第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『受け入れなければならないこと』
〜夕暮れの恋歌<66>〜
ラチェットの話を、翡翠は自分でも驚くほど淡々と聞いていた。もしかしたら、驚きが大きすぎて感情自体が機能していないのかもしれない…と、まるで他人事であるかのようにすら思っていた。
告げられたオールスパーク、というものが何なのかは漠然としかわかっていないが、オプティマスたちにとって大切なものが自分の中に入り込んでしまっていることだけはわかった。
それが何だかひどく申し訳なく感じてしまって、何とか取り出せないのか、と尋ねたがラチェットは重々しく首を横に振った。
『そんなことをすれば翡翠、君がどうなってしまうかわからないし…我々もそんなことは望んでいないんだ』
「……………」
『翡翠も、オールスパークも、我々にとってはかけがえのないものだよ』
「…ありがとう」
その言葉が正しい返答だったのかはわからないが、それ以外に何と言っていいのかわからなかった。思わず俯いてしまう翡翠の背中をオプティマスの大きな指がそっと支えてくれている。受け入れなければならない。
「私は…これからどうしたらいいの、かな?」
『翡翠の中にあるオールスパークが今後増えていくのか、減っていくのか…私としても予測ができない。まずはしっかりと測定し、注視させて欲しい』
「わかりました」
『ただ、君に話しておかなければならないのだが…』
そう前置きをして、ラチェットは重い口を開いた。言いにくいことではあるが、翡翠には知っておいてもらわなければならないことでもある。
『君の細胞を調べた結果、細胞自体の成長が止まっていることがわかった。十中八九、オールスパークの影響だろう』
「それって、つまり…」
『簡単に言ってしまうと、翡翠は今、歳を取らない状態になっているんだよ』
「……、……」
『一時的になのか、それともこのままなのか、そこまではわかりかねるが…』
翡翠が息を呑むのがはっきりとわかった。
『オプティマスとも話していたのだが、近いうちにレノックスに話を通して、出来れば軍の所属としてもらった方がいいだろう。すぐに、とは言わないがね』
その提案の意図は翡翠にもすぐにわかった。そのまま年齢を重ねなくなってしまうというのなら、大問題だ。元々いた人間世界での日常生活を送ることはまず難しくなってくるだろう。数年は気付かれずに生活できるだろうが、徐々に周囲の人にも異変を感じ取られるはず。
それまでには、元いた世界と別れを告げなければならない事を意味していた。その上、軍の所属としてもらったところで、おそらくその存在は秘匿とされるのだろうことは容易に想像ができる。その頃までに、体内に入り込んでしまっているオールスパークをどうにか出来れば話は別だろうが、そんなことが可能なのか…誰にもわからないのが現状だろう。
わかった、と頷くしか翡翠に道は残されていない。
『オールスパークの存在が敵に知られれば、君に危険が及ぶ可能性も否定できない。すまないがね…君を守るためにも、必要なことだよ』
「……わかりました」
『翡翠…』
「オプティマス」
ふと顔を上げると、オプティマスと目が合う。間近で淡く輝くオプティックからは心配する様子が見てとれた。
「大丈夫」
『…では、ないだろう』
「……………」
確かに、大丈夫とは言い切れないかもしれないが、心配はかけたくなくて、思わずそんな一言が口をついて出た。
感情を見透かされているようで、小さく息をはく翡翠。
『…すまない』
「え?」
『私が、君を巻き込んでしまった』
おそらく、翡翠自身が聞かされるよりも先にこの話をラチェットから聞いていたであろうオプティマスも、きっと苦しんでいたのだろうと思った。オールスパークが翡翠の身に宿ってしまった原因はわからない。何か理由があったのかもしれないし、たまたま近くにいたからだったのかもしれない。だが、彼のせいでないことだけは明らかだ。
責任感が強すぎるあまり、自分のせいではないことまで自分の責任としてしまう不器用で…優しすぎる人なのだ。
「…謝らないで」
『……………』
「オプティマスのせいじゃないし、私もそんな風に思ってない」
『だが…』
「それに、謝られちゃうと私たちが出会ったことまで全て否定されてしまうような気がして…」
『翡翠、そんなつもりは』
「うん…私、オプティマスに助けてもらったことも、あの時再会できたことも、後悔なんてしてないよ」
オプティマスは何も言わなかった。言葉の代わりに、その大きな手でそっと翡翠の身体を包み込むようにして親指で頬を優しく撫でてくれる。抱きしめられているようだ、と思った。
間近でゆっくりと瞬きをする彼特有の音が響く。
『私も今、翡翠とこうしていられることを心から感謝している。君のことは、私が守る』
オプティマスの言葉に素直に笑顔を見せることができた。これから先のことなど何もわからないし、考えられない。
でも、真摯に想いを寄せてくれている彼が側にいてくれるなら、気をしっかり持っていられる気がした。単純だと笑われてしまうかもしれないが、翡翠にとってその支えはとてつもなく大きなものに感じられる。
『それから、先程の翡翠の提案だが…私は前向きに考えても良いかと思うのだが』
どうだ?とラチェットが意見を求めた先にはオプティマスがいる。そうだな…と小さく呟いたオプティマスが思案するように翡翠へと視線を落とすと、翡翠は何度か頷くような仕草を見せている。
『ラチェットの側にいることが増えるのであれば、ひいては翡翠の安全に繋がるだろう。拒否する理由はない』
『では、そのように動いて構わないな。オプティマスが不在の間は翡翠に異変が生じていないか、私が気をつけて見ていよう』
『あぁ』
「ラチェット、よろしくお願いします」
『こちらこそ、よろしく頼むよ』
ラチェットが差し出してくれた指に翡翠もそっと手を伸ばす。握手だ。地球のやり方に則ってくれているのがわかって、知らずのうちに翡翠も微笑んでいた。
近々、細部のリペアも試してみよう…とラチェットが声をかけてくれる。
その点、アイアンハイドは実験台に打って付けだな…と続ける彼に、翡翠は少し驚いた表情を見せたが、すぐにラチェットなりに彼女を元気付けようとして言った言葉であるとわかったようで、柔らかな表情を見せていた。
そんな彼女を静かに見下ろしながら、オプティマスはオートボット専用の通信回線を開くと部下たちに新たな指令を通達した。オールスパークが宿っている以上、翡翠に危険が迫る可能性は十分にある。
今はその大部分が息を潜めているとはいえ、ディセプティコン側に翡翠の存在を知られる訳にはいかないのだから。
