第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『拭えない違和感』
~夕暮れの恋歌<2>~
帰り道、翡翠は気分も軽やかに、通い慣れた道を歩いていた。
授業中に難しい問題を答えさせられることもなかったし、何よりあまり自信のないまま挑んだテストの出来栄えもまずまずだろう。
「ふふっ、よかった」
思わず笑顔になってしまうけど、一人で笑っているとなるとかなり怪しい…
そう思って、教科書がぎっしり入っている決して軽いとは言えない鞄を胸に抱きしめて、口元を隠した。
あの事件以来、一応通っていた心療内科ももう再受診の必要はないと言われたし、本当に良い日だ。
特に帰ってからの予定もないのに、何故かウキウキする胸を持て余しつつ翡翠は足を止めた。
信号は赤。
この横断歩道を渡れば、いつも利用しているバスの停留所は目の前だ。
「…っ、あれ?」
その時、翡翠はふいに目の前を滑るように通り過ぎた一台の車に目を奪われた。
見たこともない車だった。
翡翠は特別車に詳しい訳でも、興味がある訳でもないから、車種などは当然わからない。
けれど、目の前を走り抜けて行った輝くように綺麗な黄色いボディのスポーツカーの姿を何となく目で追ってしまう。
そして…
「…っ…」
黄色のスポーツカーのすぐ後ろにもう一台。
その圧倒的な存在感に思わず息を飲んだ。
「……………」
赤と青…全く対照的な色で炎がデザインされている一台のトレーラートラック。
そしてその大きさ…今まで見たトレーラーの中で一番大きいんじゃないかとすら思った。
そんな巨体にも関わらず、タイヤ・エンジンの音は本当に静かで…
ミスマッチだとすら感じさせた。
「…あっ…」
気がつくとそのトレーラーの姿をずっと目で追いかけていた翡翠。
横断歩道の信号が青に変わったことにすら、しばらく気が付かないほどに…ずっと…
歩き始めた周りの人たちに押されて、ようやく翡翠の足が前に進む。
「な、何だろう…?」
小さく呟いて、そっと胸へと手を当てる。
理由などわからないけれど、心臓がうるさいくらいに鳴っていることだけはしっかりとわかった。
…おかしいなぁ…
そう思って、翡翠は一人首を傾げる。
…私、車に特別興味はないはずなのに。
珍しい車を見たから?
それとも、あまりにも大きかったから??
…正直、どちらもしっくり来ない…
さっきまでの軽やかな気分はとうの昔に何処かへ行ってしまった。
少しの間、立ち止まって考える。
「……………」
意を決したようにもう一度だけさっきの車が走っていった方角に目をやる翡翠。
当然、その車体はもう見えない…何処に行ったもわからない。
それでも、自然と足がそちらへと向いていた。
「あっ!」
そしてそれは、意外にも割と近くで見付かった。
決して綺麗に整備されているとは言えない、土が剥き出しになった駐車場の片隅に、それは停まっていた。
「あ、った…」
あまりにもすぐに見付かったことに、何だか拍子抜け。
近くに行くとその大きさが尚際立っているような気がする。
運転席が高すぎて、人が乗っているのかどうかすら見えない。
トレーラーの周りをクルリと一周回ってみたり、少し離れて遠目に見てみたり…
色々している間にも運転手は戻ってくる気配がなかった。
仕事中か何かなのだろうか。
「…これ…」
トレーラーの側面に回った時、思わず翡翠の目が釘付けになる。
さっきよりもはっきりと目に入ってくる赤と青のファイヤーペイント。
無意識のうちにゆっくりと腕を持ち上げて、その塗装にそっと手を触れていた。
「っ…」
一瞬、翡翠の頭に蘇ってくるあの日の光景。心臓が、今までで一番大きく鼓動を刻んだような気がした。
(加筆・修正)
