第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『蒼と紅』
~夕暮れの恋歌<27>~
「えぇっ!じゃあ、翡翠はあの時、あの場所にいたのっ!!?」
「う、うん」
コーヒーカップを両手で持って口元に運びながら、翡翠が頷く。
思わず声が大きくなったミカエラの隣でサムまで唖然としている。
オプティマスもバンブルビーもそれぞれ席を外していて、今はこうしてサムたちと過ごしているのだが…話題は当然あの時の話。
よく無事だったわね…と言われたが、曖昧に笑うことしか出来なかった。
色々あったが、結果的に“助かった”のは確かだから。
「でも、よく覚えていないんです。すぐに気を失ってしまったみたいで」
「だったら尚更だよ。僕らでさえ危機一髪だったのに」
「運が良かったんだと思う。オプティマスさんが見付けてくれたから」
もしも、あの時オプティマスに出会わなければ正直どうなっていたかなどわからない。
はっきりとは覚えていないが、オプティマスの大きな両手に守られたのだろうことは確かだ。
おそらく、足元にいた自分に気が付いて、とっさに庇ってくれたのだろう。
翡翠がそう話すとサムが頷いた。
「彼らしいね」
「何だか、きちんと覚えていないのが申し訳ないくらいで」
「それは仕方ないよ。あの状況でオプティマスの手を覚えていただけでも大したものじゃない?」
「う~ん…あ、それからもうひとつ」
ふと思い出したように、翡翠がそう付け加える。ぼんやりと覚えているのは蒼の瞳ともうひとつ…紅の瞳。
蒼の瞳はもうわかる、オプティマスだ。
では、あの紅の瞳は一体…
「サム?」
その時、翡翠は目の前のサムの表情がわずかに曇ったのを見逃さなかった。
「それ、たぶんメガトロンだよ」
「え、メガ…?なに??」
「メガトロン。ディセプティコンのリーダーだったんだ、あの時の騒ぎの親玉だよ」
その答えは、翡翠を妙に納得させた。
うっすらとした記憶に残っている紅の瞳は蒼のそれとは対照的なほどに冷たく、恐ろしいものだったから。
「でも大丈夫だよ。メガトロンはもういない。今は、深い深い海の底だ」
無意識のうちに自分自身の腕をキュッと握り締めていた翡翠を宥めようとしたのだろう。
サムが見せた笑顔に翡翠も頷いた。
「ねぇ、翡翠。オプティマスとはいつ再会したの?仲良さそうよね」
「え、そうかな?」
「そうよ。彼、すごく翡翠のことを気遣ってたもの」
興味津々、といった様子で聞いてくるミカエラに、翡翠はあの時のことを思い出しながら口を開いた。
横断歩道で信号待ちをしている間に偶然目の前を走り去った一台のトレーラートラック。
何故か、そのあとを追い掛けて…
何故か、その車体に寄り添って…
どれくらい時間が経ったときだったか、突然そのトレーラートラックに話し掛けられたこと。
「…驚いた」
「え?」
話し終えるとほぼ同時にサムが呟いた。
「だって、今の話を聞くと翡翠はまるで“それ”が“彼”だって気が付いていたみたいじゃないか」
その一言には翡翠も驚いた表情で瞬きを繰り返すしかなくて。
そして、まさか、といいながら手を振った。
「別にそんなんじゃないんです。ただ…なんていうのかな…すごく、気になっただけで」
「それがすごいんだよ。僕なんて買った車がバンブルビーだったのに、全然気付かなかったんだから」
「そういえばそうね。もしかしたら、翡翠には第六感みたいなものがあるのかも?」
「ま、まさか~」
そう答えながらも、どこか困った表情を見せる翡翠。
今までそんな第六感のようなものや霊感のようなものとは無縁の生活を送って来た。
でも、「だけど…」と心のどこかで思ってしまう自分がいるのも事実。
とっさにオプティマスの姿を追いかけていたあの時の気持ちには、翡翠自身、未だに答えが出せていない。
“何となく”とか“気が付いたら”とか…
そんな曖昧な答えが一番しっくり来るような気さえした。
「よっ」
「っ!!!」
突然ポン、と頭に手を乗せられ、驚いて振り返る。
立っていたのはレノックスだった。
朝にも会って挨拶を交わしているにも関わらず、こうして顔を出してくれるのは翡翠を気にかけてのことだろう。
言葉には出さないけれど、彼の優しさが伝わってくる。
「水臭いぞ、翡翠。サムたちが来てるなら俺にも声をかけろよ」
「ごめんなさい、仕事中かと思って」
「ははっ、まぁ、さっきまではその通りだったんだけどな」
親しげに話すレノックスと翡翠の様子を意外そうな表情で見つめるサムとミカエラ。
二人に共通点を見いだせないのに…きっとそんな風に思っているのだろう。
そんな二人に気が付いたレノックスの「家がお隣りさんなんだ」という言葉にようやく納得したように頷いている。
…そういえば…
言葉を交わす三人をぼんやりと眺めながら、翡翠は思った。
ふと思い出されるのは、レノックスが始めて軍用車で帰って来たのを見たときのこと。
…そういえば、あの時。
アイアンハイドの時も、そうだった…
車に特別詳しいわけでも、興味があるわけでもないのに、何故かレノックスが乗って来た車のことは気になった、あの時の翡翠。
何度も何度も視線を向けて…あまつさえ、帰り際に近付いて、無意識のうちに触れようと手を伸ばし…声をかけてきたレノックスに“この車がしゃべったりはしないか”とまで聞いてしまった。
今思えば、正気の沙汰とは思えない。
「翡翠?」
考えれば考えるほど、胸のあたりがザワザワした。
「翡翠!」
「っえ??」
肩を叩かれて、ハッと顔を上げればミカエラがじっと自分のことを覗き込んでいた。
驚いたようにパチパチと瞬きを繰り返す翡翠。
「ど、どうしたの?」
「それはこっちの台詞よ。急にぼ~っとするんだもの。考え事??」
「う…うん。ちょっと」
…きっと偶然。
今も鼓動がざわついたままの胸にそっと手を当てて、自分にそう言い聞かせた。
(加筆・修正)
