第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『ラチェットの仮説』
〜夕暮れの恋歌<63>〜
人間は、意図して睡眠というものを取らなければならないらしい。
我々でいうところのスリープモードに近いようだが、毎日定期的に睡眠を取らなければ活動を維持できなくなるようだ。例に漏れず翡翠も、この基地に属している他の人間たちも、睡眠を取る。
軍事基地、という特殊な場所故、交代で睡眠を取り常に警戒は怠っていないようだが、それでも昼間のような活気はないし、基地全体が静まり返っている。
そんな中、まだ明け方前という時間を鑑みて、オプティマスはエンジンの音を控えめに、基地内を移動していた。
基地へ帰還すると同時にラチェットから『話がしたいから時間をもらいたい』と通信が入ったのだ。
簡単な伝達であれば、オートボット専用の通信回路で伝えれば事足りる。だが、わざわざ話がしたい、と呼び付けるということはそれ程の要件…ということなのだろう。ちょうどオプティマスにも話したいことがあったため、すぐにラチェットのラボへと向かった。
『やあ』
到着するとすぐにトランスフォームし、ゆっくりと上体を起こす。
いつも一緒にいるジョルトの姿は見えず、ラチェット1人でラボにいることに少し驚いた。
『呼び付けてすまないね』
『いや、私にも話したいことがあったのだ』
『なら、ちょうどよかった』
ラチェットはすぐに本題へ入るようで、『さて…』と小さく呟くとオプティマスへと向き直った。
『どちらから話そうか?』
『ラチェットが先で構わない』
『では、そうしよう』
そう言いながら、ラチェットが静かに腕組みをする。オプティマスへと向けた視線は外すことなく…そんなラチェットに言いようのない違和感を感じる。普段のラチェットであれば、何か話をすると言っても作業する手を止めないことが多いのだが…
『…翡翠のことか?』
思い当たることといえば、それしかない。
つい昨日も、彼女は体調不良でラチェットの診察を受けているはずだ。
『それはそうなのだが…その前に1つ、聞きたいことがあるのだが』
ラチェットがそんな前置きをすることも珍しい、と思いながらオプティマスが無言で先を促すとラチェットが笑った。
『翡翠と、想いが通じ合ったそうだね。よかったじゃないか』
『知っていたのか』
『レノックスが正気を保てていないとアイアンハイドから聞いてね』
『ああ、彼には随分心配をさせてしまったようだ』
そう話しながら、オプティマスにはつい先日のレノックスの様子が容易に思い返された。
翡翠のことを娘のように思っていると話したレノックス…心配はかけてしまったようだが、それと同時にある程度の理解は得られたはず。
ラチェットは1つ咳払いをするとオプティマスと目を合わせた。
『プライベートなことに立ち入って申し訳ないとは思うんだが…』
『ん?』
『…まさか、もう彼女に何かした訳ではないだろうね?』
『なにか、とは………、……』
一瞬聞き返そうとしたらしいが、次の瞬間には言葉の意味を理解したようで、お前が思うようなことはしていない!と、すぐに反論してくるオプティマスを見てラチェットは『まぁまぁ』と宥めるようにヒラヒラと手を振って見せる。まぁ、そうだろうな、とは思っていたので、ラチェットにとっても予想通りの返答だった。
質問の意味を理解した瞬間にピクッと体を揺らしたところを見てもそうだし、真面目すぎる性格のオプティマスが、想いが通じ合ったとはいえ、すぐに翡翠と距離を詰めるようなことをするとは、ラチェットとしても到底思ってはいなかったのだが…
『すまないな。可能性の1つとして潰しておきたかっただけだ』
『…何の話だ?』
訝しげな表情を見せるオプティマスに、ラチェットは静かに排気した。
可能性の1つは潰した。そうなると、ますますもう1つの仮説が信憑性を帯びてくる。
『翡翠がここに滞在してくれるようになって、すでに2週間だ。日々検診を受けてもらっているが、はっきりしたことがある。昨日の不調時に採血をさせてもらい、それが決定打になった』
『……………』
『彼女の中に、わずかだがエネルゴン反応があるのだ』
『……まさか…』
『それも、オールスパークに似ているとも思えるような反応だ』
あり得ない、とでも言いたげな表情をしている、とラチェットは思った。オプティマスがそう思うのも無理はないだろう。実際に検診を担当し、その結果を目の当たりにしているラチェット自身、今だに半信半疑なくらいだ。
また小さく息を吐いて、腕を組み直すとオプティマスへと視線を合わせた。
『反応としてはかなり微弱だ。私がこれだけ検診を繰り返して、ようやく検知できたくらいだからな』
『翡翠は、人間だろう…?』
『ああ、そうだ。身体データは一般的な人間の女性のそれと全く変わりない』
だからこそ問題なのだ、と続けたラチェット。オプティマスが息を飲んだのがはっきりとわかった。流石に動揺が隠せないのだろう。説明しなければならない。
今わかっている、全てのことを。
『ミッションシティでメガトロンと交戦した日、君は翡翠を救ったと言っていたな』
『あぁ、飛んできた瓦礫が彼女に当たりそうになっているのを、寸でのところで防いで…』
『その後は?』
『事態が飲み込めず呆然としている様子だった彼女を、すぐ横にあった路地に押し込んだ。メガトロンがすぐ近くまで迫っていたから』
『あぁ、翡翠に残っている記憶もそうだった』
彼女が話した経緯と、オプティマスが話す経緯に相違はない。問題はこの後だ、とラチェットは小さく頷いた。その後、すぐに翡翠は気を失ってしまったようだ、と話していたのだ。
ここからはラチェットの仮説でしかないのだが…
『おそらく、翡翠が気を失っている間にメガトロンとの決着が付き、キューブはメガトロンと融合され、破壊された…器を失ったオールスパークが側で気を失っていた翡翠を器として選んだのだろう』
『そんなことが、起こり得るのか…』
『あくまで仮説だがな…意識がなくなったものの方が、入れ物としては選びやすい』
そう考えれば、あれだけの戦いの側に居合わせたにも関わらず無傷で発見されたという話もどこか合点がいく気がした。オプティマスに救われた現場よりも随分離れた場所で、気を失った状態で見つかったらしい、と翡翠が話していたことも。
これまで彼女もそのことを疑問に思っていたようだったが、もしオールスパークの意思で安全な場所まで移動していたとしたら…
自然とそんな風に考えてしまう。
『オールスパークが宿っている、とは言ってもあくまでも一部のようだ。それ以上は人間である翡翠の身が持たないのかもしれない…今後も慎重に経過を見ていく必要があるな』
『…そうか…』
オプティマスは片手を持ち上げると目頭を抑えるようにして、ゆっくりと息を吐いた。
仮説、とは言いつつもラチェットが曖昧なことを報告してくるとは思えない。司令官であるオプティマスへ報告を上げる段階では、かなり調べ上げた状態でデータを持ってくる。そういう男なのだ。
飲み込まなければならない、と思いながらもブレインが混乱しているのがわかる。
……私が、彼女を巻き込んだのか……?
思わずそんな考えがよぎって、周りの音が一瞬にして聞こえなくなったような気がした。
