第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『旅立ち前夜』
~夕暮れの恋歌<33>~
その夜。
ガレージの中でビークルモードのまま待機していたジャズば、オプティマスとの通信も終え、さてどうしようかと考える。
金属生命体であるジャズは人間とは違い意図的に睡眠を取る必要はないが…
翡翠も眠ってしまっているであろうこの時間帯、何もせずにガレージの中にいるのも退屈なものだ。
いっそのこと、朝までスリープモードに切り替えてしまおうか。
そんなことを考えていた時だった。
『………?』
聴覚センサーが小さな音を捉えた。
感覚を研ぎ澄ますとごくわずかだが、熱センサーも近付いてくるその小さな反応を捉えている。
その正体の訪れを待っていると、しばらくして反応の元はひょっこりとガレージに顔を出した。
「…ジャズ?」
『やっぱりお嬢ちゃんか。どうした?』
「気付いてました?」
『可愛い反応が近付いてくるから、そりゃあな』
顔を出した翡翠はジャズからの返答が返ってきたことで安堵しているように見えた。
「今夜は冷えるから…寒くないかな、と思って」
持ってきたの、と続けながら手にしていた毛布を広げて見せる翡翠。
毛布を広げたことで彼女の小さな体がすっぽりと隠れて見えなくなる様子を見て、ジャズは笑った。
そしてビークルモードのまま、静かに扉を開く。
『俺は寒くないから、それはお嬢ちゃんが使えよ』
「え?」
『眠れないんだろ?特別に添い寝してやろうか』
広げた毛布の横から顔を出した翡翠が一瞬キョトンとする。
そして、その意味を理解した途端くすくすと笑った。
“添い寝”というのはちょっと違うのではないか…と笑う彼女の表情を見るのは心地よい。
穏やかな気持ちになると同時に、何故かスパークが波打つような少しだけ落ち着かない気持ちにもなる。
ジャズにとっては不思議な感覚だった。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
『あぁ、いいぜ』
助手席にちょこんと腰かけ、言われた通り持ってきた毛布を肩にかける翡翠を見て静かにドアを閉める。
そして少しだけシートを温めてやった。
人間にこそ、この時間は寒いだろうと思っての配慮だったが…「ありがとう」と彼女が口にしたところを見ると間違ってはいなかったらしい。
『明日も“学校”だろ?寝ないと遅刻するぞ』
「うん」
頷きながら翡翠は口元まで毛布で覆った。
ジャズからは表情が見えなくなった彼女を見て、そういえば伝えなければならないことがあったと思い立つ。
そう思い口を開きかけたが、逆に翡翠のほうから確信をつかれて…正直少し驚いた。
「ジャズ…明日から、気を付けて」
『何だ、知ってたのか。今言おうとしたのに』
「うん、オプティマスさんが電話をくれて」
『そうか』
翡翠の返答を聞いて、本当にオプティマスらしいと思った。
任務とはいえ、呼び戻すことをジャズにも翡翠にも『申し訳ない』と言っていた彼のことだ。
おそらく、自分の口から彼女にその決定を伝えることも自身の責任の1つだと考えたのだろう。
『オプティマスも、俺たちも、すぐに戻ってくるさ』
「それは…うん、わかってる。でも…どうか無事で」
そう言いながら、翡翠がそっとハンドルに触れてくる。
指先から伝わってきた彼女の温もりにジャズは思わず息を呑んだ。
「それと、一緒にいてくれてありがとう。すごくね、心強かったんです…本当に」
『お嬢ちゃんにそう言ってもらえるなんて、光栄だな』
わざと軽口でそう言えば「ふふっ、本当なんですよ?」と笑う翡翠。
その表情にスパークが熱くなるのを感じながら、自軍の司令官が何故この娘にあのような優しげな瞳を向けるのか…その理由が何となくわかったような気がした。
…本当に、穏やかに笑う人間だ。
この表情をいつまでも見ていたいとすら思えてくる。
ジャズが小さく笑ったことに気が付いて、翡翠が首を傾げた。
「なに?」
『いや、色々納得していたところだ』
「何のこと?」
『前に、お嬢ちゃんの目の前で軍人でもない女を巻き込むのか、とオプティマスを咎めたことがあっただろ』
ジャズに言われたこと自体、翡翠にとっても記憶に新しい。
うん、と頷きながら翡翠の脳裏にその時の光景が甦る。
…オプティマスから初めてオートボットのメンバーを紹介された時のことだ。
『ああは言ったけど、やっぱり何処かで安心もしてたんだ…オプティマスが連れてきたのが、お嬢ちゃんみたいな奴でよかったよ』
「…また、そんなこと」
『今回は冗談でも何でもなく、マジだからな』
「……………」
ジャズにそう言われることは素直に嬉しいと感じた。
けど、翡翠の胸の奥に、またうまく言葉に出来ないザワザワした感じが沸き起こってくる。
ゆっくりと体重をかけてシートに座り直し、掛けていた毛布を手元で握り締めた。
(加筆・修正)
