがとう、ジャズ」という言葉と共に、そっとシートを撫でてくる彼女の暖かく、繊細な指先を感じながら…この笑顔をいつまでも守りたいと思った。
俺には俺の寄り添い方で…翡翠を守っていきたい、と。
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