第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『お礼をさせて』
〜夕暮れの恋歌<61>〜
『翡翠、大丈夫かしら?』
『様子がおかしかったって、マギーが言ってたわよね』
『ええ、今ラチェットのところに…』
必然的に3人集まり、そんな会話をしていたまさにその時、近付いてきた小さな存在をセンサーが捉えたことに一同言葉を失った。一瞬、センサーの不具合かとも思ったが、格納庫の入り口からひょこっと顔を覗かせていた翡翠に驚きを隠せない。
「アーシーたち、いる?」
翡翠が言い終わるよりも早く、3人は彼女の元へと駆け寄っていた。
輸送ヘリが街中の基地に停泊している時間はほんの数時間だった。
…とはいえ、一応の目的は果たせたし、出発に間に合うよう基地に戻ってくることも出来た。
そして今、ディアゴガルシアの軍事基地へと戻ってきた翡翠だったが、未だ陽は高い時間帯…アーシーたちにお礼を伝える時間も十分にあった。
『翡翠、本当にもう大丈夫なの?』
「うん、もうすっかり…心配かけてごめんなさい」
『それはいいんだけど…ラチェットには診てもらったの?』
「もちろん。ちゃんと症状も伝えて、診察してもらったよ」
『そう。よくこんなに早く解放されたわね…』
アーシー、クリミア、エリータ・ワンから次々と言葉をかけられる。三者三様の言葉なのに、不意に1人と話しているような錯覚に陥るから不思議だ。
帰還したその足で、アーシーたちにラチェットのラボへと連れて行かれた翡翠。もう体調はすっかり元通りだったが、先程の異変を伝えると『すぐに採血をさせて欲しい』と言われ、久し振りの採血を行った。入念にスキャンもしてくれたが、やはり現状で翡翠の体に異変は来たしていないらしい。
『瞬間的な症状なのね…』
「そうみたい。だから、もう心配しないでね」
そう伝えると、アーシーたちもようやく安心したように表情を綻ばせるのがわかった。翡翠も小さく微笑んで、ここに来た本当の目的を彼女たちに伝える。
「ね、洗車させてもらってもいいかな?」
『『『え?』』』
綺麗に言葉が重なるアーシーたちに思わず笑ってしまう。
翡翠がカートを引くようにして格納庫に持参していた荷物の中身を目にして、また3人揃って目を丸くしている。中にはスポンジに洗車ブラシ、シャンプー、クロスなどなど…洗車に必要な道具がぎっしりと詰まっていた。しっかりと防水用のテーピング類も入っている辺り、アーシーたちのバイクを洗車することを前提に物品を揃えてくれていることがわかった。
スパークが暖かくなる感覚が広がっていき、思わず翡翠の身体をそっと抱きしめたのはクロミアだった。
『ありがとう!こんなこと言ってもらえたのは初めてよ』
「ううん、こちらこそ買い物に付き合ってくれてありがとう!」
『どういたしまして』
だが…これ程までのお礼を返されるようなことはしていない、とアーシーたちは首を振った。自分達は司令官に“任務”を与えられただけなのだ。翡翠との時間は楽しかったが、ここまでしてもらう訳にはいかない、という思いが先行する。それに対して、翡翠は抱きしめられている身体をわずかに離すと、その温かい手の平でクロミアの頬をそっと包んだ。
「アーシーたちにとっては任務でも、私にとっては親切にしてもらったことに変わりはないから。お返しさせて欲しいな」
『だけど…』
『そうね、無理はさせられないわよ』
そっと近付いたエリータ・ワンが肩に手を乗せてくる。
「マギーにも話をして、一緒に手伝ってくれることになってるの。無理はしないから」
『う〜ん…』
マギーも2つ返事で了承してくれた、と伝える翡翠。そんなマギーは、今はレノックスに帰還の報告に行っている。翡翠はすぐにラチェットのところへ担ぎ込まれたから…報告が終わり次第、格納庫に来てくれることになっていた。
その時、アーシーがふと気が付いたように口を開く。
『翡翠、洗車ってしたことあるの?』
その一言に、翡翠はバツが悪そうに指で頬を掻いた。
「それが、洗車の経験は随分昔にお父さんと一緒に自家用車でやったことがあるだけで…」
『つまり、ここの連中ではまだやったことないってことよね?』
「うん…しかも、バイクは初めてで。あ!しっかり調べてはきたんだけど…」
アーシーたち3人は一瞬顔を見合わせて…
『わぉ!それって最高ね!』
『私たちが一番ってことでしょう?皆羨ましがるわ』
『ジャズとかね!特に悔しがりそう』
パッと笑顔になるアーシーたちに翡翠もつられるようにふふっと笑ってしまう。日々、戦いや訓練に明け暮れている3人もこうしていると年若い女性と変わらないんだ、ということがわかり、何だか嬉しかった。『じゃあ、お願いしちゃおうかしら』と言う言葉に翡翠は大きく頷いた。
「上手に出来なかったらごめんね」
『関係ないわ。翡翠が気持ちを砕いてくれたってことが大切なんだもの』
『もし途中で疲れちゃったら、もうそこで無理せず、ね』
「ありがとう」
格納庫の外には水道がある。そこにシャワー付きのホースを繋ぐことにした。
みんなで移動中、隣を歩いていたエリータ・ワンが翡翠の顔を覗き込む。
『帰ってきたら、司令官にも自慢できちゃうわ』
その一言に「え?」と翡翠が視線を合わせる。
「オプティマス、いないんだ?」
『ええ、任務で出てる。微弱だけど、敵の反応があったらしいわね』
「そうなんだ…」
翡翠が基地を出発する頃にはそんな話は全くなく、オプティマスも基地内で訓練をしていると聞いていた。たった数時間で状況が大きく変わっている。軍に身を置く、ということはそういうことなのだろう。思わず無言になる翡翠の背中をアーシーがそっと撫でてくれる。
『司令官なら大丈夫よ』
「…うん、ありがとう」
翡翠の心配や不安を解してくれようとした気持ちが嬉しくて…小さく微笑みながらお礼を述べた翡翠だったが、ふと不思議に思い顔を上げる。
『ふふっ、洗車しながら聞かせてね』
「え?」
『司令官と、いつからそういうことになってたの?』
突然そんな話を振られてしまい、「あ〜、えっと〜…」と視線を逸らしながら濁そうとするも、にっこりと微笑むアーシーからは逃げられないような気がした。
