第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『彼から貰う安心感』
〜夕暮れの恋歌<50>〜
『翡翠』
「……………」
『翡翠』
「…う~…」
遠くから名前を呼ばれている気がして、ゆっくりと瞳を開ける。
診察台の上に検査着で横たわっている翡翠のことを真上から覗きこんでいるのは軍医のラチェットだった。
徐々にはっきりと聞こえるようになってきた彼の声に、翡翠は少しずつ意識が浮上してくる感覚を覚えて…
「…私、眠ってた…?」
『あぁ、よく眠っていた」
「ごめんなさい」
『何故謝る?何もせず横になっているのも苦痛を伴うものだ…眠れるのであればそれに越したことはない』
「そう、かな…」
『それに、それだけ私たちのことを信用してくれているのだろう?』
ゆっくりと体を起こす翡翠の背中をラチェットの大きな指がそっと支えた。
「ありがとう。信用っていうより、信頼っていう言葉のほうが合ってるかも」
『そうか。それは光栄だな』
そう言ったラチェットは本当に嬉しそうにしていて…
あまり見たことのない師匠の姿にジョルトは少し驚いたが、高い診察台から降りたそうな素振りを見せている翡翠が目に入って、その足元へとそっと手を差し出した。
「ありがとう、ジョルト」
『い、いえ…』
そしてふと、今の自分もこの師匠のような顔をしているのだろうか…と。
何処か他人事のように考えていることが何だか滑稽に思えた。
毎日検診に訪れる翡翠と向き合って、当初は会話もままならなかったジョルトも随分変わってきた。
本当に不思議な人間だ…
その暖かさ、穏やかさには誰もが絆されてしまうのではないだろうか。
もちろん、ラチェットとジョルトも例外ではない。
『毎日検診続きで、疲れていないですか?』
「大丈夫。それより、ラチェットとジョルトのほうが…」
『え?』
「だって、ほら…私に付き合っているせいで、2人は任務も訓練も全然出来ないでしょう?」
心配そうにそう言う翡翠にラチェットとジョルトの2人は思わず顔を見合わせた。
毎日、こうして必ず彼女に会えるのは2人だけに与えられた特権とも言える。
ジャズもバンブルビーも、オプティマスでさえも毎日決まって翡翠に会えると約束されている訳ではない。
『翡翠、心配には及ばないよ』
「そう?」
『あぁ、むしろ私達は皆に羨ましがられているだろうね』
「そうなの?」
どうして?…とでも言わんばかりに首を傾げている翡翠は本当に可愛らしい。
すかさずメモリーしていくラチェットとジョルトだったが、ふと近付いてくる気配に顔を上げた。
大きく暖かな気配…彼しかいない。
『まるで、タイミングを見計らったかのような登場だな』
「え?」
何が…?と続けようとしたところで、炎の塗装を施したトラックが颯爽と現れる。
扉をくぐったところで、ガチャガチャと変形していくその姿が翡翠の目に飛び込んできて…
「オプティマス!」
パッと、一段と明るい表情になる彼女にラチェットは目を細めた。
ほんの少し妬ける気もするが、その相手がオプティマスとなれば、致し方ない。
そうとはわかっているのだが…
『オプティマス、リペアの依頼でも?』
『いや、そうではない。翡翠に会いに来たのだが…』
オプティマスの用件など、とうにわかっているくせにあえてそう問いかけているラチェットに気付き、ジョルトは師匠の新たな一面にまたしても少し驚いた。
診察台から降りた翡翠の前でオプティマスが膝をつき、身を屈める。
数日間任務で基地を離れていたのだ。おそらく、帰還し報告を済ませたその足でここへ出向いたのだろう。
「お帰りなさい、オプティマス」
『あぁ、無事帰還した。久し振りだな、翡翠』
大きな指が差し出され、柔らかな頬にそっと触れる。
感じるのは金属のひんやりとした感触なのに、触れたところから熱が広がっていくような暖かさが心地よい。
『元気そうで何よりだ』
「オプティマスも、無事で何よりです」
『変わりはないか?』
「うん。ラチェットも、ジョルトも、オートボットの皆もとっても良くしてくれて」
翡翠の言葉にオプティマスは『そうか』と答えただけだったが、その声音には慈しみが込められているように感じられた。
そんな自軍の司令官にラチェットは小さく息を吐いた。
オプティマスにとって、翡翠のような存在が出来ることを喜ばしく思う。
長年の付き合いだからこそ知っているオプティマスの本質…皆の希望であり、誰もが認めるリーダーの素質。
そして、いつも自分で全てを背負いこもうとしてしまう、少し不器用なところも。
『翡翠、今日の検診は終わりだ。このまま、オプティマスに部屋まで送ってもらうといい』
「えっ?」
『いいのか、ラチェット』
『まさに絶好のタイミングでの訪問だったよ。よろしく頼む、オプティマス』
『うむ』
返事と共に、ガチャン、ガチャンと音がする。
見ると、オプティマスが再びトラックへと変形し、ゆっくりとその扉を開いてくれたところだった。
ペコリと頭を下げる翡翠に対してラチェットが頷く。
『明日、また待っているよ』という一言に笑顔で頷いた翡翠を…本当に美しいと思った。
(加筆・修正)
