第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『視線の先に…』
〜夕暮れの恋歌<24>〜
「…わぁ、すごい!」
目の前の光景に翡翠は思わず感嘆の声を上げていた。
肩に腰掛けさせてもらい、今目の前に広がっているのは、まさにオプティマスの目線そのもの。普段翡翠が見ている景色とはあまりにかけ離れていた。
『荒野ばかりが広がるだけではない。あの山の麓には街が見える』
「…え、本当に?」
何処までも続く荒野の遥か向こうを指差しながらオプティマスが言う。
その指先を辿るようにして翡翠も目を凝らすけど…
「う~ん…私には見えないみたい。オプティマスさんって、視力もすごく良いんですね」
『そうだろうか?』
「そうですよ。きっと、私には見えないたくさんの物が見えているんでしょうね」
『君がそう言うのなら、そうなのかもしれないな』
きっとそうですよ、と続けながら笑う翡翠にオプティマスが視線を向ける。
自分の肩に乗っているのは小さな1人の人間。
それなのに、存在はこんなにも大きいものか…といつも驚かされていた。
小さく息をついて、もう一度目の前の景色へと視線を向けた時、頬にわずかな暖かさを感じた。
「オプティマスさん」
それが翡翠の小さな手であると気付くまでに少し時間がかかったように思う。
小さな温もりなのだが、まるでスパークに直接触れられているような心地よさだった。
『…まるで、キューブに導かれたかのようだな』
「え…?」
『初めて君を見かけた時、言葉では説明できないような気持ちになった』
ポツリと呟かれたその一言に、翡翠の指先がピクッと震えた。
どこか遠くを見ているようなオプティマスの表情に翡翠の胸がドクンと脈打つ。
遠くに見える景色よりも…もっと、もっと遠くの“何か”を彼は見ている気がしたのだ。
「…キュー、ブ?」
『あぁ、我ら種族の知識と繁栄の源…オールスパークが宿っていた』
「オールスパーク…」
どれも、翡翠には聞き慣れない言葉。
それなのに、何故か心の奥底がザワザワと落ち着かない感覚に陥る。
目の奥も、指先も…どういう訳かしびれるように、痛い。
『翡翠?』
「ん…大丈夫です。なんか、ちょっとだけ目眩がしたみたい…」
その言葉にオプティマスは心配そうに声をかけながら、翡翠の体をそっと地面へと降ろした。
足に力は入るようで…しっかりと立つことは出来た。オプティマスが間近でじっと見詰めてくる。
『…うむ。どこか健康を害している訳ではなさそうだが』
「ええ、一瞬だけだったのでもう大丈夫みたいです」
おそらく、即座にスキャンしたのだろうオプティマスの言葉を聞きながらふるふる、と何度か頭を振ってみる。
今となってはさっきのような感覚は少しも感じない。本当に一瞬の出来事だった。でも、この感覚には覚えがある。
「……………」
初めてアイアンハイドに会った時だ。
…正確にはレノックスが乗ってきた車が何故か気になって気になって仕方がなくて…無意識に歩み寄っていたあの時の感覚と似ている気がした。
『翡翠、本当に大丈夫か?』
「…はい」
『そろそろ戻ろう』
翡翠が頷いたのを確認すると、オプティマスは屈めていた体をゆっくりと起こした。そして、一瞬だったがまた遠くの景色へと目を向ける。太陽の位置が徐々に低くなり、空は少しずつ赤みを増しているようだった。
そんなオプティマスの横顔を見た途端、翡翠の視線がみるみる歪んだ。
「…あれ…」
目の前でトランスフォームを始めている彼に気付かれないように、俯きながら慌てて潤んでしまった瞳を拭った。
…何で?
悲しかった訳でも、辛かった訳でもないのに。
「ねぇ、オプティマスさん」
『どうした?』
「っ…」
トラックから直接オプティマスの声が聞こえてくる。彼の声を聞いた途端、翡翠はハッとした。
…私は今、何を言うつもりだった?
想像で言っていいような、内容じゃない。
「ごめんなさい、やっぱり何でもないです」
『……………』
「帰りましょう。遅くなったらみんな心配するだろうから」
『…あぁ』
それは、優しい彼ならおそらく追及はしてこないだろう、と考えての一言だったのかもしれない。
私はずるいな…と心の中で呟いて、すでに扉が開かれているトラックの助手席へと向かう。
大きな彼の中に乗り込むことにも随分慣れてきた。
翡翠がシートにちょこん、と腰掛けるのを確認して、シートベルトを促すと、オプティマスはゆっくりと走り出した。
『…たまには、こうして行き先もなく出掛けてみるのも良いものだな』
「私も、同じこと考えてました」
『そうか、君とは考えていることも似ているようだな』
「本当にそうですね」
こうしていると、さっきのザワザワとして落ち着かない気持ちが嘘のように、翡翠の心は穏やかだった。
でも…と思う。
ふと窓の外へと視線を向けると、さっきよりももっと赤を色濃くした太陽が見える。壮大な夕暮れ。
「……………」
思い出されるのは、先程のオプティマスの横顔だった。
…ねぇ、オプティマスさん。
貴方は、遠くに“なに”を見ていたの?
(加筆・修正)
