第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『変えられないこと』
~夕暮れの恋歌<20>~
『ラチェット…私は、どうかしているのだろうか』
定期メンテナンスの途中。
横たわったままの司令官の口から突然そんな言葉が出たときは、さすがのラチェットも思わず首を傾げた。
『突然何を…』
『…いや、すまない』
オプティマスは気が付いていた。
そして、それと同時にひどく戸惑っていた。
“ありがとう。助けてくれて”
そう言って笑った彼女の表情が頭から離れない…そればかりか、その時の声を聞きたくて、何度もメモリーを再生している自分がいる。
オプティマス自身、信じがたいことではあったが…何故か懐かしくすら感じることもある。
翡翠の言葉、表情…その全てに胸の奥深くが刺激されていた。
だが…と思う。
『彼女とは、生きている時間が違うのだ…』
呟いた言葉は自分に言い聞かせているかのようだ、とオプティマスは思った。
金属生命体である自分と、有機生命体である彼女の生きる時間はあまりにも違い過ぎる。
どこかぼんやりとしながら、メンテナンスを受ける自軍の司令官をラチェットは小さくため息をつきながら見ていた。
最近、オプティマスの様子がどこか違うことには何となく気が付いていたが…
突然『紹介しておきたい者がいる』と言い出したかと思えば、連れて来たのは1人の人間の女。
それだけでも驚いたというのに、続けるようにして今の一言だ。何やら葛藤しているらしきことはわかるのだが、とラチェットは思う。
『機能回路も、思考回路も問題ない。貴方は正常だ』
そういえば、ジャズにも『らしくない』などと言われていたな、と思いながらラチェットはメンテナンスの手を進めながら、オプティマスに声をかける。
『今、貴方の中にあるのは正常な感情だ。異常はきたしていない』
『…うむ』
『ただ…』
そう言いかけた時、オプティマスのブルーのカメラアイが自分へと向けられたのがわかった。
翡翠という名の人間を紹介した後、ジャズにその真意を問われ…目の前の彼は確かに小さく呟いていた。
しかも、自分たちにだけ聞こえるように…故郷の言葉を使って。
思わずラチェットは小さくため息をついた。
『貴方が自分を責める気持ちはわからなくもない。だが…仕方のなかったことだ』
『……………』
『どうやっても、変えることの出来ない運命もある』
『…分かっている』
…本当に分かっているのなら、あのような言葉は出てこないだろうに…そう思い、再び零れそうになったため息をラチェットは何とか飲み込んだ。
“…私は、二度と同じ過ちを犯したくないのだ”
あの時、オプティマスは確かに故郷の言葉でそう呟いていた。
目の前で静かに視線を逸らす彼を見て思う。
オプティマスが強すぎる程の責任感を持っていることは理解しているつもりだが…
一体、何千年責め続ければ、自分を許せる日が来るのだろうか…と。
『さぁ、終わったよ』
『ああ、いつもすまない』
ラチェットはそう言いながら、持っていた器具を置いた。
目の前の診察台の上で起き上がり、手のひらを2、3度開いたり閉じたりしているオプティマス。
オートボットの司令官らしく一番大きな体を持っている彼だが、気のせいだろうか…先程は一瞬だが、普段からは想像が付かないくらい小さく見えたように感じた。
こんなオプティマスは今まで見たことがない。
この彼をこんな風にしてしまう者とは、どんな人物なのか…
ラチェットの中にも翡翠という人間に対しての興味が沸いてきたのは事実。
もちろん、そんなことこの司令官には言えないが。
『オプティマス』
無言のまま、彼のカメラアイが再びラチェットをとらえる。
『私たちは、貴方のすることを否定しない。これまでも、これからもだ』
『…ああ』
今までもそうだった。
オートボットの面々はいつだってオプティマスに付いていく。それだけの信頼があるから。
『ありがとう』と一言だけ返して、オプティマスはラチェットのラボを後にしようとした。
その時、ラチェットがふと思い出したかのように声をかける。
大切なことを忘れるところだった。
『それからオプティマス、1つ許可をもらいたい』
『何だ?』
『翡翠に対しての研究は貴方の言い付け通り諦めることにした。非常に残念だが…』
一応、そう前置きすることにした。
オプティマスが翡翠に対してただの人間以上の感情を持っていることは明らかだし、おかしな誤解をされてはラチェットもたまらない。
『念のため、翡翠の検診をしておきたいのだ』
『何故だ?彼女は健康に見えるが』
『あぁ、私も簡易的なスキャンは先程行ったが、身体的な異常は見当たらなかった。健康そのものだ』
しかし…とラチェットは続ける。
『アイアンハイドが、少々気になることを言っていたのだ』
今回、翡翠を連れて来たのはレノックスとアイアンハイドだ。
現時点ではオプティマスに次いで、翡翠との接触時間が長い彼の言葉にラチェットも興味を抱かざるを得なかった。
何より、信頼し合う同志だけに彼の言葉には信憑性がある。
それはオプティマスも同じように考えていたらしく、仕方なく許可を出した。
ある一定の、条件付きで。
(加筆・修正)
