第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『お父さん!?』
〜夕暮れの恋歌<55>〜
その日、演習終わりらしいレノックスに、少し時間はあるか、と呼び止められた。
本日分のラチェットの検診はすでに終わり、部屋に戻ろうかと思っていた所だったため、当然時間的には問題ないと頷いた翡翠にレノックスはどういう訳か、「まぁ、ここで話す内容でもないからな」と呟いて…会議室のようなところへ通された。
初めて来た場所だ。…とは言っても、軍事施設の中を極力歩き回らないようにしている翡翠にとっては、行ったことのある場所の方が限られてくる。
「よぉ」
そんなに広くない部屋の中にはすでにエップスもいて、片手を上げて声をかけてくる。翡翠も「こんにちは」と挨拶を返すが、そんな彼がどこか居た堪れない表情をしている気がして、首を傾げた。
「とりあえず、座ってくれ。何か飲むか?」
「いえ、大丈夫です」
そうか、と小さく呟いたレノックスが椅子をひいて着席を促してくれたので、お礼を告げながら静かに席につく。
レノックスが向かいの席に着くのを目で追いながら、耐え切れず先に口を開いたのは翡翠の方だった。
「あの…私、何かしちゃいましたか?」
「え?」
全くもって身に覚えはないのだが、この物々しい雰囲気は何かあったに違いない。むしろ、そうとしか思えなかった。
「いや、そういう話ではなくてだな…」
「……………」
「…なんて言ったらいいんだ」
「………?」
翡翠はすでにお説教を覚悟していたのだが、レノックスは片手で顔を覆いながらため息をついている。何か、言いにくいことを告げる前のような…言葉を選んでいるような…
そんな様子にますます疑問ばかりが浮かんできて…困ったようにエップスへと視線を投げるが、そんな彼からも答えは返ってこなかった。
ただ、苦笑いしながら肩を竦める、という大変曖昧は反応があっただけ。
「レノックスさん?」
「その、だな…翡翠」
意を決してように、レノックスが正面から真っ直ぐに目を合わせてくる。
「お前…オプティマスと何かあったか?」
「……えっ…!?」
思わず変な声が出た。想像していたような内容とは到底かけ離れていたから。
確かに、何かあったか、と言われれば答えはYESだ。
だが、レノックスと翡翠は毎日顔を合わせている訳でもないし、もちろん自分から先日のことを誰かに話したわけでもないのに、一体なぜそんなことを質問されるに至ったのか…疑問ばかりがぐるぐると頭の中を回る。
翡翠の様子から肯定ととったらしいレノックスが、また小さくため息をついた。
「翡翠…気は確かか?」
「え、と…」
「ヤツは今や軍人だ。そういうヤツと想い合うのは、覚悟がいるぞ」
「…は…、はい」
俺が言うのも何だけどな…と続けるレノックスに翡翠は小さく頷いた。
何度も任務に赴くオプティマスを見送った。会えない間も、任務に行くときは必ず翡翠に伝えてから旅立っていたから彼から、無事帰還した、という連絡が入るまでは心配で眠れないこともあった。
怪我をしたら…命に関わるようなことがあったら…そんなことが頭から離れなかったこともある。
レノックスはそう言うところを心配してくれているのだろう。翡翠にとっては、2人目のお父さんのように思っている彼にそんな心配をしてもらえるのは、少し恥ずかしく、少し嬉しくもあった。
そして、少し驚きもした。
「…てっきり、エイリアンとは無理だって言われるのかと思いました」
「それはもういい。翡翠が何も考えずに答えを出したとは思っていないんだ」
「そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいです」
「まぁ、見てて何となく気付いてたしな」
「っ、そうなんですかっ…」
それはそれで、ものすごく恥ずかしい。正面に座るレノックスと壁に寄りかかっているエップスが同じく頷いているのを見て、翡翠は思わず両手で顔を覆いたくなった。
「私…そんなにわかりやすかったですか?」
顔から火が出るとはまさにこのことだ…なんて思いながら、そんな質問が口をついて出る。ただ、レノックスからの返答はまたしても思い描いていたものとは随分かけ離れていた。
「どちらかというと、オプティマスの方がな…」
「ああ」
「ものすごくわかりやすい」
「今だって浮かれてる感じがな…伝わってくる」
レノックスとエップスで同意しているらしいそんな会話に翡翠は瞬きを繰り返すばかり。
他人に気付かれるくらい浮かれているオプティマスなんて、正直言って想像できないのだが…2人に言わせてみれば、些細な変化ではあるが、演習や任務で顔を合わせることが多く、普段から彼を見ているからこそわかる、のだそうだ。
「いいか翡翠」
「はい」
「ヤツがどのくらい長く生きてるのかは知らんが、付き合いたてってのは皆馬鹿になるんだ。暇さえあればすぐ相手のことで頭の中がいっぱいになる」
「…はぁ…」
「いいな?節度を持った付き合いをするんだぞ」
ビシッと指を差されて暗に、お前もだぞ、と言われた気がした。いや、これは間違いなく言われている。
最後の方はレノックスの迫力に負け、何度もコクコクと頷いて見せる翡翠。
今にも椅子から立ち上がらんばかりの勢いだった。隣で呆れたようにため息をついているエップスの様子も大変気になる。
そんなレノックスには、まだ葛藤があるようで「もし同じ状況だったら、アナベルにも同じことを言えるか……、…いや、無理だな、これ!」などと言いながら頭を抱えている。
再度レノックスが口を開きかけた、その時だった。
コン、コン、と部屋の窓ガラスから音がした。弾かれたように翡翠が振り返った時、エップスはすでに窓を開けようと窓枠の鍵に手を伸ばしていた。まるで、来るのがわかっていたかのように…
『すまないレノックス、その辺にしてやってくれないか』
開かれた窓から顔を覗かせたのは話の渦中にいるオプティマス本人だった。
確かに、この部屋は3階…いくら巨大な金属生命体とはいえ、覗き込める体格の者など限られてくる。
「オプティマス」と名前を呼びながら窓へと近寄ろうとした翡翠だったが、それよりも先にレノックスがガタッと立ち上がり、窓へと大股で進んでいく。
勢いが良すぎて倒れた椅子はエップスが苦笑いを見せながらそっと直していた。
「俺は、アンタにもまだまだ言いたいことが山ほどあるからな」
『わかっている』
「何度だって言うぞ、紳士的にな!俺は日本にいる翡翠の両親に代わって、実の娘のように日々彼女と接しているんだ」
『わかっているレノックス。翡翠のことを大切にすると誓う』
「あ〜、そう言うことだけじゃなくてだな…ちゃんと伝わってるか?紳士的に、な」
『うむ』
レノックスに詰められながらもオプティマスは真面目に頷いている。
言ってしまえば、娘の交際相手と父親の図…になるのだろうが、その構図が一見わかりにく過ぎてちょっと笑ってしまった。
「前に言ったろ?レノックスがそのうちアンタにも親バカを発揮しだすぞ、って」
「そういえば、そんなこと言われましたね」
「娘を持つ父親ってのは、複雑だよなぁ」
「あはは…」
隣に立ったエップスにそんなことを小さく耳打ちされた翡翠は、困ったように笑うしかなかった。
