第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『非日常の再来』
~夕暮れの恋歌<42>~
わずかな揺れにふと目が覚めた時、すでに空が白んでいることに翡翠は少し驚いた。目覚めたことにすぐに気付いたらしいオプティマスからは『もう少し眠っていて構わない』と言われたものの、ぐっすり眠った感覚があったし、このまま二度寝してしまうのはもったいない気がして、流れ行く景色に目をやったり、オプティマスとの会話を楽しむことにした。
そんなことをしている間に、あっという間に目的地に着いた。
一体、いつ出発したのか…意外と近くまで来ていたのだな、とぼんやり考えながら荷物を持って、トレーラーから降りた。
そして今、翡翠は軍の輸送機に乗せられ…海の上を飛んでいる。普段なら大好きな海が目の前に広がっていることに、感嘆の声の1つでもあげたいところなのだが…
とてもそんな気分にはなれなかった。
「……………」
ふぅ、と小さく息をついて、また窓の外へと視線を投げた。
軍の輸送機を間近で見たことすらなかった翡翠は、まずその大きさに驚いた。
レノックスの要人という扱いらしく、明らかに浮いている翡翠を訝しむものは誰もいなかったし、丁重な接し方をしてくれていると感じる。
その点は大変ありがたく、安心したのだが…
自分以外は全て軍関係者、という特殊な状況に緊張しない方が無理というもの。
ふと顔を上げると、目の前の1人の男性と目が合った。
「…アンタ、言葉は?」
「えっ、と、英語なら何とか…」
「だったら十分だ。“あいつら”の知り合いだって聞いてたからどんなヤツかと思ってたが、案外普通っぽいんだな」
「ど、どうも…」
“あいつら”と言いながら、輸送機の後方を親指で指し示す。
そこには移動中の危険が無いよう、機体と固定され静かに佇んでいるトレーラートラックがある。決して褒め言葉とは思えない一言ではあったが、何となく会釈で返す翡翠。
目の前の人物が翡翠の護衛も兼ねているらしいことは搭乗時に聞いていたため、もしかしたら所在なさげに眼下の海を眺めていた自分を気遣って、わざわざ話しかけてくれたのだろうか…とも思う。
「あの…」
そう思うと、何だか気持ちが軽くなったような気がして翡翠はその人物へと話しかけた。
手にしていた大きな銃を膝の上に置きながら、その人が顔を上げる。
「何だ?」
「ずっとレノックスさんと一緒にお仕事を?」
「あぁ、一緒に行動することが多いな。俺はあいつのサポートに回る方が多いが」
「そうなんですか」
「そっちこそ、レノックスとは昔からの知り合いだったんだって?」
「はい」
どうやら、レノックスから自分の話を聞いたことがあるらしいその物言いに何だか少し嬉しくなった。
共通の知人がいる、というのは心強い。
翡翠の表情が少し解れたのを感じて、その人も小さく笑った。
軍でのレノックスは任務に忠実で厳格だ…とか。
あいつの奥さん、美人だよな…とか。
でも、親馬鹿がひどい…とか。
目の前の軍人のそんな話を聞いて、思わず翡翠は笑ってしまう。
「レノックスさんらしいですね。私は、帰ってきた時のお父さんしているレノックスさんしか知らなかったから、軍人さんのレノックスさんを最近目にするようになって…最初はびっくりしました」
「まぁ、そうだろうな」
「えぇ、でも…やっぱりすごく優しい人です」
「…それ、本人に言ってやれよ。喜ぶから」
その言葉に翡翠は「え?」と首を傾げる。
「その内、アンタに対しても親馬鹿を発揮し出すぞ?」
「そうでしょうか?」
「あぁ、間違いねぇな」
何故かそう言い切るその人の言葉に、翡翠はピンときていないような表情を浮かべるばかり。
そして、ふと思い出したかのように話題を変えた。
「あ、そういえば…基地が移ったんですか?」
「何だ、レノックスから聞いてなかったのか」
「はい。搭乗前に、オプティマスさんから初めてそのことを聞いたんですけど、詳しいことはまだ何も…」
