第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『不可解な感情』
〜夕暮れの恋歌<40>〜
車窓から見える流れ行く街の明かりを、彼女はじっと眺めているようだった。助手席の扉を開けたことを合図とするかのように、こちらへ走ってきた翡翠を見ると、途端にスパークが熱くなったことはもう無視など出来ない感覚となってオプティマスの内側に燻っている。
「オプティマスさんっ!おかえりなさい」
車内に転がり込むようにして乗り込んできた彼女の言葉に対して『ああ、翡翠もおかえり』とだけ返答すると、シートベルトがロックされるのも待てず、滑るように発進する。
何故か、すぐにでもこの場を立ち去りたい気分だった。
話したいことが、たくさんあった。
翡翠の話も、聞かせてほしかった。
それなのに、思い描いていた言葉はほとんど出て来ず…その代わり、とでも言わんばかりにスパークがうるさい程にオプティマスの中で騒ぎ立てている。
不思議と、翡翠も何も言わず、車内にはエンジンの音と走行音のみが響いている。ジッと窓の外に視線を投げている翡翠の横顔が街灯に照らされ、浮かび上がっては消えていく様子を見て、ただただ美しいと思った。
着飾っているらしい翡翠は普段とはまた違った雰囲気を纏っていて、とても魅力的であり、女性的で、目が離せない。彼女にそう伝えたいと思うのに、何故かスパークがひどく軋んでいるような感覚が消えず、結局口には出せないまま。
彼女の携帯電話を鳴らしたことをきっかけに、翡翠がこちらに気付いてくれた時はあんなにも穏やかな気持ちだったのに…
今は全く別の感情が自身の中に生まれていることに、オプティマスは驚きを隠せなかった。
『…足は、大丈夫か?』
「えっ…」
靴は今も足元に転がったまま。
素足のままでいる翡翠の小さな足をそっとスキャンしながらオプティマスが声をかけると、驚いたように彼女の肩が跳ねた。
「あぁ…慣れない靴を履いてたから、疲れてしまって」
『君たちの肌は柔らかく脆弱だ。裸足で走っては、傷が付いてしまうのでは無いかと心配した』
「そう、ですよね。気をつけます…」
『……………』
…違うのだ、と言いそうになって、オプティマスは咄嗟に口を噤んだ。そんなことを言いたかったわけではないのだが、そうで無いとしたら一体何を伝えたかったのか、自分でもよくわからないのだ。
翡翠がわずかに俯いたのがわかって、責めるような言い方をするつもりはなかったし、そんな意図もなかった、と伝えたいのに、言葉が出てこない。
何故、彼女に対してこんな物言いをしてしまったのか…自分で自分が理解できなかった。だが、やはりさっきの言葉は撤回するべきだろう、と思い口を開こうとした時、「違うんです」と小さく口にしたのは、翡翠の方だった。
「さっきの…嘘、です」
『嘘とは…』
「慣れない靴で疲れたからって話。そうじゃなくて、本当は、少しでも早くオプティマスさんの所に行きたくて…走りにくい靴なんて煩わしくて…」
『そう、か…』
ドクン、とスパークが大きく波打ったかのような感覚。
こんな感覚は初めてだった。
「…オプティマスさん、怒ってますか?」
翡翠から恐る恐る、と言った様子で発せられた言葉にまたもスパークが反応するのがわかる。
怒っている…?私が…?
『いや、怒ってなど…』
「オプティマスさんが大切な任務に行っている時に、私はパーティーなんかに行っていたから…」
『そんなことは気にしなくていい。君には君の生活がある』
「でも…」
『気に病むことはない』
「…ごめんなさい」
『謝る必要など…』
そう、翡翠が謝る必要などどこにもない。オプティマス自身、翡翠には自身の生活を大切にしてほしいと思っているし、そういった点では今のこの状況は理想的だと言える。
第一、パーティーへの参加も大方強く誘われ断れなかった、と言ったところだろう。彼女がそういった集まりに自分から積極的に赴くタイプではないことなど、もうわかっているのだから。
『翡翠の方こそ…怒っているのではないのか?』
「え?私がですか?」
ずっと気になっていたことを、意を決するように口にした。
驚いた様子を見せている彼女へ静かに声をかける。
『普段に比べ、随分口数が少ない』
「それは…」
『私が突然迎えになど行ってしまったから、だろうか』
自分で口にしておきながら、翡翠からの返答が怖いと思ったことに、オプティマスは驚いた。一体どうしたのだ、と頭を抱えたくなる程感情のコントロールが上手くできない。
元はと言えば、ジャズからの報告を聞いて居てもたっても居られなくなったのだ。だから、こうしてココにいる。
翡翠が泣いていた、と聞いて側にいたいと思ったから。
「…オプティマスさんには怒ってないです」
『私“には“?』
「だって、来てくれてすごく嬉しかったんですから。だから、そうじゃなくて…」
ふい、と顔を逸らすように翡翠の視線がまた窓の外へと向けられた。
「あの人…すっごく失礼なこと言うんだもの」
そう口にしながら翡翠が腕を押さえている。
ふと、その場所に覚えがあったオプティマスはハッとした。先程彼女の腕を掴み、引き止めようとしていた男の姿が浮かび上がる。
…あぁ、そうか…
それは、散らばった点と点がようやく繋がったような感覚だった。
先程から、不快なほどに渦巻いていたスパークのざわめきの理由がやっとわかった気がした。
