第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『知れば知るほど…』
〜夕暮れの恋歌<19>〜
『お譲ちゃん』
「っ…」
『何だ?そんな驚かせたか?』
突然横から話しかけられて、確かに驚いた。
ぼんやりと俯いていた顔を上げると同時に、滑るような動作で翡翠の真横に停車したのはシルバーの車。
キョトンとした翡翠にどこか申し訳なさそうに声をかけた後、車はみるみる姿を変えていく。
先程紹介されたばかりの…ジャズだった。
「すみません、ぼ~っとしてました」
『ま、物思いにふける横顔も魅力的だったけどな』
「…まさか」
『本当だって。それに、女は褒められて綺麗になってくモンだろ?』
「ふふっ」
まるで笑っているかのような声音のジャズに思わず笑みが零れる。
翡翠が笑ったのを見て、ジャズはその場にしゃがむようにして目線を近付けた。
邪魔だったか?と聞かれて、翡翠はふるふると首を振った。
『一人で暇してるんじゃないかと思ってな』
「暇だなんて…皆さんとてもお忙しいから」
『俺じゃ話し相手にもならないか?』
「いいんですか?ジャズさんも忙しいんじゃ…」
『そのつもりじゃなきゃ、話し掛けてないな』
「じゃあ、甘えてもいいのなら…お願いします」
ジャズの申し出には少し驚いたけど、翡翠にとっては正直嬉しくもあった。
オプティマスは何やら軍と打ち合わせが入ったらしく、少しの間不在にすると言ってすまなそうに出て行った。
バンブルビーは定期メンテナンスがある、とラチェットに連れて行かれ、少し前に翡翠の様子を見がてらアイアンハイドを呼びに来たレノックスもいなくなり…翡翠のまわりは一気に静寂に包まれていた。
別に寂しい訳ではない。
ココですることがないのは自分だけだとわかっていたし、ただ、本でも持ってくればよかったかなぁ…などと、色々考えていただけ。
だからこそ、急に話しかけられてびっくりしたのだ。
ジャズと話をするのは楽しかった。
どんな話に翡翠が興味を持つのか、探りながら話をしてくれているような気がする。
優しい人だ…すごく。
どこか人間臭さすら感じる彼の言動は、それだけ普段から積極的に人間とコミュニケーションをとっているのだろうことを窺わせた。
『ところで、さっき暗い顔してた理由は…聞かない方がいいか?』
「え?」
突然そんなことを言われて、心臓が跳ねあがるような感覚に襲われた。
「別に、そんなんじゃ…」
『そうか、思い過ごしならいいんだ。悪いな、変なこと聞いて』
「…いえ…」
見透かされている。
翡翠にはそう感じられた。
でも、何故か不快には感じない。。
ただ何か言わないと…そう思って口を開きかけた翡翠だったが、その刹那聞こえたジャズの言葉に思わず唇を噛み締める。
『俺たちは良かったと思ってるんだ。オプティマスにお譲ちゃんみたいな存在が出来て』
「…え…」
『いつだって自分のことよりも、人のことを考え優先する…そんなヤツだ。そういう器だからこそ、司令官としての信頼も厚い。でもな…』
「……………」
『お嬢ちゃんと一緒にいる時のオプティマスは、普段のヤツとは違って見えた。心許せる相手が出来て俺たちも安心してるんだ』
涙が、零れそうになった。
歪んでいく視界をそのままに、ジャズのことをじっと見つめる翡翠。
ココに来るまでの間。
ココに来てから。
色んな話を聞いて、色んなオプティマスを知った。
あんなに知りたかった人のことのはずなのに、何故か心が痛くなったような気がしたのも事実。
…背負っているものが違い過ぎる。
生きている時間が違うのだろうことは知っていたけど、それよりももっともっと大きなモノに感じた。
それでも…オプティマスの側にいるとひどく穏やかで…今ではもっと側にいたい、とすら思ってしまっている。
ただ、自分でそのことに気付かないようにしていただけだ。
「……………」
そう考えると同時に、ジャズがそんな風に思ってくれているとは想像もしていなくて…
今なら、聞いてもいいだろうか…と翡翠は顔を上げた。
「私、良く思われていないのかとばかり…」
『…あぁ、あんなの聞かせちまったしな』
“何故、お前自身がこの娘を巻き込むような真似をする”
ジッと見詰めてくる翡翠を見て、ジャズは困ったように両手を上げる。
『気を悪くしたならすまないことをした。お嬢ちゃんのことを悪く思って言った訳じゃないんだ…あまりにもらしくなかったから、ヤツの真意が知りたくてな』
「…あの時、オプティマスさんは何て言ってたんですか?」
『なに?』
オプティマスが何か言ったのはわかったが、内容まではわからなかった。
聞いたこともない言葉だったし、声も小さかったように思う。
『驚いたな…聞こえていたのか』
「でも、内容とかは全然…」
『あれは俺たち故郷の言葉だ。わかるはずがない。むしろ、聞き取ったってだけでも驚きだな…俺たちの言葉は、この星の人間には聞き取りにくいらしい』
「そうなんですか…?」
目の前にしゃがみこむようにしていたジャズがゆっくりと立ち上がる。
オートボットの中では一番小柄だったはずなのに、こうして見るとやはり見上げなければ目を合わせることも出来ないくらい、大きい。
そんな彼が小さく息をついた。
『お嬢ちゃんのお願いは聞いてあげたいが…その質問には俺が答えるべきじゃないな』
意外な一言に翡翠は首を傾げた。
そんな翡翠にジャズは一言。
『いつか、オプティマスから直接聞かされる日が来るんじゃないかと思うぜ』
「どうして、そう思うんです?」
『さぁな…でも、俺の直感は鋭いことで定評があるんだぞ?』
腰に両手を当てて、そう言い切るジャズに何だか顔が綻んでしまった翡翠。本当に、優しい人だ、と思う。
こうして話をしているだけで、翡翠は確実に元気付けられている。
さっきまで色んなことが頭の中をぐるぐるまわっていたのに、明るさを絶やさない彼なりの励ましの言葉が胸に響いて…思わず視界が歪んでしまった。
『おいおい。好きな男以外の野郎の前で涙を流すのは反則だぜ?』
「ご、ごめ…」
『それに、お譲ちゃんを泣かせたなんてことがオプティマスに知れたら、俺がどやされる』
「ふ、ふふっ」
慎重な動作で頬を伝う涙をジャズの大きな指で拭われた時。心がすっと軽くなって、暖かくなって…気がつくと翡翠は笑っていた。
励ましてくれたジャズに「ありがとうございます」と言いながら、指で瞳の端にたまった涙を拭う。
胸の中に曖昧な形で膨らんでいく気持ちの正体が、今ならわかるような気がした。
(加筆・修正)
