第2章:遥か、宇宙の彼方より
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『2人の変化』
〜夕暮れの恋歌<59>〜
ジャズとサイドスワイプが似ている。
そんな感覚がどうしても抜けない翡翠にジャズは不満らしく、『俺の方がイケてる』と反論した。
「ん〜…」
今も何度かジャズとサイドスワイプのことを交互に見つめる翡翠。
遠目に見ると似ているな、と思ってしまったり、ジャズとサイドスワイプ1人1人を見ていると装甲の違いなどはさっぱりわからなかった翡翠だったが…こうして2人並んでくれると見間違うことがなさそうだ、と小さく頷いた。2人の体格が、思っていた以上に違うことに気がついたのだ。
チラリと至近距離でジャズと視線が合う。
『…翡翠が言いたいことは何となく分かったが…それはやめろ』
「私、何も言ってないよ?」
『顔見りゃわかる』
ため息を吐くように、長く長く排気して見せるジャズ。
決して怒っている訳ではない。そして、翡翠もそれに気付いているのだろう、「機嫌直して」と笑いながらジャズの肩でユラユラと足を揺らし、その銀色の頭に体を凭れかけさせている。
明らかにバンブルビーやサイドスワイプよりも彼女と親密そうに見えるジャズに、2人は内心悔しがり、1人はどこか得意そうにふふん、と鼻を鳴らす。
一瞬、ここが軍事基地であることを忘れてしまいそうなほど、穏やかな時間だった。翡翠よりも数倍…見上げなければならないほど体の大きな、しかもロボットのような生命体に囲まれて以前の彼女なら間違いなく尻込みしてしまっていただろう。
今、微塵もそんな気持ちにならないのは彼らが翡翠と友人のように接し、慈しみを持った態度でいてくれるからだ。その中心には、やはり彼がいる。オートボットを纏め上げ、誰よりも大きな体と穏やかな心を持っている、大好きな彼が。
一際大きな足音が響いて、顔を上げると今まさに心に思い描いていた彼が見えた。先程バンブルビーが翡翠を抱えて飛び越えた鉄柵を楽々跨いで、こちらへと向かってくる。
「オプティマス」
翡翠に名前を呼ばれ、小さく片手を上げて彼女に応えているらしいことは分かった。
そして次の瞬間、ジャズの肩に乗っていた翡翠を掬い上げるようにして両手でそっと抱き上げると、そのまま肘を曲げた状態にした腕の上にそっと座らせる。
翡翠を連れて行かれたジャズはもちろん、見ていたバンブルビーとサイドスワイプも『え?』とは思ったが、あまりにも流れるような動作で彼女を連れて行ったため、言葉を発する暇すらなかった。
『ジャズ、ご苦労だった』
『あ、あぁ…』
『報告を聞こう』
報告の前に聞きたいことが色々あるのは、むしろこちらの方だ。
そんな風に思ったジャズだったが、真顔のオプティマスにジッと見降ろされており言葉が出てこない。オプティマスも翡翠のことを溺愛しているのは知っていたが、これまで表立って行動するようなことはなかったように思う。どちらかと言えば、オートボットの面々が翡翠と交流しているのを近くで穏やかに見ているような印象が強いのだが…
『っ……!』
そんな小さな違和感にいち早く気付き、確信に迫ったのはバンブルビーだった。
やはりサムとミカエラという人間のカップルをいつも間近で見ているだけのことはある。
ラジオのチャンネルを少し弄ると、耳にしたことのあるファンファーレのような音楽が流れ出す。“結婚式”の定番とも言えるあの曲だ。
しかも、胸元でパチパチパチと小さく拍手をして見せるバンブルビーに、翡翠が笑った。
「それは、流石にちょっと気が早すぎるかな」
『“善は急げだ”、“おめでとう〜”』
「恥ずかしいよ、バンブルビー」
照れ臭そうに微笑んでいる翡翠と、否定することもなく黙っているオプティマス。
つまり、そういうことなのだろう、とジャズとサイドスワイプも気が付き、同時に言葉を失ってしまう。もちろん喜ばしいことだとは思うのだが、この堅物な司令官が落ちたという事実にまず驚きが勝る。付き合いの長いジャズなら、尚更のことだろう。
『…マジか』
思わずそんな一言が零れ落ちた。
それが聞こえているのかいないのか、オプティマスは特に気にする様子もなく、翡翠の顎の辺りへと大きな指を伸ばすと、無理のない力でそっと上を向かせている。
「……?」
『体調はどうだ?』
「元気だよ。眩暈も落ち着いているし…この前は、心配かけちゃってごめんなさい」
『君が謝ることではないだろう』
でも…と言い淀んでいる翡翠の頭をそっと撫でたオプティマスがわずかに目を細めている。
先日の翡翠の異変は、咄嗟にメモリーに納め、すでにラチェットへ送信している。今、自身の腕に腰掛けている翡翠は顔色も良く、声にも活気があり、言葉通り元気そのものに見えてオプティマスは内心安堵していた。
間近に見える彼女の瞳も、普段と変わらない美しい漆黒色をしている。
『変わりがないなら何よりだ』
先日、突然また不思議な言葉を口にした翡翠だったが、オプティマスが目の前で実際にその様子を見るのは初めてだった。普段とは違う抑揚のない声、翡翠の瞳は深い蒼に輝き、人間のそれというよりも、どちらかというと自分達のアイセンサーの輝きに似ているように見えたのだ。
ザワリ、とスパークが波立った感覚が今も鮮明に残っている。
「どうしたの?」
『いや…窮屈な思いはさせていないかと、気掛かりに思ったのだ』
おそらく、翡翠自身そのことには気が付いていないのだろう。不必要に不安を煽るべきではないと考え、オプティマスは話題を変えた。
『今の翡翠は決して自由とは言えない。行動範囲も限られている…君の精神面が心配だ』
「それは、不自由を感じることがないと言ったら嘘になるけど、ココにはレノックスさんもいるし、バンブルビーたちもこうして会いに来てくれるし…」
オプティマスの腕に座っているおかげで随分目線が高くなっている翡翠が視線を落とすと、眼下でバンブルビーがグッドサインを出してくれているのが見えて小さく笑った。
「それに、ココにいればオプティマスとこうして度々会えるから…それは、すごく嬉しいかな」
『……そう、か』
いつも時間を作ってくれてありがとう、と続け笑顔を見せている翡翠に対して、オプティマスは一瞬驚いたような表情を見せたのだが…
今は僅かに顔を背けるようにして、何故か明後日の方角を向いている。本人に指摘すれば否定するのだろうが、完全に照れているように見えて、ジャズは驚きながらも何とか笑い、サイドスワイプに至っては今も言葉を失ったまま自軍の司令官を見上げている。
やはりこれは、報告どころではない。元々パトロールには出たが、特に変わったことはなく報告することもないのだ。こちらが色々と報告を聞かせてもらうべき事案ではないか。
『さて、と〜…』
そんな風に考えたジャズがニヤリと笑っていることに、翡翠はまだ気付かない。
