第2章:遥か、宇宙の彼方より
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離れている時、気が付くとメモリーの中から彼女を探している。
この感情の名称を…私はもう、知っているんだ。
『自覚』
〜夕暮れの恋歌<41>〜
翡翠の自宅前に静かに鎮座するトレーラートラック。
ふと、家屋の方へ意識を向ければ、その小さな熱源は今も忙しなく動き回っているようだった。
時計の針は間も無く日を跨ごうとしている…そろそろ休むよう連絡を入れた方がいいだろうか、と思いつつ小さく排気する。
オプティマス自身、業務的な伝え方だったとは思うが、再び基地へ赴いてほしいこと、明朝離陸する輸送機に搭乗するためあまり時間がないこと、ただ今は許す限り体を休めてほしいこと、それらを伝えられた翡翠は「わかりました」とだけ言うと、オプティマスの中からスルリと抜け出し、家の中へと入っていった。
『……………』
言ってしまえば、オプティマス自身が声をかけた結果なのに、翡翠が離れていることがこんなにも耐え難いとは…と自分自身驚くばかりだった。
感情のコントロールが上手く出来なくなっていると感じる。先程もそうだった。
翡翠の腕を掴んで引き止めようとする男の姿を目にした途端、思わずトランスフォームしそうになる衝動を必死に抑えた。
直後、翡翠がこちらに駆け寄ってくる様子が見えて、そんな激情はみるみる影を潜めていったが…どうやらそれから、感情のコントロールが効かなくなっている気がするのだ。
だから、翡翠にも怒っているのか、などと聞かれてしまったのだろう。
『………?』
考えを巡らせていたオプティマスだったが、ふと小さな熱源がこれまでとは違った動きを見せていることに気が付いた。
不思議に思う間も無く、玄関の扉が開き、鞄や毛布を持った翡翠が姿を現す。
『どうした?』
見れば先程の華やかな服装から、動きやすさを重視したようなカジュアルな服装に着替えた彼女がビークルモードのオプティマスを見上げてくる。
「あの、オプティマスさんの中で寝させてもらってもいいですか?」
『それは構わないが…私の中ではゆっくり休めないのではないか?』
「いえ、一番熟睡できる場所かもしれません」
『…それに、この時間は冷えるだろう?』
そう言うと「オプティマスさんが、車内を暖めてくれるから大丈夫ですよ」と翡翠はくすくすと笑って、オプティマスも『それは、そうだが…』と応えながら、どうやら引く気はない様子の彼女に静かに助手席の扉を開く。
慣れたように乗り込んでくる翡翠。
その小さな体がシートに収まった時、驚く程ホッとしている自身に気が付いて、説明の付かない事象を誤魔化すように車内の温度を少し上げてやる。
「ありがとうございます」
『うむ』
持っていた鞄は足元にしまい込み、手にしていた毛布を広げながら翡翠が笑いかけてくる。
「寝坊してしまいそうだなぁって思ったんです」
『ん…?』
「明朝の離陸に間に合うように移動するなら、ほんの数時間しか眠る時間はなさそうなので…熟睡してしまったら、起きられるか心配で」
少し照れ臭そうに笑う翡翠にオプティマスは目を細める。
『なるほどな…もう準備は済んでいるのか?』
「はい」
『ならば、私が時間を見て出発しよう。翡翠は気にせず、休むといい』
安心したように頷いた翡翠から再度礼を述べられる。
パーティーへの参加は挑戦であったらしく、楽しい瞬間もあったもののやはり慣れない環境にひどく疲れてしまった…と帰りの道中、困ったように笑っていたのを思い出す。
言葉通り、とても疲れていたのだろう。
数回の会話は交わしたものの、翡翠からはすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
翡翠が側にいる。それだけで、こんなにも穏やかで、それはまるでスパークそのものを暖かい何かで包まれているような錯覚すら起こしてしまう。
『……………』
翡翠と出会ってからというもの、スパークが忙しく変化している。暖かくなったり、締め付けられたり、弾むように軽くなったり、軋むようだったり…彼女の笑顔を見て、改めて思う。
…私は、翡翠があの青年と一緒にいるところを見るのが嫌だったのだな…と。
翡翠の携帯電話からの信号を頼りに訪れた場所は、普段の彼女の雰囲気からは想像できないような賑やかな場所だったが、その小さな反応はすぐに捉えることが出来た。
窓際にいたことが幸いしたのだろう。翡翠の姿を見付けることも容易だった。
だがそれと同時に、彼女に張り付くように側にいる一人の男の姿も捕捉してしまい…それからだ、感情のコントロールに支障を来たしだしたのは。
思えば、基地に来ていた翡翠の行動範囲は狭く、側にいた人間といえばサムやレノックスくらいのもので…それぞれ既にパートナーがいるからか、気になったことすらなかった。
だが、先程の青年は違う。
明らかな好意や下心を持って翡翠に接しているのがはっきりとわかり、許せなかったのだ。誰にも触れてほしくない。己の側にいてほしい。そんな願いが当然のように湧き上がってきた。
『…そう、か』
種族も違えば、文化も違う。
オプティマスたちと友好な関係を築いてくれているサムにも、隣には同じく人間のパートナーがいて、2人幸せそうに笑っている。それが、最も自然な形なのだと理解はしている。
だが…翡翠の隣に人間の誰かが寄り添うことを、自身は看過できるのだろうか。いや…考えるまでもない。そんなことは、想像すらしたくないだから。
『…そうだったな』
他の誰かに彼女を譲れるか、と問われれば、無理だ、と即答するだろう。
『私は君を…愛しているのだな』
安心したような表情を浮かべながら眠っている翡翠を見て、ポツリと呟いた。口に出した瞬間、重く伸し掛かるようだった何かが不思議とフッと軽くなったように感じて、オプティマスは小さく笑っていた。
