第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『迎えに行くよ、今度こそ』
〜夕暮れの恋歌<38>〜
一瞬静まり返った格納庫の中、ラチェットは『何はともあれ…』と切り返した。
その視線の先にはオプティマスがいる。
『オプティマス…やはり、彼女には不可解な点が多すぎる』
『…それはわかっている』
『健康に異常がある訳ではないのに、頻繁に眩暈を催す…というのも気になるところだ』
それはラチェットの軍医としての意見でもあった。
しかも、聞くところによると彼女が眩暈を自覚する回数はここ最近で確実に増えているように思える。
『もう一度翡翠にも協力を要請し、調べた方がいいだろう』
『そうだな…』
その言葉とは裏腹に、オプティマスの言葉はどこか歯切れが悪い。
『オプティマス、また貴方の立会いの元でも私は構わない』
『うむ』
『この前の検診では把握しきれていない何かがあるのかもしれない…今の状況を放ってはおけない』
そう言いながら、ラチェットは静かに腕を組んだ。沈黙が格納庫を包んでいる。
おそらく、ここにいるオートボットたち全てが同じことを考えていることだろう。
彼女の言葉…その意味…
もしかしたら…と思うところはあるのだが、誰も確信が持てないし、容易に口に出せる内容でもない。
『…今後彼女には数日から数週間、基地に滞在してもらいたいのだが』
『……………』
それには、貴方と軍の協力が必要だ…と静かにそう申し出るラチェット。
オプティマスは黙ってその言葉を聞いていた。
『ちょっと待てよ』と、代わりにラチェットの言葉を遮ったのはジャズだった。
その横には同じことを考えているであろうバンブルビーも控えている。
『なぁ、それは難しいんじゃねぇか?翡翠には“学校”とやらがある』
サムの側にいるバンブルビーも同じ意見のようでしきりに頷いている。
ラチェットとて、2人の言い分がわからない訳ではない。
しかし…ここは一応医者である身として、黙ってはいられないところなのも事実。
どう見ても、普通の人間には起こり得ないことが翡翠の身に起こっている。
『わかった…その点は、私が何とかしよう』
ラチェットの言葉の意味を汲み取り、静かにオプティマスが頷く。
『何とかって…』と呟くジャズを静かに制し、自身のこめかみへとそっと指を当てたオプティマス。
周りのオートボットがその動向を見詰める中…十数秒の後、オプティマスは再び苦々しく呟いた。
『…やはり、繋がらないな』
『何だ?』
『基地に戻ってきてから、何度か翡翠の携帯端末への通信を試みているのだが…繋がらないのだ』
『はぁ?』
このタイミングで翡翠との連絡が取れない。“学校”というものは特殊な環境らしく、自由に電話できる時間とそうでない時間があるらしい。
そのせいで応答がないのだとは思うが、こんな状況ではどうしても嫌な予感が皆の頭をよぎってしまう。
そんな中、オプティマスがもう一度通信を試みようとした時だった。
格納庫に入ってきたレノックスの姿が目に入る。
「…っと」
レノックスから見たら巨大な5体のロボットに同時に視線を向けられ、思わず足を止めたが…困惑するよりも早く、ラチェットが『ちょうど良い』と切り出し、状況を伝えた。
翡翠を連れてくるにしても、人間側の協力と理解が不可欠なのだ。適任といえばやはりレノックスしかいないだろう。
ラチェットの申し出に、レノックスは静かに腕を組んだ。
『ジャズからの報告によると、翡翠の健康面に心配な点がある』
「…それは、トランスフォーマー絡みで、ってことか?」
『まだそこまでは、わかりかねる』
「彼女は、普通の人間だぞ」
『…そう確信を得るためにも、彼女の協力が必要だ』
「……………」
ラチェットの物言いから、どうやらそれなりに急を要する事態なのだろうことが窺えた。
お互いに、それだけの信頼関係は築けているつもりだ。
待ってろ、と言ったレノックスがどこかへ連絡を取り始め、しばらくの後、もう一度ラチェットへの向き直る。
「ちょうど物資を運ぶ輸送機が離陸予定だ。翡翠がいる街からさほど離れてない基地に降りる。それに翡翠を乗せるよう許可を取ることなら、出来そうだ」
『そうしてくれると助かる』
「わかった」と小さく頷いたレノックスは、すぐに次のことを考える。問題は誰が迎えに行くか、だが…
その時、一歩前に進み出る足が見えたのと同時に頭上から声が降ってきた。
『私が行こう』
「何もオプティマスが行く必要はないだろう」
『いや、私が行きたいのだ』
「しかしな…」
『……………』
司令官の不在が良いことではないというのは重々承知の上で言っているのだろう、とレノックスは思った。
わかった上で無言を貫いているところを見ても、意見を変える気はないのだろうことも伝わってくる。
「まぁ、確かに急な話だから翡翠の顔見知りが行くのがベストではあるが」
『私が行く』
レノックスは、これは折れるしかないな、と小さく息を吐いた。
思えば、初めて翡翠を基地に連れてくるとなった時から、オプティマスは自分が…と名乗りを挙げていた。
あの時はちょうど基地に戻る予定だったレノックス、アイアンハイドと共に…そして、次見送りに抜擢されたのはジャズで…
ただでさえ、翡翠絡みのことだ。これ以上はストライキでもされたら堪らないな、などと考えながら、レノックスは笑った。
「離陸は1時間後だ。翡翠を連れて明朝の出発に間に合うよう戻ってくれ」
『わかった。感謝する』
すぐさま礼を述べるオプティマスにレノックスは小さく手を上げて応えた。
自身が迎えに行くことも考えたが、今回は残ろう。
オートボット側の司令官不在に合わせて、人間側の指揮官まで不在にするわけにはいかないから。
(加筆・修正)
