第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『愛され彼女』
~夕暮れの恋歌<47>~
『はっ、はじめまして!』
「はじめまし、て…」
オプティマスに促されるまま、ラチェットのラボを訪れた翡翠は入り口に立ち尽くしていた。
ラボの入り口が開くと同時に目に入ってきた…青いボディのトランスフォーマー。彼も新顔らしくオプティマスに紹介された。
名前はジョルト、というらしい。
『あぁ、僕もうどうしよう…』
「え?」
はじめまして、と挨拶をしたのはいいが目の前の彼は何故か挙動不審。
キョロキョロ、と辺りを見回してみたり…所在なさげに手を動かしていたり…とにかくソワソワしている。
「あの…?」
『ジョルト、一体どうしたのだ?』
『あっ、い、いえっ、オプティマス』
そんなジョルトの様子をオプティマスも不審に思ったらしく声をかけている。
司令官に直接声をかけられたジョルトは一層緊張したように背筋を伸ばしたが、その視線はチラリ、と一瞬だけ翡翠へと向けられ、すぐに逸らされてしまった。
不思議そうにしながらも悪い印象は受けず、翡翠はジョルトへ1歩近付くと大きな彼を見上げた。
「ここに来る間、オプティマスから聞きました。ラチェットの助手をされていて、とても優秀だって」
『そ、そんな…僕などまだまだ勉強中で…』
「でも、オプティマスもとても信頼できる仲間だと言っていましたよ」
「ね?」と振り返りながら言う翡翠に『うむ』とオプティマスも頷いている。
何処か困惑した様子のジョルトにそっと手を差し出す翡翠。
彼女としては握手のつもりだったのだが…
『翡翠、その辺にしておいてやってくれ』
「…え?」
『ジョルトのスパークが焼け付いてしまう』
そう言いながら、奥の部屋から現れたのはラチェットだった。
その声にジョルトは金縛りが解けたかのように、ささっと翡翠から距離を取り、壁の方に向いてしまう。
差し出していた手を下ろしながらキョトンとしている彼女の側に膝をついたラチェットが、わずかに声を落とした。
『君の話をしたら、ジョルトは君に大変興味を持ってしまったようでね』
「な、何でまた…」
『君には、まだまだ多くの可能性が秘められている』
「…??」
ラチェットの言葉に翡翠はただただ首を傾げるだけ…言われている言葉はわかるのだが、その意味が理解できない。
『そのうえ、君は我々の司令官の要人だ…そんな君を目の前にして緊張しているのだろう』
「…はぁ…」
『あれでも、君に会うのをとても楽しみにしていたんだよ。今はどうやら照れているようだがね』
声を落としながらのラチェットの言葉だったが、ジョルトの聴覚センサーはその言葉をしっかりと拾っていたらしく…
離れた所から『先生っ…!!』という困惑した声が聞こえてきた。
目の前でラチェットは何処か楽しそうにしていて…
「ラチェットって、そんな風に笑うんですね」
『ん?』
「初めて見ました」
足元から見上げながらそんなことを言う翡翠に、ラチェットは少しの沈黙の後、小さく咳払いをした。
それが完全に照れ隠しであることに気付いていないのは翡翠本人だけ。
まるで話を逸らそうとするかのように、ゆっくりと立ち上がったラチェットの目がオプティマスの姿を捉える。
ちょうど足元にいる翡翠の危険を感じたのかソッと手を差し出してやったところで、翡翠もその厚意に甘え、オプティマスの手に乗ろうとしているところだった。
『で…オプティマスは何故まだココにいるんだ?』
レノックスが呼んでいたはずだ、というラチェットの言葉に翡翠は小さく苦笑いを見せる。
当の本人であるオプティマスはどこ吹く風と言った様子で、レノックスの心労が伺えた。『翡翠を送り届けたらすぐに行く』とは伝えていたようだったが…翡翠最優先の姿勢に折れたのはやはりレノックスの方だった。
そんなオプティマスは、揺らさないようにそっと翡翠が乗った手を持ち上げると、トランスフォーマーサイズとも言える巨大な台の上へと運ぶ。その前にラチェットが立てば、そこはたちまち診察台へと変わるのだ。
『何度も何度も私に通信を送ってきたのはお前だろう?』
『おや…私は“翡翠だけ”来てくれればよかったのだが…』
