第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『貴方に会いたい』
~夕暮れの恋歌<32>~
『変わりはないか?』
携帯の向こうから、心配そうな彼の声。
「はい、大丈夫ですよ。この前もこうやって話したじゃないですか」
『そうだが…昨日は君の声を聞いていない』
笑いながら話す翡翠だが、オプティマスの声は晴れない。
翡翠が学校のあるこの街に戻って1週間がたとうとしている。
普通に生活している分には、日常に大きな変化なんてそうそうあるものではない。
それより、むしろ…
「そっちは、大丈夫なんですか?」
目まぐるしく状況が変わっているのはオプティマスのほうだろう…と翡翠は思う。
彼は今、任務に出ている。
軍人でない翡翠にはその詳しい内容はもちろん聞かされていないし、何処にいるのかも知らない。
ただ、アメリカ以外の地に行っていることだけは間違いないらしい。
『差し当たっての問題はない。だが…』
そこで一旦言葉を切るオプティマスに、何を言いたいのか察した翡翠は小さく頷いた。
「帰って来られる日まで待ってますから」
一度、任務に出たら帰ってくるまでに時間がかかるらしいことも理解している。
レノックスも任務に出てしまえば月単位で帰って来られないことも珍しくないとサラからも聞いたことがあるから。
『すまない』
「もう…オプティマスさん、本当に謝ってばっかり」
そう言いながら小さく笑った翡翠。
その声音にメモリーの中に残っている彼女の笑顔を重ねて、オプティマスは愛おしげに目を細めていた。
『前にも一度、君に同じことを言われてしまったな』と一言返して、受話器の向こうにいる翡翠を想う。
小さく息を吐いて、オプティマスは口を開いた。
『それと、君にもう1つ伝えなければならないことがある』
「なんですか?」
『ジャズから報告は受けている。君はそちらの生活に問題なく戻ることが出来ているようだ』
「はい、元の生活に戻っただけですし…ジャズもいてくれますから」
携帯の向こう側で心配そうにしているオプティマスを安心させようと翡翠は明るく答えた。
カーテンの隙間から見えるガレージの中では今もジャズが待機してくれている。
実際、すごく心強かった。
毎日迎えに来てくれていることや、話し相手になってくれていることをオプティマスに伝えると、彼は一言『あぁ』と少し笑いながら答えた。
おそらく、ジャズからも報告と称して聞かされたことがあるのだろう。
『翡翠、そのことなのだが…』
「ん?」
『ジャズには、明日にでも一度戻ってもらおうと思っているのだ』
こちらに合流してもらいたいと思っている、と続けるオプティマスの声は何処か申し訳なさそうだった。
その言葉に翡翠の視線が所在なさげに宙を彷徨う。
「それって…オプティマスさん、大丈夫なんですか?」
『大丈夫、とは?』
「だって、人員が足りていないってことでしょう?危ない状況なんですか…?」
もしも、貴方に何かあったら…
その言葉を翡翠はとっさに飲み込んだ。
ここで自分が取り乱したところでどうにかなることではない…オプティマスの心配事を増やしたくなかった。
そんな翡翠に言葉をかけるオプティマスの声はどこまでも優しい。
『そういう訳ではないのだ。すまない、言い方が悪かったな』
「いえ、私も軍のこととかよくわからなくて」
『そうだな。度重なる任務でこちら側にも疲弊している者が出始めているのは確かだ。ジャズが加わってくれれば、大いに助かる』
「…そ、っか」
オプティマスたちとはNESTと任務に出ていると聞いた…つまり、レノックスも同行しているはず。
思わずレノックスの安否も気になったが、そのことを敏感に感じ取ったオプティマスによって先に無事を伝えられ、安堵する。
ジャズのことに関しても、今本当の意味で彼を必要としているのは誰なのか。
そんなこと、軍事に詳しくない翡翠にもすぐにわかる。
「私は大丈夫ですから」
『すまない、翡翠』
「どうしてオプティマスさんが謝るんですか?平気です、何かあったらすぐに連絡しますから」
『うむ』
いつも優しく、司令官としての威厳に満ち溢れているオプティマスの大きさはもう何度も感じた。
でも、こうして話していると意外と心配性なんだな、とも思う。
本来ならば司令塔であるオプティマスがオートボットに関する全ての決定権を有しているはずなのに…
あえて翡翠にこうして声をかけてきたところを見ただけでも、彼が気遣ってくれていることは明らか。
今まで知らなかった彼の一面が見えた気がして…少し嬉しかった。
『…君には、寂しい思いをさせている』
「……………」
その一言に、思わず無言になり携帯を握っていた翡翠の手に力が入る。
何か言わなきゃ、とは思いつつ「大丈夫」と口に出来ない自分に少しだけ嫌気もさしたが…次、いつ会える機会が訪れるのかもわからない今の状況では…
ごめんなさい、オプティマスさん…
…言えない…
こうして空いた時間を見付けては声を聞かせてくれて…危険な場所にいるのは彼の方なのに、翡翠の心配ばかりしているオプティマス。
それだけで十分だったはずなのに…
私、どんどん欲張りになっていく。
…オプティマスさんに、会いたい…
その言葉を必死に飲みこんだ時、再びオプティマスの声が聞こえてきた。
『任務が終われば、またすぐにでも君のところへ行こう』
「あ、でも無理はしないでくださいね!ゆっくり休む事も大切だし、私はっ…」
私は大丈夫だから。
そう言い終わる前にオプティマスによって言葉を遮られた。
『いや、私が会いたいのだ』
「っ…」
『君の顔が見たい』
思わず言葉を詰まらせる翡翠。
自分の気持ちに何となく気が付き始めてからは、こんなにも会いたいと思ってしまう。
そう感じているのが自分だけではなかったことがわかって、ただ、それだけのことがこんなにも嬉しいだなんて…
「私も、貴方に会いたい…オプティマスさん」
(加筆・修正)
