第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『それぞれの励まし方』
〜夕暮れの恋歌<71>〜
『“Hallo!” “My Princess”』
久し振りの再会を喜ぶかのように、高々と抱き上げられる。最初はその高さに驚いたものだが、彼との再会時の恒例となるつつある今は翡翠の表情からも笑顔が溢れている。
「プリンセス?なぁにそれ」
『“君は…“ “僕の大好きな人”』
そんなことをサラッと言ってくれるバンブルビーに照れながらも、感謝の気持ちを伝えようと両腕を伸ばすと黄色い頭をそっと抱きしめる。目の前では2本の角のような部位がピコピコと動いていて、バンブルビーも喜んでくれているように感じて、嬉しくなる。
そんな黄色い彼は、壊れ物を扱うかのようにそっと翡翠を降ろすと、目の前であっという間にカマロへとトランスフォームすると、ゆっくりと助手席の扉を開き、翡翠を誘った。
『……“ドライブ行こうよ!” “約束” “ちゃんと覚えてる?”』
もちろん、覚えてるよ!と答えながら翡翠が助手席に座ると、静かに扉が閉められる。身体の芯に響くような低いエンジン音を唸らせながら、バンブルビーは上機嫌に今にも走り出しそうだ。
「でも、待って。勝手には出掛けられないから、レノックスさんに聞いてみないと…」
『“上官命令には逆らえない!” “我らが司令官へ伝達”』
「うん、お願いね」
どうやらバンブルビーもオプティマスへ連絡してくれるようなので、そちらは任せることにして…翡翠も時間を確認してからレノックスへ連絡するべく、携帯電話を取り出した。この時間なら、おそらくほんの少しなら連絡しても良いはずだ。聞き慣れた呼び出し音がやけに長く感じた。
結果は、惨敗だった。まぁ、そんな気はしていたのだが…2つ返事で却下されてしまった。バンブルビーもどうやらオプティマスから同様の返事をもらったようで、従ってはいるものの言動からは不満げな様子が滲み出ている。
「ごめんね、ビー。私、みんなに心配かけているみたいで、自由に出歩いたり出来ないんだ…」
『“君は悪くない” ……“謝らないで” “Princess”』
「ありがとう」
優しいフォローにお礼を伝えるとバンブルビーの車内に彼特有の電子音が響く。バンブルビーには話していないが、最近今まで以上にオプティマスやラチェットからの保護が手厚くなっているように感じていた。基地内を1人で歩くことさえ難しいと感じることがある。
やはりオールスパークが宿っていることがわかった影響なのだろう、と翡翠も理解している。
また、敵とされる相手がいて、そちら側にオールスパークの存在が知られれば、途端に狙われる立場になってしまう可能性についてもしっかりと伝えられているし、分かっているつもりだ。
あまり実感がないのは否めないが、そのため自由が制限されるのも仕方のないことだと飲み込んでいた。
決して嫌なわけではない。ただ、オプティマスもラチェットも日々忙しいのを知っているからこそ、ひたすら申し訳なく感じてしまうわけで…
「……………」
ふぅ、と小さく息を吐いて、窓から吹き込んでくる風で舞い上がる髪を押さえながら、流れる景色へと目を向けた。レノックスから代替案として、しばらく古い滑走路を使わせてもらえることになったのだ。
バンブルビーが思い描いていたドライブとは違うようだが、約束していた通り初めてカマロに乗せてもらい、風とスピードを全身で感じられることを翡翠は純粋に楽しんでいた。オプティマスであれば絶対にやらないようなスピード感に溢れた走りを体感させてくれるバンブルビーは、翡翠にとって新鮮だった。
「すごいね、エンジンがお腹の奥の方に響いてくる感じ!なんだか、ワクワクしちゃう!」
『“それはよかった” “彼もお気に入り”』
「えっと…サム?」
『“ご名答!”』
バンブルビーは本当に彼と仲が良いらしく、よくこうしてサムの話をしてくれる。ラジオから流れてくるツギハギの言葉に耳を傾けながら、翡翠は穏やかに微笑んでいた。