『……………』
無言でラチェットのことを見ているオプティマス。
ラチェットは観念したように、両手を上げると静かに排気した。
『わかっている…余計なことはしないよ』
2人の巨大なトランスフォーマーの間に挟まれ、視線が行ったり来たりしている翡翠にはよくわからなかったが…何となく、あのラチェットがオプティマスの無言の圧力に音を上げたのだろうことだけはわかった。
あの、ラチェットが…
『翡翠、オプティマスからココに来た目的は聞いているか?』
「はい、もう一度検診を受けたほうがいい…って」
ゆっくりとラチェットが頷く。
「だけど私、どこも悪いところはないですけど」
腑に落ちない、と言った様子で目の前の軍医を見上げる翡翠。
前回の検診を終えた時、彼らの側にいることでごく微量の放射線を浴び続けていることに変わりはないのだから…と、定期的な検診は受けたほうが良いとラチェットからも勧められていたが、今回の申し出はあまりにも急すぎた。
オプティマスからも、おそらく詳しい話までは聞いていないのだろう。
そんな翡翠を真っ直ぐに見詰め、ラチェットはわずかに顔を近付けると口を開いた。
『翡翠、ジャズも目眩が頻発しているようだと心配していたぞ』
「それは…」
『ジャズだけではない。オプティマスも、バンブルビーたちも、私も…君の体を案じている』
「そんな…大袈裟なものじゃないのに」
『だが、大事になってからでは遅い…協力してもらえないか?』
ラチェットの申し出に困ったように翡翠はオプティマスを見上げる。
真っ直ぐに視線を向けていた彼にも促されるかのように小さく名前を呼ばれては、翡翠も観念して頷くしかない。
何より…オプティマスやレノックスから軍の上層部、はたまた政府を通して翡翠の学校にはすでにしばらくの休学措置が取られているというのだから…
既に手を打たれている現状、頷く以外の選択肢は残されていない。
『感謝する。では翡翠、今回は少し時間をかけて検診させてもらうのでそのつもりでな』
「はい…」
『ジョルト』
『はい、先生』
ラチェットに声をかけられ、近付いてきたジョルトによって検査着のようなものを手渡された。
確かに、前回のものとは比べ物にならないくらい本格的な雰囲気が漂っている。
『まずは継続的に君の身体的なデータを取らせて貰いたい』
「それって…」
『まぁ、簡単に言えばDNA、血液データ、中枢・末梢細胞、そういうものだ』
「……………」
思わず黙ってしまう翡翠。
『あらゆる方面から君の体に起こっている変調を探らなくては…』というラチェットの言葉には何処か熱が籠っているようにすら感じられる。
困惑した表情を浮かべる翡翠にオプティマスが身を屈め心配そうに声をかけた。
『翡翠、大丈夫か?』
「えっ…あ、あぁ、大丈夫…あまりにも大それたことになっているから、少しびっくりしちゃって」
『…迷惑をかける』
「いえ…皆、私の体のことを心配してくれているんでしょう?ありがたく思わなくちゃ…」
そう言って笑う翡翠を見て、オプティマスもラチェットもジョルトも…良心が痛んだ。彼女には、今回の検診の本当の理由を話していない。
目眩の原因を探るのはもちろんだが、本当の目的は…ジャズの報告にあった蒼い瞳、不思議な言葉の数々、その原因を探ることにある。
ただ、明らかに翡翠の意識下にあったとは思えないあの表情、言葉…それを今、彼女に告げることは不用意に不安を煽るだけ、と考えての判断だったのだが。
『極力、君の体に負担がかかるような検査は避けるようにする』
「大丈夫です、ラチェット。よろしくお願いします。ただ…」
『ん?』
胸元で検査着をきゅっと抱き締め、翡翠が顔を上げる。
「…痛みに、あまり強い方じゃないんです。痛いことは、なるべくしないでくださいね…」
その瞳は不安に揺れ、わずかに潤んでいて…
目の前で炸裂したそんな表情に3体の金属生命体は無言のまま、後ろに卒倒しそうになるのを何とか耐えていたとか。
そして、そんな表情に庇護欲がかき立てられたオプティマスはますますその場を離れがたくなり、痺れを切らしたレノックスがラボへと乗り込んできたとか。
何にしても、翡翠のディエゴガルシア基地での生活がスタートした。