「へぇ…」
その人の視線がトレーラーへと向けられる。
『伝えるのが遅くなってしまった』と前置きをしてからオプティマスが話してくれた内容が頭に思い浮かぶ。
軍の詳しい事情はわからないが、フーバーダムよりもさらに遠く…今度は島全体が軍事基地のようになっている場所らしい。
オプティマスからは、先の任務が終わってからすぐにその事実を翡翠に伝えようとしてくれていたらしいのだが、通信が繋がらなかったと言われた。
十中八九、翡翠が気付けなかったあの時の着信だろう…と思い、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「まぁ、アンタはもう関係者だってレノックスも言ってたからな」
「え?」
「あいつらの居住区をそのままディエゴガルシアって島に移したんだ。その方がこっちも色々と都合がよくてな」
「へぇ…」
「それに、ディエゴガルシアの方があいつらにとっても広々出来て良いだろうしな」
目の前の軍人からの簡潔な説明。
軍の上層部とオプティマスとで話し合っての結果らしい、と聞いて翡翠は小さく頷く。
…よかった。
ちゃんと、彼らのことも考えてくれているんだ…
思わず、心の中で安堵する。
隠れながら生活する必要がある…と以前言っていたオプティマスの言葉をすごく悲しいと感じていたのは事実だったから、素直に安心した。
目の前のこの人も、きっと“彼ら”と近しい人物なのだろうことが言葉の端々から感じられて、嬉しく思った。
翡翠のそんな感情を表情から感じ取ったのか、目の前の軍人が笑う。
「レノックスから聞いてはいたが…アンタ、本当にオートボットたちとうまいことやってんだな」
「うまいこと、というか…ただ、彼らは優しいので、私をいつも気遣ってくれていて」
微笑みながらそう言ってのける目の前の日本人に、その軍人は思わず苦笑いを見せていた。
レノックスからは「オートボットたちの彼女に対する接し方は見ているこっちが恥ずかしくなる」とすら聞いていたのだが…
自覚がないのもいいところだ。
「あの、何か?」
「…いや、何でもねぇ」
微妙な表情をしていたことに気付いたらしい彼女にキョトンと首を傾げられたが…曖昧に視線を逸らすことしか出来ない。
不思議そうにしていた翡翠だったが、その軍人が近くに座っている他の軍人と何かを話しているのがわかり、しばらく黙る。
「あと30分くらいで到着予定だ」
「わかりました」
小さく頷いて顔を上げた時。
目の前の人がスッと手を差し出しているのがわかって、翡翠は不思議そうにその人の顔を見つめたが…
「エップスだ」
「あっ…」
そういえば、まだお互い名前を言っていなかった。慌てて差し出された手を握る。
「翡翠です、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな」
優しい軍人さんがいることはレノックスで証明済み。目の前の、エップスと名乗ったこの人もきっと優しい人なのだろう。
やり取りはそんなに多くなかったけれど、そのことはしっかりと伝わって…翡翠は穏やかに微笑んでいた。
「あの、お願いがあるんですが…」
「何だ?」
「あと少しで到着、とのことだったので、彼の所に行ってもいいですか?」
それが誰のことを言っているのか、エップスにはすぐにわかったようで視線は自然と後方に鎮座している巨大な車体へと向けられる。
すると、まるで返事をするかのように何度かヘッドライトが瞬くのが見えて、エップスは苦笑いを何とか飲み込んだ。
大方、これまでの会話も全て聞いていたのだろう。
「いいけど、気を付けろよ。揺れるぞ?」
民間人が輸送機の中を動いてはいけないと言われるかと思い、ドキドキしながらの申し出だったものの、あっさりと了解が得られ、翡翠は内心困惑した。
きっとこれも、レノックスとオプティマスのおかげなのだろう。
パッと顔を上げるといつもと同じようにゆっくりと扉が開くのが見えて…『おいで』と言われた気がした。
