第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『不確かすぎる感覚だから』
~夕暮れの恋歌<25>~
翡翠がオプティマスとの外出から帰った時、すでにバンブルビーの姿は基地になかった。
何やら訓練を終えて、すぐに外出してしまったらしい。
一緒に行きたそうな素振りをしていたし、オプティマスに見せてもらったたくさんの景色を土産話に…と思っていただけに、残念だ。
その日は、疲れているだろうから…とレノックスにも早く休むことを勧められたが…
「…眠れないしなぁ」
翡翠のためにレノックスが用意させたという部屋のベッドからむくり、と体を起こした。
やっぱり、何か本でも持ってくればよかったな…と改めて考えてしまう。
難しい本なんかを読んでいれば、普段ならあっという間に眠くなるのに…
「……………」
ここはあくまで軍事施設。
勝手に出歩くのは、どう考えてもよろしくない。
それは翡翠にもわかるのだが…どうしても少し風に当たりたかった。
1人で室内にいると、あのおかしな感覚のことばかりを考えてしまう。心の奥がザワザワと落ち着かないあの感覚…決して心地よいものではない。
こっそりと部屋を抜け出して…静かに外へ出た。
「…はぁ」
頬を撫でていく夜風が気持ち良い。
こうしていると、今自分が置かれている状況が全部夢だったんじゃないか…とすら思えてくる。
翡翠の日常はこの数日で大きく変わった。
「夜更かしか?」
「っ…!!?」
深呼吸をしながら両手を広げて、体を大きく伸ばしたその時。
突然背後から声をかけられて、恥ずかしいくらいビクッと肩が飛び跳ねた。
振り向くと、そこに立っていたのはレノックスだった。何で…と問いかける前にレノックスが不敵に笑って見せる。
「一応軍事施設だぞ?思いっきり翡翠の姿が監視カメラに引っかかったよ」
「え…」
静かに、静かに外へと出たつもりだったのだが…全く気付かずに監視カメラの前を悠然と通っていたと伝えられ…顔を覆ってしまいたくなるほど恥ずかしい。
「…すみません」と答える翡翠にレノックスはまた笑った。
「まぁ、翡翠は軍人じゃないからな。規律違反には問われないんじゃないか?」
「本当ですか?」
「あぁ、トイレ掃除くらいは言い付けられるかもしれないけどな」
「えっ…!!軍でもそんな学校みたいな罰則がっ…!!?」
「あっはっは、嘘だよ。本気にするな」
肩をポン、と叩かれながらレノックスに大笑いされて思わず頬を膨らませる翡翠。
一瞬でも本気にしてしまったことが悔やまれる。ひとしきり笑った後、レノックスは顔を覗き込むようにしながら話しかけてきた。
「どうした?眠れないのか?」
「はい…ちょっと」
「オプティマスとドライブしたせいで気持ちが高揚して…って訳でもなさそうだな」
「ち、違いますよ!もう…」
また、すぐにそういうことを言うんですから…と、揶揄うような声音のレノックスをチラリと睨むように見ると「悪い悪い」と謝られた。
今度は頭をポンポン、と撫でながら。
子供扱いされているなぁ…とは思うものの、いつも不快には感じない。
「何か心配事か?」
そう優しく聞いてくるレノックスの存在は今となっては2人目の父親のようだと感じることがある。
今、こうしている間にも頭を撫でている手はすごく大きくて、優しい。
「…そういう訳では…」
「そうか?」
「……………」
レノックスの言葉に否定の返答をしておきながら、翡翠は一瞬考えた。
ここのところ、何度か感じているあのおかしな感覚。
いっそのこと…レノックスさんに相談してみようか。
初めてあの感覚をしっかりと自覚したのはあの時…レノックスにアイアンハイドの正体を知らされる直前だったはず。
あの場にいた彼に話せば、何か解決の糸口が見付かるかもしれない。
「翡翠?」
「えっ…?」
気が付くと、またレノックスが腰を屈めて翡翠の顔をじっと覗きこんでいた。
淡いブルーの視線に瞬きすら出来なくなる。
「お前、やっぱりどこか具合でも悪いんじゃないのか?」
「いえっ、大丈夫です。ちょっと眠たくなってきたのかも」
「立ったまま寝るつもりか?」
「私なら出来ちゃうかもしれないですよ?」
「おいおい、今のは否定するところだろうが」
あはは、と小さく笑って…
翡翠はそっと自分の上着の裾を握り締めていた。
…やっぱり、言えない。
余計な心配はさせたくないし、それ以前に自分自身あまりにも不確かなことしか捉えられていない。
翡翠自身にすら何が起こっているのかはっきりわからないのに…今のままでは、相談しようにもきっとうまく説明出来ないだろう。
もう少し…自分に起こっていることがはっきりわかってからでもいいだろう。
この時翡翠はそんなことを考えていた。もしかしたら、ただ疲れが溜まっているだけかもしれない…という思いもあり尚更。
「本当に大丈夫なのか?」
「はい」
「それならいいが…何かあったらすぐに言えよ?翡翠は昔から我慢しすぎる節があるからな」
レノックスの言葉に微笑みながら頷いた。
そういえば、まだ両親と一緒に暮らしていた頃…お腹の痛みを我慢していて病院に担ぎ込まれたことがあった。
盲腸が破れかけていたらしく、我慢しすぎだ、と両親にも医師にも怒られたことがあったな…なんて、ふと思いだす。
おそらくレノックスも翡翠の両親からその話を聞き、思い出しているんだろうと思うと何だか恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
「じゃあ、部屋に戻ります」
「あ、待て翡翠。ココアくらい入れてやるから、飲んでから戻れ」
「え?」
踵を返しかけた翡翠が振り返ると「そのほうがすぐに寝付ける」と続けるレノックス。迷惑にならないか、とも気になったがレノックスの好意は素直に嬉しくて…
「ありがとうございます」
微笑みながら頷いた。
その後、部屋に戻りぐっすり休んだ翡翠。
朝、一番にレノックスにお礼を言おうと基地内の廊下を歩くその表情は、本当に穏やかだった。
(加筆・修正)