バンブルビーの話によると、次こちらへ帰還する際にはサムも連れてくるつもりでいるらしい。どうやら長期休みに入るそうだ。学校に休学届けを出し、ここディエゴガルシアで過ごすようになって幾分経つが…そうか、世間の学生は長期休暇の時期か…などとぼんやりと考えた。
日常生活から切り離されたこの場所にいるせいもあり、そういった感覚が全くなくて少し驚いてしまう。
『“君に会いたいって” “Princess” 』
「そんな風に言ってくれてるの?」
『“彼女のことも、忘れないで”』
「ミカエラ?」
『“2人一緒に!”』
サムだけでなく、ミカエラまで来てくれるということがわかり、翡翠の表情がパッと明るくなる。前回が初対面だったにも関わらず、あっという間に打ち解けたらしい女性陣2人。
「また来る」と言っていた約束を覚えてくれていたこともまた、翡翠には嬉しかった。そういえば、前回会った時にはミカエラに「女子同士恋バナをしよう」と持ちかけられたのだった、と思い出す。話せる内容などほとんど持ち合わせていなくて、曖昧に微笑むことしかできなかったが、今は違う。
オプティマスと、想いが通じ合ったと話してもいいだろうか…
やはり、驚くのだろうか…
そんなことを考えていると、自然と「ふふっ」と笑ってしまい、バンブルビーが不思議そうに駆動音を響かせる。
「ありがとうビー。すごく楽しみ」
『“お任せあれ!” “だけど、今はこちらも楽しみましょう”』
え?と翡翠が首を傾げるとカマロのラジオからは『“スリリングなのはお好き?”』と質問が飛んでくる。
なるほど、そういうことか、とすぐに理解した翡翠はシートベルトがしっかりとされていることを再度確認すると「任せて」と一言だけ返した。
途端にグン、と体全体に重力がかかる感覚が襲う。
「きゃ〜〜〜!!」
笑い声混じりの翡翠の悲鳴が響き渡る。広々とした滑走路の上で盛大にドリフトを決めると、すぐにまた走り出すカマロ。絶叫系が苦手じゃなかったことを、この時以上に感謝したことはなかったかもしれない。
バンブルビーなりに、彼女を元気付けようとしてくれているのだろう。彼の優しさと、人間以上に人間味溢れた行動に翡翠は感謝するばかりだった。今は、そんなことを伝えるような余裕はまるでないけれど…
「あはははっ!ガクッてした〜〜〜!!!」
『“口閉じてねぇと、舌噛むぜ”』
「ほんとだね!気をつける〜〜!!!っ、きゃ〜〜!!!」
翡翠のそんな悲鳴が響く滑走路の端で大きな体躯がゆっくりと立ち上がる。その横でもう1人立ち上がると腰に手を当てながら、大きく排気した。
『ビーのヤツ、帰還の報告もすっ飛ばして翡翠のトコ行ったんだな』
『通信は入れてきたから、それはいいのだが…あれは、大丈夫なのか』
『翡翠か?』
うむ、と小さく頷くオプティマスを横目に入れてから、ジャズがもう一度視線を前へと向ける。
『…まぁ、翡翠の声は楽しそうだからな。大丈夫だろ』
『そう、か…』
『バンブルビーなら、翡翠に無理をかけるとも思えないしな』
それは、確かにそうだ…とオプティマスもゆっくりと頷く。目の前の滑走路には何度もドリフトを繰り返す黄色いカマロと、聞こえてくる楽しそうな笑い声。自分にはできない楽しませ方だな、と思い、オプティマスはそっと目を細めていた。危険の全てから徹底的に遠ざけ守ることだけが、彼女にとって良いことだとは思っていないが、バンブルビーと同じような励まし方が自分に出来るか…と問えば、答えは否だ。
年若い友に感謝を告げよう、とオプティマスが考えていたその時、滑走路へ走り寄っていくもう1台の車に気が付いた。
『お、サイドスワイプのヤツまで加わったぞ』
『…やはり…大丈夫だろうか…』
『大丈夫だって!』
隣でどこか肩を落としているようにすら見えるオプティマスの背中をバンバン叩きながらジャズが笑う。ジャズも翡翠のことを溺愛しているのは同じだが、オプティマスに比べるとまだ客観的な立場でいられるらしい。
そんな大人組2人に気付くことなく、嬉々として走り寄る銀色のコルベットからは『何楽しそうなことしてんだよ〜!俺も混ぜろって!』…と、今にもそんな声が聞こえてきそうだった。
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