第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『聞こえない言葉』
〜夕暮れの恋歌<18>〜
離れない視線に翡翠が少し居心地の悪さを感じ始めた時、当人であるラチェットがようやく静かに排気しながら、頷くように瞬きした。
『それにしても、不思議な引き合わせだ…いや、実に興味深い』
『ラチェット、先に言っておくが…いくら身近な人間とはいえ、翡翠で実験することは私が許可しない』
『………その辺は、理解しているつもりだ』
…え?
実験??何それ??
いや、それよりも…ラチェットさんの今の返答までの明らかな“間”はなに??
色んなことを考えつつ、そろそろ見上げている翡翠の首も辛くなってきた。
その時だった。
目の前にいたジャズがゆっくりと腕を組み、オプティマスに向き直る。
『このお嬢ちゃんが無事だったってのは、何よりも嬉しいことだが…やっぱりらしくないな、オプティマス』
『ジャズ…』
『他のヤツらもそう思ってるはずだぜ。無事だったのは喜ばしいし、会ってみたいとも思っていた。でもな、この娘はレノックスたちとは違う。軍人でもない、普通の人間の女なんだ』
『それは、分かっている』
静かにそう告げたオプティマスにジャズが続けた。
『分かっているなら、何故お前自身がこの娘を巻き込むような真似をする』
『……………』
沈黙が、広い室内を支配する。
口を出してはいけない雰囲気に翡翠もただ黙って、オプティマスを見上げることしか出来ない。
…巻き込む?
正直、言葉の意味がわからなかった。
その時、ふいにオプティマスの深いブルーのカメラアイと視線が合う。
「…オプティマスさん、?」
逸らせずにいる翡翠と目線を合わせたまま、動かないオプティマス。
間近でじっと見詰められたまま、翡翠は思わず首を傾げた。
…間違いない。
今…オプティマスが何か言った。
わかったのはそのことと…聞いたこともない言葉だった、ということだけ。
どうやら翡翠以外には通じているようで…ジャズは『…やれやれ』と呟きながら両手を上げている。
…何?
オプティマスさん、何て言ったの?
「……………」
言葉の内容はわからなかった。
でも、何故か胸が締め付けられるような感覚に陥って、翡翠は自分の胸辺りの服をそっと握り締めていた。
理由なんてわからないけど…
どうしてか、泣きそうになった。
…そんなこと言わないで…って思った。
説明なんて出来ない。
翡翠自身、聞いたこともない言葉で、もちろん内容もわからなかったのに…何故か、そう思ってしまったのだから。
何と声をかけていいかなんてわからないまま、オプティマスに向かって口を開こうとした時、
ふいに、軽快な音楽と共に少しノイズがかった声が聞こえてきて、驚いて顔を上げた。
『“さぁ、続いて参りましょう~!”』
「えっ?」
それは、まるでテレビの中のアナウンサーのような言葉だった。
思わずキョトンとする翡翠のすぐ側でオプティマスはいつもの様子に戻って頷いている。
『おぉ、そうだったな』
「え、なに?」
『翡翠、彼が我が軍の勇敢な兵士、バンブルビーだ』
「…えっ…」
『“よろしくお願いしま~す”』
またスピーカーを通したような声が聞こえてくると同時に、目の前で停車したままだった黄色いスポーツカーがガシャガシャと組み代わり、みるみるうちにロボットの姿へと変わっていく。
その様子を唖然としながら見つめつつ、翡翠はハッとした。
「っ、貴方、もしかして…」
どうりで、この黄色いスポーツカーにだけ何か気になるものを感じていた訳だ。
それが何なのか、今はっきりした。
バンブルビー…そう呼ばれている彼に、翡翠は会ったことがある。
それは本当に一瞬で…通りすがりにも満たない時間だったかもしれないけれど…
「あの時、オプティマスさんと一緒に…」
初めてオプティマス…いや、道路を走る大きなトレーラートラックに出会ったあの時、この黄色いスポーツカーはトレーラートラックの前を走っていたのだ。
翡翠の言葉に肯定するように頷いて、無言のままVサインを出しているバンブルビーにちょっと笑ってしまう。
今も緊張している翡翠を気遣い、和ませてくれようとしているのだろう。
全員の紹介も終わり、少しずつ緊張が解けていった様子で笑顔も見られるようになった翡翠。
穏やかな表情を浮かべている翡翠の横でオプティマスが静かに、その小さな存在をジッと見ていることに、この時の翡翠は気付かなかった。
(加筆・修正)
