第2章:遥か、宇宙の彼方より
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『ジャズからの報告』
~夕暮れの恋歌<37>~
話は少し前に遡る。
ジャズから突然『話がある』と言われたのは、今回の任務についての報告を全て終え、格納庫へ戻った直後だった。
任務を終え、基地に戻ってすぐに一度連絡を入れようとしたが繋がらなかった翡翠のことも気にかかってはいたが…
今はそれよりも何やら神妙な面持ちをしているジャズが気掛かりだった。
『ジャズ、どうしたのだ?』
『いや…翡翠のこと、なんだけどよ』
『ん?彼女がどうかしたのかね?』
ジャズの一言に救護車からロボットモードへと姿を変えたラチェットも歩み寄ってくる。
ラチェットが彼女に並々ならぬ興味を持っていることはもう周知の事実なので、大して驚きはしないが…
『一緒にいても?』
『オプティマスがいいなら俺は構わないが』
そう言いながらオプティマスを見上げると、彼はゆっくりと頷いた。
『あぁ、私は構わない』
話の先を促すように片手をジャズへと向けて軽く上げたオプティマス。
口を開こうとした矢先、“翡翠”という単語を聞き付けたバンブルビーまで寄ってくる。
さらには、ラチェットにリペアを頼もうとしたアイアンハイドまで現れる始末。
『“なぁに?”』
『ビー、あのな、俺は今真剣に』
『“いいよなぁ”“彼女と2人っきり”』
『お前は…またその話かよ』
翡翠の側にいることが許されていたジャズのことをバンブルビーが羨ましがるのは今に始まったことではない。
呼び戻されたジャズがオートボットたちと合流した時から始まっている。
それこそ、待機中だろうと、任務の合間だろうと、バンブルビーは翡翠の話を聞きたがった。
思わずジャズは肩を竦めるようにしながら両手を上げる。
『お前にはサムがいるだろって何回も言ってんじゃねぇか』
『“異議あり!”“おれだって”“2人とも好きだよ”』
どこのプレイボーイの台詞だ…と突っ込みたくなるが何とか飲み込んだ。
バンブルビーに悪気も他意もないことくらい、ジャズにもわかっている。
それ以前に、ここにいるオートボットたちは皆一様に翡翠を好意的に捉えていた。
ラチェットも研究対象以上の興味を彼女に対して抱いているし、当初は人との慣れ合いを嫌っていたアイアンハイドですら翡翠には間違いなく甘い。
オプティマスに至っては雰囲気や翡翠と話している時の眼差しを見るだけで明らかだ。
そして…これまで彼女のことを特別視していた訳ではなかったジャズですら、一緒に過ごした今回の期間で明らかに特別な感情を持つようになっている。
ジャズ自身、不思議で仕方がなかったが…
翡翠の側にいるのはそれほどまでに心地よかった。
『バンブルビー、少し待て。今、ジャズからの報告を聞くところなのだ』
バンブルビーをやんわりと制してオプティマスがジャズへと視線を向ける。
さすが司令官というべきか。
それぞれが黙り、ジャズの話に耳を傾けようとしていた。
そんなオートボットの面々にまた小さく肩を竦めたジャズだったが、ゆっくりと額辺りに指を当てる。
『見てもらった方が早ぇな』
そう言ったジャズのメモリーから投影されたのは、他ならぬ翡翠の姿だった。
ただ、その表情は普段のような豊かなモノではなく、ぼんやりと何処か1点を見詰めているように見えたが…
『えらく活気のない表情だな…彼女らしくない』
ラチェットの一言は的確だった。
頷いているバンブルビーを視界の端に収めながら、ジャズはあの時の翡翠を投影し続ける。問題はこの先だ。
…その時、全員が息を飲んだのがジャズにもはっきりとわかった。
“…貴方達が、この星にきてくれて…よかった”
“心配だったの。メッセージを残した先は、広大な宇宙の彼方だったから…”
“…もう、届かない、かと…”
その声は聞き間違えるはずもない、翡翠本人のものだった。
しかし…
『…俺が見たのも、これと同じだ』
アイアンハイドの一言を聞いたジャズは『やはり…』と心の中で頷いていた。
今、目の前で投影されている翡翠の瞳は鮮やかな深い蒼。
あまりにも美しい蒼に瞬きをすることさえ忘れてしまうようだった。
『ジャズ、これは一体…』
『俺にもよくわからねぇよ。ただ、突然泣き出して、ようやく泣きやんだと思ったらこれだ』
『彼女は、泣いていたのか?』
背の高いオプティマスからじっと見詰められるが居心地の悪さは感じない。
だが、ジャズは一度合った視線を静かに逸らすと投影していた翡翠の姿を消した。
確信は持てないが、翡翠が泣き出す直前に話していたのは…オプティマスのことだ。
そのことを今ここで言うつもりはないが…
無言で肯定を示すジャズの横に歩み出て、ラチェットが腕を組む。
『それにしても…彼女の言葉は不可解だな』
『あぁ、まるで翡翠以外の誰かが話しているようだった』
『アイアンハイド、君にしては鋭いじゃないか』
『…何が言いたいんだ』
心底感心したように言うラチェットから、アイアンハイドは顔を背けた。
もうそれ以上何も言ってくれるな…そんな心の声が聞こえてくるようで、ラチェットは静かに排気した。
(加筆・修正)
