第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『Transform』
~夕暮れの恋歌<5>~
「わぁぁ、綺麗~~~」
走り出した頃にはもう日が傾き始めていた。
行く当てもなく走り出したらしいオプティマスに『行きたいところはあるか?』と聞かれて、とりあえず“夜景の見えるところ”をリクエストした。
オプティマスが言うには『遠回りをさせたお詫びだ』とのことだったけれど、まさかこんなに壮大な夜景を見せてもらえるとは思っていなかった。
「すごいすごい!」
もうそれしか言葉が出てこなくて…すごい、と綺麗、をひたすら連発してしまう。
ひっそりとした小高い丘の上からは翡翠が普段生活している都市が一望できる。
結構距離があるようだから、普段車を持たない翡翠では到底来ることは叶わなかっただろう。
車から降りて、きゃあきゃあはしゃぐ彼女を前にオプティマスは沈黙を守っていた。
元々、そんなにしゃべるタイプではないのだろう。
「そういえばオプティマスさんは、いつから地球に?」
『…ん?』
突然話しかけたからか、オプティマスからぷしゅーと排気が漏れる。
「あ、別にしゃべりたくなければ」
『いや、構わない。今日で6ヶ月と19日になる』
「何のために…」
『ある目的があった。だが、もういいのだ』
「…そ、っか」
気のせいだろうか。
表情の見えないオプティマスだけど、声のトーンから何となく悲しんでいるような気がした。
これ以上は、聞いちゃいけないことなんだと感じ、翡翠は視線をもう一度街へと戻した。
『翡翠』
「はい?」
『今更こんなことを聞くのかと思われてしまうかもしれないが…正直に答えて欲しい』
「…え?」
何故かかしこまってそう切り出すオプティマスに、翡翠は向き直った。
何を聞かれるのか、心臓がうるさいくらいに騒ぎ出す。
『君は…私とこうしていることが、怖くはないのか?』
「怖くないのか、って…どうして」
どうして、そんなことを聞くの?
『私たちは意図せずとも、あの時、君に恐怖を与えたはずだ』
その言葉で、翡翠にははっきりとわかった。
オプティマスは半年前のあの戦いのことを言っている。
何故かはわからないが、やはりオプティマスも気付いていたのだ。
あの時、あそこにいたのが翡翠だ、と。
「……………」
思わず無言になる翡翠からの返答を待っているのか、オプティマスも再び沈黙している。
ふと視線を彼へと向けるが、そこにあるのは当然沈黙したままの大きなトレーラートラック。
「…オプティマスさん」
静かに両手を握り締め、翡翠は意を決したように顔を上げた。
「私、本当の貴方と話したい」
『……………』
そして、はっきりとそう告げる。
『…私は、君を怖がらせたくはないのだ』
「貴方のことなら怖くないですよ、大丈夫」
そんな翡翠の言葉にオプティマスからは『う~む…』と何やら考え込むような声が聞こえた。しばしの沈黙。
『…わかった』
そして、オプティマスが折れた。
その刹那…翡翠は目の前の光景に圧倒される。
かちゃん、かちゃん、と金属の組み換わる音が幾重にも重なって、目の前のトレーラートラックはみるみる形を変えていく。
「…すごい…」
言うなれば、巨大なロボット。
ポカンと見上げる翡翠の漆黒の瞳と、オプティマスのブルーのカメラアイがかちあう。
するとオプティマスは大きな体を屈めて、可能な限り、翡翠と目線を近付けた。
『大丈夫か?』
「…はい、平気です」
怖くはないか?という言葉がその一言には隠れているのがわかって、翡翠は大きく頷いて見せた。
「むしろ、こうしている方が“話してる”って実感できていい、かな」
『そうか…では、可能な限りそうすることにしよう』
「はい」
彼がパチパチと瞬きをするたびに、独特の機械音が響く。
暗くて、はっきりとはわからないけど、トレーラーだった時の派手な塗装の特徴が至る所に残っていた。
その腕には赤と青のファイヤーペイント。
翡翠は無意識のうちに、その腕へとそっと手を伸ばしていた。
あぁ、やっぱり…
「私も、貴方に見覚えがあります」
半年前。
翡翠に残っている唯一の記憶。
「あの時、守ってくれた…んですよね?」
『…我々の争いに人間を巻き込むわけにはいかない』
「ありがとう。助けてくれて…」
まるで、胸に引っ掛かっていたしこりが取れたような気さえしてきて…翡翠は笑った。
そんな翡翠にオプティマスは少し戸惑ったような声音で『…ああ』と返しただけだったが。
あの日、軍が何と戦っていたのか。
オプティマスが何故あそこにいたのか。
まだまだわからないことだらけだけど…これだけは思う。
私…やっぱり貴方を怖いだなんて、思わないよ。
(加筆・修正)
