第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『理由のない、けれど確かな安堵感』
~夕暮れの恋歌<16>~
中に入るなり、翡翠は思わずポカンと口を開けてしまった。
見たこともない光景が広がっている。
これが軍事施設、というものなのだろうか。
普段生活をしている分には、間違っても拝むことはないだろうモノばかりが目に入ってくる。
『珍しいか?』
「えぇ、とても…」
あの後、しばらくして復活した翡翠は今、オプティマスの手に乗せられたままダムの中を進んでいる。
ダム…というのは名ばかりで、大小様々な部屋があったりして、施設と言ってしまった方がしっくり来る気がした。
オプティマスが目的としている部屋までは少し距離があるらしく、トレーラーに乗って進むことも出来るがそれでは翡翠がまた酔うかもしれない、という彼の計らいで普段よりも随分高い位置から辺りを見回す、という今の形のまま移動を続けていた。
歩行しているにも関わらず、大して揺れを感じないのは彼の配慮と細心の注意あってのことだろう。
「オプティマスさんは…軍の関係者だったんですか?」
『そうだな、今はそういうことになるのだろう』
「そっ、か…」
何故か、ショックを受けている自分に翡翠は気が付いていた。
“軍”に抵抗がある訳ではない。
いつも気にかけてくれて、普段は普通の人と変わらない優しい軍人がいることはレノックスで証明されている。
そんなんではなくて…
「…私、本当に何も知らない」
オプティマスが何処から来たのか。
金属生命体、と言っていたがどのような生き物なのか。いつもは何をしているのか。本当に、知らないことがあり過ぎる。
…そんな風に考えていると、無意識のうちに胸が締め付けられるような感覚になった。
『翡翠、聞いているか?』
「っえ…あ、ごめんなさい。なに?」
ハッと顔を上げるとオプティマスがジッと翡翠のことを見つめていた。
『君が気に病むことはない。話していなかった私が悪かったのだ』
「聞いてもいいことなんですか?」
『翡翠になら構わないだろう』
間近で瞬きをするオプティマス。
パチパチ、と随分と聞き慣れてきた電子音が聞こえてくる。
『我々は国家機密となる存在だ。ココを居住の場とさせてもらうかわりに、彼らNESTと共にある残党を討伐している』
「NEST??」
『ある者たちに対する特殊部隊だ。レノックスはその指揮官なのだ』
「へぇ…」
『アイアンハイドから状況は聞いている。彼と古くからの知り合いだったとは驚いた』
「私も、すごく驚きました…」
まさかこんな身近で、彼につながるとは思ってもみなかった。
正直、次々と進む話についていくのがやっとの状態ではあるが、必死になってぐるぐると回る頭の中を整理する。
ほんの少しでも、彼のことを知りたい…たぶん、その一心だったんだろうと翡翠は思う。
「オプティマスさんには、仲間もいるんですか?」
『あぁ。勇敢で、信頼に値する者たちばかりだ』
「そう、なんですね」
『彼らにもいずれ君のことを紹介しなければ、と思っていたのだが』
「え?」
予想外の言葉に翡翠がキョトンとした表情を見せた。
本当に、表情がよく変わる。
そんなことを思い、心の中が穏やかになっていくのを感じながら、オプティマスは頷いた。
『あの時…“あの場”にいた君のことがずっと気掛かりだった。怪我をしていないだろうか、無事だっただろうか…と』
「そう、だったんですか」
『うむ。実は戦いが終わった後、引き上げる前にオートボット総出で君のことを探したのだ』
「えっ…」
オプティマスの言葉に翡翠は思わず自分の両手を握り締めていた。
そこまで気にかけてくれていたとは思っていなかったのだ。
あんな戦いの最中…偶然居合わせてしまった自分のことを、助けてくれただけでも十分すぎる程なのに。
瞬きも出来ずに固まっている翡翠の頭を大きな指でそっと撫で…オプティマスは小さく息を吐いた。
『だが…私が隠れさせた小さな路地に、君の姿はなかった』
「っ…」
『敵はメガトロン1人ではない。良からぬ事態になっていなければいいが…と、思わない日はなかったのだ』
「オプティマスさん…」
あの時…翡翠が最後に記憶しているのは赤と青の光と、大きなシルエットの“何か”に助けられた…ということだけだった。
そのまま意識を失ってしまったはずなのに、発見された場所は何故か少し離れた街はずれの路地裏だったとも聞いた。
どうやってあの場から逃げることが出来たのか、翡翠の記憶には一切残っていない。
そのことを伝えるとオプティマスはゆっくりと頷いた。
『経緯はどうあれ…君が無事だった。それが全てだ。本当によかった』
「…ありがとうございます…」
『あの時、翡翠を探し出そうと協力してくれたのは私の古き友たちだ。君と再会できたことも話してある』
翡翠はもう有名人だ…と。
オプティマスに最後にそう付け加えられて、嬉しいのと同時に何だか少しだけ恥ずかしくなった。
『後で紹介しよう。みなも心待ちにしているはずだ』
「あ、会わせてもらえるんですか!?」
『ああ、もちろんだ』
また、オプティマスが笑ったような気がした。
でも…
「私…大丈夫かなぁ」
『何がだ?』
「何かもう、色々と」
正直、彼の仲間に会うのはほんの少し怖かった。何て思われるのだろう…と。
状況は違うとしても、もしもまたアイアンハイドのように敵意を剥き出しにされたら?
嫌な考えを振り払うように、フルフルと頭を振った翡翠。
『大丈夫だ。みな翡翠のことを歓迎してくれるだろう』
「ホント?」
『私の大切な女性なのだ。みなも君のことを大切に扱ってくれる』
「…え?」
サラリ、とすごいニュアンスの言葉が混じっていたような気がして瞬きを繰り返す翡翠。
そしてすぐに、深く考えるな、と自分に言い聞かせ、頭を振った。
熱を持つ頬はごまかせないかもしれないな…と思いつつ、小さく息を付く。
それにしても…これで何度目だろう。
オプティマスの言葉には、どうしてこんなにも力があるんだろう。
彼の声を聞くだけで何故かひどく安心する。
「ご挨拶は、はじめまして…でいいんだよね…」
それでもやはり、迫ってきているであろう初対面を思うと緊張してしまう。
翡翠は、挨拶の第一声をブツブツと練習していた。
乗せられたオプティマスの手の上で…ちょこん、と正座をしながら。
(加筆・修正)
