第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『告白』
〜夕暮れの恋歌<43>〜
「な…なん、ですか?今の」
既に温められていたらしいシートにポスンと降ろされながら、翡翠はやっと、といった様子でそう一言だけ口にした。
パチパチと何度か瞬きしているとほとんど音を立てないまま、助手席の扉が勝手に閉められる。
『怪我はないか?』
翡翠を心配する優しい声が車内に直接響いてくる。無言のまま何度も頷く翡翠に声の主は安堵したように息を吐き、謝罪した。
『すまない。驚かせてしまったな』
「い…いえ…」
『転ぶと怪我をしてしまうと思ったのだ…どうか、許してほしい』
許す、許さないの話ではない。
オプティマスは輸送機の揺れでよろめいた翡翠を転倒から救ってくれたのだ。彼の手助けがなければ、突然の揺れに耐えきれず、転倒していたばかりか、どこかに体を打ち付けていたかもしれない。
ただ、その方法が思いも寄らない方法だっただけに、驚きを通り越し、固まってしまっている…それだけの話。
ただただ頷くことしか出来ずにいる翡翠に、何度も謝罪の言葉がかけられる。
「謝らないでください。おかげで転ばずに済みました」
『……うむ』
「あの…さっきのは…?」
『細かい作業をする際に使用するケーブルだ。ほとんど使ったことがなかったが、人間の世界では時折必要になる』
「あぁ、なるほど…一瞬ロープで縛り付けられたのかと思いました」
そう言って笑うと、オプティマスはまた謝罪を口にした。もちろん痛くはなかったのだが、力加減が相当難しいらしい。そういえば、以前ジャズが翡翠 の護衛をしてくれていた時にも、一度これと同じようなものを見たことがあったな、と思い出した。ジャズはそれで涙を拭ってくれたのだ。
おそらく、それと同じようなものだろう…転ぶ!!と思った次の瞬間には体に何かが巻き付き、気が付くと車内にいて、シートへ体を降ろされた所だった。見方によっては、巨大なトラックに引き摺り込まれたように見えたのかもしれない。
同じく固まっているエップスの表情がそう物語っている。
随分目線が高くなったなぁ、なんて呑気なことを考えながら、トラックのフロントガラス越しに手を振って無事を知らせるとエップスのフリーズがようやく解けたようだった。
「とんでもねぇモン見ちまった」と彼の口元がそう動いている。
『君を怖がらせるつもりはなかった』
「怖がってないですよ。ビックリしただけで…助けてくれて、ありがとうございました」
『あぁ』
出会ったばかりの頃、オプティマスは翡翠を怖がらせたくない、としきりに話していた。目の前でロボットモードに変形することさえ渋るほどに…そんな優しい彼だから、何としても誤解してほしくない、と思った。
翡翠がオプティマスのことを怖いと思ったことなど、ただの1度もないのだから。
どこからともなく、キュルキュルという駆動音が聞こえてくるのが心地良い。
「もう少しで到着するそうです」
『そのようだな』
「…それまで、ここにいてもいいですか?」
『もちろんだ』
すぐに了承してくれたことが嬉しくて、温かいシートに体を沈み込ませると笑みが溢れてくる。
こんな穏やかな気持ちで過ごせる時間も、おそらく基地に到着してしまえばまたしばらくお預けになるだろう。近くにいるはずなのに、容易に会うことは叶わない。彼はそういう立場にある人なのだ、と自分に言い聞かせた時だった。
『君が望んでくれるなら、いつでも会いに行こう』
スピーカー辺りから響いてきたオプティマスの言葉に翡翠は目を丸くする。
「オプティマスさんは、心まで読めるんですか?」
『いや、そういったことは出来ないが』
あまりにもタイミング良く掛けられた優しい言葉に、まさかと思いながらも疑問を投げかけた翡翠にオプティマスが小さく笑った気がした。
『翡翠が寂しそうな顔をしているのは、わかった』
「っ…」
『後ほど、正式に通達されるとは思うが、君にはしばらく基地に滞在してもらうことになりそうなのだ』
「そうなんですか?」
『“学校”があるのはわかっているし、君の生活を尊重したいとは思うのだが…すまない』
オプティマスの謝罪の言葉に##name 1##はフルフルと首を横に振った。きっと、本来なら彼が謝らなければならないことではないのだろう。それでも、優しい彼はいつも翡翠自身を尊重し、1番に考えてくれる…その気持ちが何よりも嬉しかった。
見知った顔がある安心感はあれど、民間人である翡翠にとって軍議基地は未知の空間であり、決して居心地が良いとは言えない。オプティマスには、多分そんな気持ちまでバレているのだろうな、と思った。
「…どうしても寂しくなったら、その時は少しだけ…甘えてもいいですか?」
すぐに『君は我慢をしすぎだ。もっと甘えていい』という言葉が返されて、ビークルモードの今、顔は見えないけれどオプティマスが優しく微笑んでくれているのがわかる。嬉しくなった翡翠がお礼を伝えながら、そっと手を伸ばし、ダッシュボード辺りを撫でると、一瞬巨大な車体がガタッと揺れて、少し驚いた。
「ご、ごめんなさい…突然触っちゃって…」
『いや、いいんだ。こちらこそすまなかった…驚いただろう』
小さく首を振りながら、静かにシートへ座り直した時、また彼特有の駆動音が翡翠の耳に届く。ただいつもとは違い、何種類もの駆動音が混ざり合っていることに気付いた。
何となく、だけれど…何かを考え込んでいるようにも思えて、黙って首を傾げていると、まるで観念したかのようにオプティマスが排気する。
『翡翠、聞いてほしいことがある』
「はい」
『私は、君を愛している』
「はい……、……はいっ!?」
それは、あまりに突然の一言で…至極簡単な単語のはずなのに、理解するまでに驚くほど時間がかかった。いや、今も理解出来ていない気さえする。
『私自身、自覚したばかりだが…君を愛しているのだとわかれば、今までの不可解な気持ち全てに説明がつくのだ』
「え、と…」
『君がこうして近くにいてくれる…そのことを、とても好ましく思う。君も、同じ気持ちでいてくれると嬉しいのだが』
驚きすぎて言葉が出てこなくて…またしても固まるしかない翡翠。
人というものは、驚くと本当に思考が停止してしまうんだな…なんて、どうでも良いことが頭に浮かんでは消えていく。
“彼に惹かれている”ことは何となく自覚していた。だが、それはそれ。まさかその当人からこんなことを言われる日が来るとは、夢にも思っていなかったのだから。
