第2章:遥か、宇宙の彼方より
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『普通の生活』
~夕暮れの恋歌<36>~
「…あれっ!」
少し早めの夕食を食べ終わり、ソファに座ったところでふと思い出して携帯を鞄から取り出した翡翠は驚いた。
本来なら、ただ充電しておこうと思っただけだったのだが…着信が残っている。
「オプティマスさんだ」
その着信には見たこともない文字が並んでいる。
それなのに、確信にも近い思いだった。
「電話…かけてくれてたんだ…」
そう呟いた途端、嬉しい思いと気が付かなかった後悔に苛まれる。
声、聞きたかったな…
思わず履歴から発信ボタンを押してしまいそうになるが、どうしても躊躇われた。
任務とはいえ、何処の国に行っているのかわからない。つまり、翡翠には時差とかそういうものもわからない。
アメリカでは夕暮れ時の今も、もしかしたら彼がいるところは真夜中かもしれない…朝方かもしれない…
それ以前に任務の真っ最中だったら、確実に迷惑をかけてしまうだろう。
「…はぁ…」
そう思って、小さくため息をつきながら携帯を充電器に差し込んだ。
残念な気持ちは拭いきれないが…またの機会を待とう。
しばらくぼんやりとソファに座っていたが、テレビもつけていない1人の空間で耳に入ってくる音といえば時計の秒針くらいのもの。
ふと、少し離れたデスクの上に置かれているノートパソコンが目に入った。
「…そういえば、メールするって言われていたっけ」
学校での友達とのやり取りを唐突に思い出した翡翠はソファから体を起こし、デスクの前へと座った。
友人にパーティーに誘われていたのだ。
正直、あまり乗り気ではないと伝えてはいたが、一応日時と詳細だけでも送る…と言われていたはず。
それも、数日前のやり取りだったと記憶しているため、少なくとも数日間届いたメールを放置していることになる。
それは、さすがに失礼な気がして、断りの返信だけでもしておこうと、ゆっくりとノートパソコンを開き、起動させるべく電源ボタンに手をかけた。
「……………」
学校にいても、こうして離れたところにいても…やはり考えてしまうのは“彼ら”のこと。
翡翠は瞳を閉じながら、ゆっくりと息を吐いた。
本来ならば、ココこそが自分のいるべき場所のはず。
かつて両親と一緒に住んでいたこの家と、学校が翡翠の居場所だったはず。
それを忘れてはいけない…ちゃんと、自分のあるべき場所に戻らなければならない。
つい先日まで置かれていた環境があまりにも非現実的だったから、脳裏に強く焼き付いてしまっているだけ…
きっとそう…
そう心の中で呟きながら、まるで自分に言い聞かせているようだ、と翡翠は思った。
普段通りの手順を踏んで、徐々にパソコンが起動されていく様子をぼんやりと眺めていたその時だった。
玄関の呼び鈴が来客を知らせる。
玄関を開けるまでもなく、扉の向こうから友人たちの声がするから、来客の正体はすぐにわかった。
だけど、こんな時間に…?と、不思議に思いながら扉を開けると、華やかに着飾った友人たちの姿が目に飛び込んできて、一瞬、瞬きをすることも忘れてしまった。
「…え…どうしたの、みんな?」
「翡翠!迎えにきたから、パーティー行きましょ!!」
「…えぇっ!?」
届いたメールを放置していた自分が完全に悪いのだが…
まさに今、断りの返事をしようとしていました、とは言い出しにくい雰囲気に翡翠は困ったように頬をかいた。
「私、パーティーとか賑やかなのはちょっと…」
「わかってる、苦手だって言うんでしょう?」
翡翠の返答などお見通し、とばかりにニヤリと笑った友人が続ける。
「たぶん断られると思って、直接誘いに来ちゃった!」
「いや、でも私、ドレスなんて持ってないよ」
「そう思って、私の持ってきたから貸してあげる!」
「髪とかお化粧だって、パーティーに合うようになんてやったことないし」
「それも、私に任せて!」
嬉々として、翡翠の言葉に食い気味に返してくる友人たちを見て、これはもう逃げられないな…と苦笑い。
乗り気でないのは確かだし、パーティーが苦手なのも事実ではあるが、メールを放置していたにも関わらず、こんなにも気に掛けてくれる友人たちの存在がありがたくも感じられる。
「…そうだね。じゃあ、少しだけ顔出そうかな」
その返事に友人たちから歓声が上がったのは言うまでもなく…時間が惜しい、とばかりにすぐに翡翠の大変身に取り掛かっていく彼女たちにされるがままになるしかなかった。
勉学に勤しみ、友人と思い出を作っていく…そんな普通の生活がココにはある。
軍での知識がある訳でもなく、もちろん技術的なものも何もない自身が身を置くべきなのは、“彼ら”の側ではなくココなのだろう。
何度も何度もそう考える。
それはまるで、翡翠自身にそう言い聞かせているようにすら、感じられた。
(加筆・修正)
