第2章:遥か、宇宙の彼方より
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『気付いた気持ち』
~夕暮れの恋歌<35>~
大きな音で鳴り響く目覚ましにゆっくりと意識が浮上してくる。
布団から腕だけ出して、その音を止めた。
そのままもう一度眠りの中に落ちていこうとする意識を何とか浮上させ…
ゆっくりと起き上がる。
「ん~…」
しっかりと起きなくては…
今はもう、寝坊してしまいそうな時間になったらガレージの中からクラクションを鳴らしてくれる“彼”はいない。
「…いい天気」
カーテンを開けて差し込んできた朝日に大きく伸びをした。
願わくば…どうか“彼ら”がいる場所にまで、この日差しが届いていますように。
しばらく翡翠の家に滞在していたジャズが去ってから、すでに2週間がたった。
特に変わったこともなく、学校生活に戻っている。
学校に行けば友人たちとの楽しいおしゃべりが待っているし。
卒業が近付くにつれて増えていく課題やレポートに追われ、1つ1つ必死にこなしていく。
そんな当たり前の日常が、今となっては何だかすごく大切なものに思えた。
「……………」
帰り道、バス停までの道をのんびりと歩きながら翡翠はふと顔を上げた。
目の前には、多くの車が忙しく行き来しているごく普通の道路。
見慣れた通学路だが、今となっては翡翠にとってこの場所は全く違うものとして映る。
あの日、ここで目の前を滑るように走る彼を初めて見た。
しゃべるトレーラー・トラック…オプティマス・プライムとの出会いから翡翠の日常は激変した。
最初こそ戸惑いもしたが、今となっては彼らに会えないことが寂しく感じられる。
金属生命体、と名乗った彼らは地球以外の惑星に住んでいたというのに、時に人間よりも人間味を帯びているようにも思えた。
本当に暖かく、優しい人たちだ。
ふと思い出したかのように携帯を取り出してみたが、そこには見慣れた待ち受け画面があるだけ。
翡翠は思わず小さく笑ってしまう。
この携帯電話は不思議なことを何度も起こしてくれた。
見たこともない文字が浮かび上がった着信や、突然勝手に起動したナビゲーションシステム。
そしてその先には、いつも彼がいた。
「ふふっ…」
信号が変わって、周りの人に溶け込みながら翡翠も歩き始める。
最近、はっきりとわかるようになってきた。
彼…オプティマスに惹かれている。
それはもう、自分に嘘をつくことが出来ない程に確かな想いだった。
思えば、彼の優しさに触れたその瞬間から、惹かれていたのかもしれない。
その気持ちに、気付かないふりをしていただけなのかもしれない。
ぼんやりと見ていた携帯を一度だけきゅっと握り締めて、鞄に仕舞い込む。
この想いを告げるつもりはない。
種族の違いもあるけれど…
それよりも、何より彼の重荷になりたくない…困らせたくない…という気持ちが先走る。
「……………」
オプティマスたちにとっては、翡翠の一生など本当に一瞬の出来後なのだろう…と思う。
もしも、想いが届いたとしても…越えられない問題が山ほどある。
彼を1人にしてしまう時が、いつか必ずやってくる。思わず小さくため息が漏れた。
「どうして…私もそこに行っちゃったかなぁ…」
本当に久し振りに好きな相手が出来たというのに…いや、こんなにも強く誰かのことを想うのは初めてかもしれない。
それなのに、何故、あえて困難な相手に恋をしてしまったのか。
困ったように呟くが、翡翠自身の表情はその言葉に反してどこか晴れやかだった。
吹っ切れた…とは、こういうことを言うのかもしれない。
種族の違いも、その彼の心に他の誰かがいるであろうことも…全て分かってしまったこと。
それでも…と心の中で呟き、きゅっと胸元の服を握り締めた。
「…望みゼロの片思い、って感じかな」
何もかも分かってしまえば、逆にすっきりしたような…そんな気分だった。
足早にバス停へと向かえば、ちょうどバスが来たところで…乗り込んで、いつもの席に腰を下ろして翡翠は窓の外へと目を向けた。
鞄の中に仕舞い込んだ携帯の画面が、また不思議な文字と共に着信を知らせていることには…気が付かないまま。
(加筆・修正)
